第141話 ついに王城内へ
亜空間収納にお土産を突っ込んで金銀コンビの護衛騎士と共に、王都のキーン先生に本を返しに行く。
教会の転移門に着いて、驚愕した。
「え? なんで殿下が!?」
「出迎えだ」
「おかしいでしょう!? 私が本を返しに行くだけでギルバート殿下がお出迎えなんて」
転移した先で、側近と共にギルバート殿下に出迎えられてしまった。
「気にするな。安全の為だ。王城まで私がエスコートする。
王族と一緒ならここから一気に王城の転移陣へ飛べる。
教会から王城へは馬車で行ってもそう遠くは無いが、何かあっては大変だからな」
「気にしますよ! あ!
でも、殿下は絶対に家庭教師のキーン先生に会うでしょうから、殿下から本を渡して返していただくと言うのは?」
「駄目に決まっているだろう!
先触れまで出してて、キーンも最高級の茶葉でも用意して待っているだろうに」
「そんな!
本をお返しして、さっと帰って、買い物して帰るつもりの私に、歓待など必要ありませんのに!」
本を返したら秒で王城を出て買い物に行くつもりなのに。
「買い物? 何を買いに行くのだ? また市場か?」
「とりあえず、メイン、主な目的は生地屋ですけど」
「とにかく王城へは行かねばならない。約束なのだから」
本を返したいだけなのに大袈裟な出迎えにビビる私。
殿下めちゃくちゃカッコいい軍服っぽい正装をしてるし。
私も今日はちゃんと平民服ではなく、上品で綺麗なすみれ色のドレスを着ているけど。
ポイントはドレスの上に羽織ってる透ける素材の白いオーガンジーのケープ。
小さな布製のお花素材が裾に付いている。
防寒目的ではなく、見た目に春らしいふわりとした愛らしさが有る。
「私だけでも目立たないように、業者用の勝手口からこっそり城内に入って行けませんか」
「貴族の令嬢が何を言っているんだ。正門から堂々と入るしか選択肢は無い」
「でも殿下がお忍びで城下町に行かれる時も正門から堂々と出入りするのですか?」
「俺、いや、私の事は今はいい」
強引に誤魔化された!
うう、ライリー以外の、よそのお城緊張する。
結局逃げられぬ雰囲気で手を取るように差し出され、促された。
絶対にエスコートをすると言う気迫を感じた。
魔法陣が光って王城の転移陣へ転移した。
そこは王城内の礼拝用の神殿のようだった。
「あ、本当に来た。猫ちゃん、じゃなかった! セレスティアナ嬢だ」
「本当! 記録の宝珠で見たけど、やっと本物と会えたわ! 何て愛らしいのかしら!」
きゃ────っ!?
シエンナ様と第二王子のロルフ殿下までいる──っ!!
「あ、姉上と兄上まで!? 何故ここに!?」
「セレスティアナ嬢が王城に来ると聞いて公爵家の転移陣から飛んで来たのよ!
初めまして、シエンナよ。気楽に名前で呼んでちょうだい」
シエンナ様って超気さく! てか、新婚さんが何をやっているのです!?
いえ、ともかくまずは挨拶だわ!
「グランジェルド王国の第二王子殿下と、エーヴァ公爵夫人、ライリー辺境伯の娘。
セレスティアナ・ライリーでございます。お会いできて恐悦至極に御座います」
私はカーテシーで貴族らしくご挨拶。
シエンナ様の結婚相手のルーク様は既にエーヴァ公爵となって、爵位を継いでいるから、シエンナ様は既に公爵夫人で良いのよね。
「まあ、堅苦しい挨拶はもういいわ。キーン先生に会いに来たのでしょう?」
「私、お借りした本を返しに来ただけなのですが……」
「さあ、さあ、行きましょう!」
挨拶の為にギルバート殿下が私の手を離した隙に、シエンナ様は私の手を取ってずんずんと歩いて行く。
呆気に取られるギルバート殿下とその側近達。
は! 豪奢なサロンに通されたと思ったら、既に茶のセッティングがされている!
「キーン先生、お借りしていた本を返しに参りました」
速攻用件を済ませて買い物に行きたい!
