第139話 小悪魔注意報

 昼からドワーフの鍛冶屋と家具職人の元へ行く。

 今日の私のコーデはフード付き外套と、中身は街娘風の茶色のワンピース。

 同行者の護衛騎士2人は腰に剣が有るので冒険者の剣士風コーデ。


 今回の護衛はローウェとナリオを連れて行く事にした。

 先日のエーリレフ行きの同行志願ジャンケン勝負では、負けて留守番だったので。


 先にドワーフのおやっさんの所に行く事にした。

 念の為に変装の魔道具で髪と目の色は茶色のアリアカラーで行く。

 私はローウェの馬に同乗させて貰って、馬で行く。


 * *


 ドワーフのゴドバルさんは多忙だとぼやいていたのに、ウイスキーとワインの差し入れで上機嫌になった。


 私はせっかく来たついでだと、聞いてみた。


「食料保存の為に、冷たい温度を保てるような金属は無いかしら?

箱型の氷室のような物を作りたいの」


「お前さん、次から次へと、どんだけ新商品を作るんじゃ。

全くとんでもない嬢ちゃんじゃ」


 ゴドバルさんはつべこべ言いつつも、「ちょっと待っとれ」と言い、奥の部屋に移動し、ややして戻って来た。


「魔法で作られた合成金属のインゴットだ」


「再度申し訳ないのだけど、冷蔵庫用の箱にはめ込める様に、その金属で長方形の箱の手前だけ物を出し入れする為に空いてる形の物と、扉の内側に使う長方形の板が欲しいの。設計図と寸法はコレ」


 カバンから設計図を出して渡した。


「それならそうと先に言え」


 ゴドバルさんはそう言うと、再び奥の部屋に行った。

 ごめんなさい。脳内でテヘペロしとく。


 既にあったらしい同じ合成金属で出来た板を持って来て、希望のサイズをささっと作ってくれたので、亜空間収納にしまっておく。


「凄い、めちゃくちゃ仕事早い」

「このくらいは朝飯前だ。難しい構造じゃないからな」


 私はゴドバルさんを褒めちぎりながら、冷蔵庫分の謝礼を亜空間収納から取り出して渡した。


「じゃあこれ、お金と、お礼のお魚の燻製。酒のお供にすると良いと思うの。

あ、燻製は軽く炙って食べると美味しいからね」


「おお、そいつは美味そうだ! ありがとよ!」


 ゴドバルさんは嬉しそうにガハハと笑った。


 * *


 次に家具職人の工房へ移動した。

 工房に入るなり、木の香りがした。

 落ち着く香りだ。


 並んでいる商品の家具を見るに丁寧な仕事で、なかなかの腕だと分かる。


 ここはお初の場所なので、大人のナリオに代理交渉をして貰う。

 私はフードを目深に被って、静かにしている。

 設計図等は事前に渡してあるし、なんとかなるでしょ。


「店主。家具の注文をしたいんだが」

「はい、どんな家具でしょう?」

「水に濡れても大丈夫で、寝た状態でくつろげる椅子と、扉付きの棚だ」


 ナリオはそう言いながら、椅子のラフ画と冷蔵庫の設計図を渡す。


「……お客様、なんで水に濡れた状態で椅子で寝ようとするので?」

「泳いだ後に軽く体は拭くんだが、完全ではないし、水辺に置くんだ」


「う──ん、扉付きの棚は装飾無しなら数日でできますが、椅子の方は多少お時間がかかりそうです」


 ナリオが私の方を見て確認を求めているので、こくりと頷いて見せた。


「多少時間がかかっても、出来るならそれで構わない。

納品先はライリーの城だ、出来上がったら、連絡をくれ」


「なんと! お客様はお城の騎士様でしたか。じゃあ、この依頼主はもしや」

「貴族だ」


「いやはや、濡れたまま椅子で寝たいなんて、お貴族様の考える事は平民の私には分かりませんな」


 ははは、ごめんね、変な依頼をして。


「世にも美しい人が使うのだから、ササクレなど無いように、丁寧に仕上げてくれ」


「世にも美しい……あ! ライリーの領主様の奥様は絶世の美女だと聞きますね! 

