第136話 大理石が欲しい

「ウィル、美味しい?」

「ん」


 朝食に肉まんを作って弟に食べさせてみた。

 肉まんなら、熱々を避けて、半分くらいなら弟も食べられる。


 皮の部分もふわふわと柔らかいし、はむはむと、食べる姿が愛らしい。


「これ、美味しいな」

「本当に、外側はふわふわで、中は美味しいお肉が入ってるのね」

「お父様とお母様にも気に入っていただけて嬉しいです。

そのままでも味はありますけど、酢醤油を付けても美味しいですよ」


「おかわりがあって良かった。……うん、美味しい。」

「まあ、本当。美味しいわ」


 今度は酢醤油を付けて食べている両親。


 これだけだと大人は足りないだろうからサラダチキンとスープもある。

 ──ホクホクと温かい肉まんは美味しいなあ。


 * *


 よし、久しぶりに肉まんを食べて充電したので、土魔法でプールを作る。

 練り上げた魔力を使って形を成していく。

 ボコリと大きな穴が空く。

 長方形に整える……。



 少し離れた場所に、噴水と、子供が遊べる浅い部分も作る。


 そして崩れないように、……硬化!


 プールが立派に使える感じなら、いずれ治水工事も手伝えるはず。


 うーん、プールサイドは大理石みたいな綺麗な石を敷き詰めたいな。

 見栄え良く。

 お高いかしら……。


 自分で石灰岩産地まで行って取りに行けば、亜空間収納で楽に運べる。

 うーん、遠方への移動は許されるかしら。


 壁は、まだ後から作ろう。

 とりあえず疲労回復にポーションを飲む。


 よく考えたら目隠しが出来るならば、全部を土や石壁でなくても一部は緑、植物でも良いのでは……?

 大理石のような綺麗な化粧石の他に、目隠しに良い植物も探してみよう。


 それと、プールサイドや海でよく見る、デッキチェアだかビーチチェアとビーチパラソルも欲しい。

 あ、ビーチパラソルはガーデンパラソルと同じでいいのか。

 カフェでよく見るタイプと同じでもいけるかも。

 この城のテラスにも有る。


 椅子はどこかの家具職人発注すれば良いのかな。

 出来ればライリー内で経済を回したい。

 とりあえず、デザイン画を描いて、どこかの工房に持ち込む。


 裏庭スペースで色々と考え事をしていると、アリーシャが声をかけて来た。


「お嬢様、音楽、楽器の勉強の時間です。指示通り祭壇の間にハープを移動させておきました」


 本日、昼食前の授業は音楽。私の先生はお母様。


「お母様、お待たせしました」

「ティア、本当にここで、祭壇の前で練習をするの?」

「お母様のお手本のハープはとても美しいので、神様もお聞きになりたいかと思いまして」

「奉納と練習は違うでしょうに」


「私のはただの練習でも、お母様は奉納のつもりで弾いて下さい」

「……分かったわ」


 美しく優雅な白いドレスを着た絶世の美女のお母様が、ハープを祭壇の前で奏でる。

 窓からは、午前の光が差し込んでいる。

 お母様の青銀色の髪がキラキラと輝く。


 その麗しい姿をクリスタルで撮影する。

 奏でられる音色は、天上の調べの如く麗しい。


 祭壇の間は、城の使用人達も入れるから、いつの間にか音を聞き付けた使用人や騎士達が現れて、聞き入っている。


 お母様のプチコンサートみたいになった。


 皆と一緒にうっとりと聞き惚れつつも、しっかり撮影しちゃった。

 曲が終わると、拍手が鳴る。

 