「読んだ後に写本をされると聞いた気がしましたが、随分と早かったですね」
「ロルフ殿下が記録のクリスタルを下さったので、一旦そこに記録して、後でゆっくりと書き写す事に致しました。何しろ貴重な本ですから、早く返却した方が良いかと」
「なるほど、そんな使い方が。
そこまで急いでいませんでしたが、セレスティアナ嬢は誠実な方ですね」
人様のお宝本はなるべく早めに返却するに限るからね。
「俺のあげたクリスタルが役に立ってて良かった」
「はい、ロルフ殿下。大変良い物をありがとうございました」
あ、ギルバート殿下の眉間にシワが。
ちょっと不機嫌になってしまっている気が。
「とりあえず、お茶をどうぞ」
「先生、ありがとうございます。これはお土産のシュークリームです」
亜空間収納から箱に入れたシュークリームを出した。
「ライリーの甘味は大変美味しいので嬉しいです」
キーン先生がおやつに喜んで下さったのは良いけれど、このまま王子2人に公爵夫人まで同席したままおもてなしされてしまうのか、私。
恐れ多い。
「では、せっかくですから、お茶を一杯いただきますね」
せっかくお茶の用意をされてるけど、貴族トークは分からないから長居は厳しそう。
好きなジャンルが被りでオタトークなら付き合えるかもしれないけど。
「おや、お急ぎですか?」
「こ、この後は買い物の予定がありまして、申し訳ありません」
でも、先生も色々とお忙しいでしょうし!
前もって本を返したらすぐに帰るって伝えているはずだし!
「では、私もその買い物に付き合うわ。
セレスティアナ嬢には色々と良くして頂いているし、もっと一緒にいたいわ」
「私も同行する」
私がこの後の予定をバカ正直に答えたら、シエンナ様とギルバート殿下が同行を申し込んで来た。
「あ、俺も──」
「ロルフ殿下はお仕事が山程溜まっております。さあ、参りましょう」
「え、あっ!?」
ロルフ殿下は買い物に同行しようとして側近に連れて行かれた。
彼には大変申し訳無いけれど、王族の目立つ連れが一人でも減ってくれた事に、私は少なからず安堵した。
先生は連行されたロルフ殿下を視線で見送りつつ、苦笑している。
お土産のお菓子は侍女がセッティングしてくれて、毒見係が毒見を終えた。
「お土産のシュークリーム、とても美味しいわね」
シエンナ様が美味しそうにシュークリームを食べている。
美人系だけど夢中で食べてる姿が愛らしい。
華やかな赤髪の美女なんだよね。
本日のドレスはグリーンで、薔薇の花のように赤い髪を引き立てている。
「そうですね。美味しいです」
「ああ」
キーン先生がそう言うと殿下も頷いた。
「こちらのカナッペも美味しいですね」
「セレスティアナ嬢のお口に合ったなら、何よりです」
私からも褒めたら、先生は柔らかく微笑んだ。
クラッカーにチーズやナッツなどがのっていて本当に美味しかったのだ。
皆、美味しそうに食べていて、それは良かったけど……
「シエンナ様、私が行くのはただの生地屋ですが、本当に同行されるのですか?」
「ええ、せっかくだから、私も何か買って行くわ」
マジですか──
と、とりあえず、せっかくギルバート殿下に会ったから、渡しておきたい物がある。
「あの、ギルバート殿下。今更ですが、こちらも壊血病の予防対策に良い物です。
ザワークラウト、キャベツを塩でもんで乳酸発酵させた物です」
「そうか、分かった」
私はローズヒップ以外にも手軽に作れそうなザワークラウトを亜空間収納偽装風呂敷から出して、瓶入りを数個サンプルとして渡した。
「壊血病といえば、例の施設で続々と治療の効果が出ているらしいわね。
お父様。国王陛下が、ギルバートにご褒美を下さるらしいわよ。おめでとう」
「褒美ですか?」
「壊血病で苦しむ多くの患者が救われるから、勲章を下さるそうよ。
更に専属の竜騎士を好きなタイミングで三人選んで自分の騎士に出来るとか聞いたわ」
勲章と竜騎士! へー! 凄い!
「知りませんでした。竜騎士までも賜れるとは」
「ギルバート殿下、おめでとうございます。名誉な事ですね」
「ギルバート殿下、おめでとうございます。民衆の支持率、王家の名声値が上がりますね」
「……皆、ありがとうございます」
キーン先生が殿下を褒め称え、私も便乗してお祝いを言った。
おっと、名声値とかゲーム風の言い方しちゃったかな。
でも壊血病治療の情報源はそもそもは私からなので、殿下はぎこちない笑顔で複雑そうにしている。
ごめんなさい!
それにしても、勲章を貰う本人の殿下より、お嫁に行ったシエンナ様の情報のが早いのは何故なのかしら。
やはり国王陛下や王妃様との親密度の差だろうか……
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