ええ、それはもう、うちは丁寧がモットーですので!」



 *


 家具屋に仕事を頼んだ後に、冒険者の酒場を見つけた。昼の間は食堂になるようだ。

 ファンタジーゲーム好きの私は冒険者の酒場を見ると条件反射的にワクワクしてしまう!


「あそこ、あの食堂に行きたい!」

「いけません、あそこは酒場です」

「でも昼は食堂って看板に書いてある」



 私は食堂兼酒場と書いてある看板を指差した。



「ガラの悪いのがいます」

「お願い、お兄ちゃん!」

「「お兄ちゃん!?」」


 平民の妹のふりだよ──。

 どう? 甘える演技も可愛いでしょう?



「お兄ちゃん達、連れてってくれたら、お膝に乗ってあげる」

「なっ!!」



 あからさまに動揺するローウェ。



「き、騎士たる者、そんな誘惑に、釣られる訳には」



 まだナリオも理性と戦っている。



「お膝に乗る私、可愛いのに。頭も撫でて良いよ」



 追撃!!

 自分で可愛いとか言ってしまう。まあ、本当の事だから良いよね。



「「う……ぐ……!」」


 護衛二人の理性が揺らいでいる……!!


「いや、護衛として……、やはり」



 ──ポツリ。

 

 その時、頬に触れたのは天の助け──!!



「雨だわ! 早くお店で雨宿りしないと、風邪ひいちゃう!」

「「ああ〜〜っ」」



 顔が青くなる2人の騎士。



「これは不可抗力だから、天気は仕方ないから! ね! お兄ちゃん達!」

「まあ、俺達が完璧に守れば良い事だよな」



 ローウェは雨を見て先に諦め、そう言った。

 ナリオもため息と共に諦め、2人はしぶしぶ食堂に入る事を同意したのだった。

 程なくしてざ──っと激しい雨が降った。



「ほら、間一髪だった」


 そう言って私は店内の「椅子の上」に座っている。


「「膝の上とは何だったのか……」」


 2人はショボンとしている。



「天気が崩れる前に素直に聞いていれば、ご褒美タイムだったのに」

「「見た目が天使なのに何故たまに小悪魔になるんですか?」」



 2人の怨みがましい視線と言葉を無視して、私は赤毛ロングの色っぽい酒場のウエイトレスに声かけて、料理をオーダーする。


 周りを見れば客席はほとんど埋まっていて、活気が有る。

 どうやら人気店のようだ。


 色っぽいウエイトレスのお姉ちゃん目当ての男だけじゃない、女性客もちらほらいるから、料理の味にも期待が出来るのではなかろうか。



「この店のおすすめを下さい!」

「はいよ!」


 出てきた料理はステーキだった。

 肉自体が美味しければ単なる塩味でも美味しいはず。



「あ! 美味しい!」


「そうだろう、可愛いらしいお嬢ちゃん、ここの店主の実家が肉屋だから、

新鮮な良い肉を格安で入手出来るんだよ」


 ウエイトレスがウインクをしながら自慢げに言った。

 て事は、ほぼ、お肉屋さんのステーキだ。

 大当たり!


 なお、食事中なので流石に私もフードは脱いでいる。

 なので、目立つ容姿の私は周囲からじろじろ見られている。



「何あれ、あの茶髪の女の子、めっちゃ可愛いんだが」

「抱っこしてえ」

「ちゅっちゅしてえ」


「俺もあんな娘か妹が欲しい」

「わはは! お前には無理」

「何でお前は俺の夢と希望を即座に打ち砕くわけ?」


 などと言う声が聞こえた。

 護衛2人がぎろりと周囲に睨みを効かせる。

 

 護衛騎士と周囲の冒険者達の客がメンチきり大会をしている傍でステーキをもぐもぐする私。

「お兄ちゃん達も食べたら?」


 私にはステーキの量が少し多かったので2人に残りを渡す。 

 残すよりは多分良いはず。


「「は、はあ……」」


 私のお兄ちゃん呼びにまだ照れているイケメン2人。


 そうして、私達は冒険者の酒場のお食事を満喫し、通り雨が止んだあたりで、城に戻った。

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