第143話 ヒトガタ

「夏に新婚旅行? ライリーで?」

「はい、それがシエンナ様の希望です」


 王都から帰還して執務室にいるお父様とお母様に諸々報告中。


「まあ、これは断れないな。

今はまだ、観光名所的なのを期待されても困るが」


「せっかく楽しみにしていた新婚旅行で他に行けないとなると……仕方がないですわね」

「シエンナ様は侍女なども連れて来られるだろうし、使える部屋も多めに用意せねばな」


 両親とも、これは受け入れるしかないと判断を下した。


「最悪、プールでの水遊びと、おもてなし料理だけでも美味しければ満足いただける可能性はあります」

「確かに、うちには美味しい料理があるな」


「それと買い物に同行者がついて、錬金術師の所には行けなかったので、いっその事、この城に招待しても良いでしょうか?」


「ああ、錬金術師を呼びたいのか。構わないぞ、誰か騎士を迎えにやれば良い」


「では、ジーク。私はシエンナ様用に使えそうな部屋の確認に行って来ます」

「ああ、シルヴィア。頼んだ」

「はい」


 お母様が早速客室を見るため、執務室を出たら入れ替わりで家令が執務室に入って来た。


「恐れいります、旦那様、報告書です」


 何かの報告書を持って来たようだ。


「……各地の畑からの報告で、やはりワイバーンのおしっ……ゴホン。

アレが有ると植物の獣による被害報告は無いが、柵以外の対策無しの所は野菜を食われたりして獣害が出ているようだ」


 ああ、ワイバーンのおしっこ。

 いえ、黄金水の話ですか。


「やはり、植物が育つと、どこからともなく獣はやって来るものなのですね」


 せっかく出て来た新芽が食べられるのは辛いわ。

 私はお父様から受け取った報告書を確認しながらそう言った。


「本当だな。

仕方ないから、ワイバーンのアレが手に入るまでは柵を強化するか、どうにかして持たせて貰うしかないか」

「そうですね」


 * 


 部屋に戻って錬金術師に招待の手紙を書く。


 それと、殿下にお土産に貰った青い薔薇を亜空間収納から出して、自室内の祭壇と自分の机の上に飾った。

 うん、きっと神様も綺麗なお花を喜んで下さるでしょう!



 ヒトガタちゃんのデザイン画もスケッチブックに描いて行く。


 髪はミルクティー色、長さはロング。

 瞳はぱっちりと大きく、色は琥珀色で、まつ毛も長い。

 美少女で外見年齢は18歳位。

 胸は豊かに腰は細く、形の良いお尻で、足も長い。


 産まれて来て、自分は残念な容姿だと思わなくて良いように、可愛く魅力的に描いたつもり。


『ヒトガタのデザインが出来たみたいだね』


「リナルド! いつ妖精界から戻ったの?」

『さっきだよ。それで、色とかも決定で良いんだね?』


「正直琥珀色の瞳かアメジスト色の瞳かで、凄く悩んでるけど、髪の色に合わせて、琥珀色にしようかなって……」


『どちらも綺麗だと思うから琥珀色で良いのでは?』

「じゃあ、これで……!」


 私はスケッチブックのページを一枚破って、リナルドに渡した。


『仮に、クリスタルで上手くゲームが作れなくても、護衛には出来るから、もうヒトガタ師に発注するけど良い?』


「うん、ありがとう」


私が承諾すると、リナルドは祭壇前の魔法陣にデザイン画を、念力か魔法でふわりと浮かせて置いた。


『転送。ヒトガタ師へ』


 魔法陣が光ってデザイン画が目の前から消えた。


『これで受理されるから、ヒトガタが出来上がるまで、しばらく待ってね』

「分かったわ! ありがとう!」

『じゃあ、ちょっと僕今からもう一回、妖精界に行って来るね』

「そうなの。行ってらっしゃい」


 私は手を振って、魔法陣を使って転移するリナルドを見送った。


 * 


 さて、乙女ゲームはどんなシナリオにしようかな。

 ベッドの上に移動して、考えを巡らせる。


 ヒーローはやはり三人位は欲しいな。

 ルート分岐、切実に欲しい。

 ヒーローごとにシナリオの雰囲気を変える?

 ヒーローの髪色は? 金と銀と黒髪にする?


 ヒロインはピンク髪にする?ストロベリーブロンド。

 でもボブカットよりロングが良いな。私の好みだけど。


 クリスタルが入手可能なのは富裕層だよね。主に貴族。

 主役は貴族の令嬢にするかな。

 やっぱり男爵令嬢位が良いのかな。


 天災のせいで自領がダメージを受けて貧乏だけど、健気で優しい令嬢が主人公とかどうかな。

 ヒーローは17歳の王子様、17歳の騎士、年上大人の辺境伯の三人。


 ーーて、きゃーーっ!!

 年上の辺境伯とかあからさまに過ぎるかしら!?

 でも、国境付近とかを任されてる屈強な領主様ってドラマチックなお話が作れそうでは!?


 バタバタ!!


 思わず興奮してベッドの上で足をバタバタさせ、布団を蹴ってしまった。


「お嬢様!? どうしました? お行儀が悪いですよ!」


 ……いけない、バタバタしてたらお茶を運んで来たアリーシャに見つかった!


「えへへ、ちょっと興奮して」

「何故、突然そんなに興奮を」


 お父様と同じ「辺境伯」のワードにワクワクして興奮しました……!

 とも言えない。


「えっと、シエンナ様が夏に新婚旅行でライリーに来られるらしいの」

「まあ! それは大変ですね。淑女らしく上品にしていなければいけませんよ」

「そ、そうね」


「ギルバート殿下のお誕生日をこちらでお祝いする時にご一緒されると言う事ですか?」

「多分そうだと思うわ」

「ギルバート殿下への贈り物は靴……サンダルでしたか?」


 後は水着もね。


「そうなんだけど、サンダルに魔石も追加で付けようかしら。

御守り効果を付与する為に」

「男性とはいえ、王族の方ですから、石付きも華やかで良いのでは無いですか?」


「男の子のサンダルだし、最初は石とかない方が良いかなって思ってたけど、殿下がわりと事件に出くわす事を考えるとね……」


「では、サンダルに石を付けなくても、御守りを別に作るのはいかがですか?

剣の飾り紐とか」

「ああ、小説で御守りの飾り紐、出てくるお話を読んだ事があるわ。

良いかも」


 アシェルさんにもブレスレットを編んだし。


 殿下の御守り飾り紐の糸の色はどうしようかな。

 瞳の青と髪色の銀、それと紫が王族を表す色で狼煙に使っていたよね。

 この三色を使って編むかな。


 私はアリーシャの用意してくれた良い香りのする紅茶を飲んでから、

 亜空間収納から糸を出して、飾り紐を編む事にした。

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