第138話 代理の作家
「ねえリナルド、分身の術とか知らない?」
朝食後に自室のベッドの上でゴロゴロしつつ、リナルドを撫で回しつつ、私は問うた。
『何いってんの、ティア』
「じゃあ、秘密厳守出来る人型の妖精の知り合いとかいない?」
『動くヒトガタと言われる生きた人間にそっくりな人形なら、連れて来れない事もないよ』
「え!? 本当!? 動くお人形? アンドロイドかホムンクルスみたいな!?」
『まあね。
ただし、年始のお祝いの楽しんでた壺ガチャ、新年初日の残り一回で終わるよ。
人形にリソースを割くからね』
「え!? むしろ、まだ貰えるの!? 服二着で相当凄いの貰ったけど」
『まあ、あと1、2回位はと思っていたようだよ』
神様が!?
「リナルドってただの妖精じゃ無いのでは?」
『そこは今、気にしなくていいよ。それより、欲しい人型の特徴を絵に描いてごらん』
めっちゃ話を逸らされて、リナルドは机の上に飛んでいって、スケッチブックを示した。
「え!? 好きなようにデザイン出来るの!? 凄い!
てか、私がゲーム作りをするのに、自分でシナリオを書くのだけど、名家の令嬢としてそれは都合が悪いから、ちょっと表向きのシナリオライターが必要なの。
私の代理のような事をさせても嫌がらない?」
『基本的にお人形だから、主になるティアの思う通りにデザイン出来るし、指示通りに動くよ。
嫌がる事はないから大丈夫』
「何とありがたい存在なのかしら。ところで、文章を書いたり、絵を描いたりも出来る?」
『人の深い感情を書いたりする文章は考えられない、誤字脱字を見つける校正は可能。
絵は見本が有れば、主たるティアの絵と同等位は描けるよ』
「映像とか資料、見本が有れば、背景とかは描けるって事?」
リナルドは頷いた。
やったわ! ゲームには背景もそこそこ必要だしね。
写真そのものを使える場面と無理な場合もあるだろうし。
「ありがとう、とっても助かるわ! 自分好みの子をデザイン出来るなんて夢のようだわ」
『でも、この城に呼ぶとして、両親や周りの人にはどう説明するの?』
どう……説明?
あ、なんで急に知らない人を連れて来たのかって事か。
「ええっと……あ! 女騎士!
リナルドの紹介で異世界から女騎士を護衛に雇ったみたいにすれば良くないかな?
女騎士って、数が少なくてこっちで探すの大変だから。
それに偶然、文章を書く才能もあったとかいう設定で」
『女騎士ね。じゃあベースを戦闘タイプのヒトガタにして貰うか』
「……ベースが神絵師ってのはないの?」
『だから特別な感性が必要みたいな繊細な芸術系は無理だよ。
強健、俊敏、などの戦闘タイプはわりと素材でどうにかなるけど』
やはり、神絵師なんてそこまで上手い話は無かった。
いや、十分上手い話だわ。好みの女騎士ゲット出来るんだし。
まず、おっぱ……お胸は大きくて、髪の色はーー何色にしようかな。
蜂蜜色の髪? 銀髪? 優しいミルクティー色?前世で馴染み深い黒髪?
あーー、迷うな。
あんまり美しくすると、うっかり惚れてしまう人が出たりして大変かな。
でもせっかくデザインして側におけるなら綺麗で可愛い子が良いし。
いっそ乙女ゲームのヒロインっぽくストロベリーブロンドとか。
うーん、悩む。
『まだクリスタルでゲームが出来るか、錬金術師に相談もしてないし、悩むなら、デザイン画はゆっくりでもいいよ』
「そうだった! まだ相談もしてない! ドワーフのおやっさんにお酒も渡しに行かないと!
椅子の依頼も! 先に大理石ゲットに行ってしまったんだわ!」
あ!
せっかく他領に行ったのに、市場にも行くの忘れてた!
もったいない!
それと夏までに冷蔵庫も、もっとちゃんとしたの作る予定なんだった。
とりあえず冷蔵庫の内側の棚部分に敷く物を、固める樹脂を使って作る。
水っぽい物をこぼしても拭きやすい、ツルッとした板のような物。
樹脂を硬化させてる間に別の作業をする。
椅子のラフデザイン画を2種類描く。
ラフだけど……何となく分かって欲しい。
細部は……職人さんの創意工夫で仕上げて欲しい。
プロの家具職人なら、きっとなんとかしてくれるはず!
ドワーフのおやっさんのとこに冷気を逃さず、温度を保ちやすい金属とかあるかな?
とりあえず、使用人を呼ぶ。
そしてドワーフへの差し入れ用に先日のお土産の樽ワインを数本分、瓶に移すよう指示をする。
ワインの赤と白で2本と、小さめの瓶にウイスキー1本。
合計3本を渡す予定。
あんまり一度に沢山渡しても、飲んでばかりで作業の手が止まりまくるのもよろしくない。
ほどほどに。
酒好きはあなどれないからね。
*
「お嬢様、厨房の者からお昼の要望があるか聞かれました」
おっと、もうそろそろそんな時間か。
アリーシャの問いにちょっと考える。
「えっと、お昼はジンギスカンにしようかな。
せっかく羊肉を沢山貰ったし。厨房で説明して来るわ」
* *
厨房に移動。
「ジンギスカンのタレは蜂蜜、すり下ろしりんご、味醂、醤油、生姜、ニンニク、砂糖、お酒。で作って」
「はい、お嬢様」
「そしてそのタレでお肉を焼き、お野菜を追加して。
お野菜はもやし、たまねぎ、にんじん、ピーマン、キャベツ。
その後、茹でたうどんを追加ね。
お野菜とお肉の旨みがたっぷり染み込んだ焼きうどんを作って」
「分かりました」
うどんの作り方は既に伝授してあるから、楽しみ。
* *
お昼、食堂にて両親と弟と食事。
「羊肉をエーリレフ侯爵様に沢山いただきましたので」
「うん、これは美味しいな」
「いい味がついていますね」
よしよし、両親はこの味付けで気にいってくれたみたい。
「ウィルも野菜とお肉の旨みが染み込んだ焼きうどんなら美味しく食べられるでしょう?」
「ん!」
ふふ、可愛い。
ウィルも焼きうどんをもぐもぐ食べている。
「お父様、お母様、午後から家具職人の所とドワーフの鍛冶屋に行って来ますね」
「気をつけて行くんだぞ。護衛の騎士の側を離れないように」
「はい、お父様。あ、護衛と言えば、リナルドがそのうち、知り合いの女性騎士を紹介してくれるそうです」
という、設定……。
「そうなのか? 良かったな、女性の騎士は少ないから助かるな」
「妖精国の妖精騎士なの?」
「え? 人間じゃないのか?」
「た、多分人だと思います。
ちょっと今、リナルドは部屋で寝てるので」
「リナルドが起きたらきちんと聞いておきなさいね。そもそも妖精の国の騎士だとしたら何を食べるのかとか」
「はい。お母様」
そう言えば、お人形ってご飯は食べられるのかな?
人間そっくりなら普通に食事すると思ってたけど。
リナルドが起きてきたら聞いてみよう。
リナルドはほとんどが私のそばにいるけど、たまに寝床で寝ていて私の部屋から出て来ない時と、ふらりと妖精の森に帰ってる事がある。
リナルドはエーリレフ行きにもついて来ず、妖精の森に行っていた。
まあ、たまには実家? の森に帰りたいのだと思う。
一体、どんな所なんだろう。
幻想的で綺麗な森なのかな?
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