「コホン。次はティアの番ですよ」


 軽く咳払いをして、やや照れた様子のお母様である。


「もう今ので満足して、私の気は済んだのですが」

「何を言っているの、ティア。私の演奏会ではなく、貴女の音楽の授業なのですよ」


 ……やっぱり、私も練習しないとダメですか。

 ギャラリーの方を向いて、私は口を開いた。


「今から私の練習なので、貴方達は仕事、持ち場に戻って下さい。

見られていると、緊張するので」


「「はい」」

 まだ演奏を聞きたかったのか、ガッカリした様子の使用人達を追い払う私。


「あ、お嬢様! 朝食の肉まんとやら、美味しかったです!」

「あ! 私も! 美味しかったです! いくつでも食べられそうでした!」


 去り側に肉まんの感想を言ってくれたのはナリオとレザークだった。


「ええ、分かったわ。たまにおやつにも出して貰うから」

「「はい! 嬉しいです!」」

 


 使用人と騎士達を移動させ、私とお母様とアリーシャだけが残った。


「見られていても正しく演奏出来るように、人前で練習しても良かったのではないの?」

「そ、それは、大勢の前での演奏は私にはまだ早いので……アリーシャは残っていますし」

「仕方がないわね。じゃあ、練習をはじめて」

「はい、お母様」



 40分くらい練習して、音楽の授業は終わり。


「お母様、そろそろお昼ご飯の時間です」

「そう。今日のメニューは何かしら?」

「ロールキャベツです」


 本日は私が指示したメニューで、ロールキャベツは何度かこの城でも作っている。


「ああ、私の好きな料理だわ、ジークも好きだと言っていたけれど」

「美味しいですよね、私も好きです」


「そういえば、ロルフ殿下へのクリスタルの御礼のお手紙は出したの?」

「大丈夫です、朝イチで出しております」

「なら、良いわ」

 

 * *


 昼食にロールキャベツを美味しくいただきつつ、お父様におねだり。


「お父様、デザイン画が完成したら、木工職人の工房へ行きたいのですが」

「また新商品か?」


「別にこれは売り物にしなくてもいい、自宅用、いえ、この城で使う椅子と、カフェテラスで見るような大きなパラソルです」


「大きなパラソルならこの城の庭にもあるぞ。

茶を飲むテーブルの側にある、ガーデンパラソルと同じでも良いのではないか?」


「それを別の場所でも使うので追加で4つくらい注文をお願いします」

「あれを4つか、分かった。椅子の方は特殊な物か?」


「はい、横になれる椅子4つです。後で執務室にデザイン画を描いてお持ちします」

「分かった」


 昔と違い、今なら資金が用意出来るからか、わりとすんなり要求が通った。



 その後、自室でデッキチェアのデザイン画を描いてから執務室へ移動。

 お仕事の書類と混ざらないように、デザイン画をテーブルに置いた。

 

 お父様はお仕事用デスクからソファに移動し、長い足を組んで、デザイン画を手に取り、確認する。

 座って紙持ってるだけでかっこいいわ!


「ほう、こういう形か。布地を使ったのと、やけに隙間の有る木製の椅子の2種類もか」


プールから上がって、体から滴る水が落ちる、隙間の有る物と、ゆったり寛ぐ為の、布を張った体が痛くないタイプの二種にした。


「椅子の依頼のついでに、私の依頼のせいで多忙なドワーフの鍛冶屋さんにも追加のお酒を届けたいと思っています」


「ミシンのパーツの他に馬車の座面のスプリングコイルで多忙を極めているから、確かにご褒美がいるな。アシェルと護衛の騎士を2人くらい付けて行きなさい」


「はい、お父様、ありがとうございます。

所で、大理石が取れる地域に旅行とかって、無理でしょうか?」



 バタン!!


「大理石が何だって?」


 出た。

 扉を開けて突然現れるエルフのアシェルさん。

 彼は流れる用にソファの前に移動し、私の横にストンと座った。


「ティア、さっき木工職人の所だけじゃなく、大理石の取れる地域に旅行に行きたいとか言ったか?」

「はい、お父様。言いました。大理石が欲しいです」

「大理石の取れる地域には心あたりが有るよ。現地に行けば安く買える」

「流石アシェルさん! 長生きで物知りですね!」

「まあね」


 アシェルさんは得意げに笑っている。


「んー、そこは遠いのか?」

「エーリレフの地だよ。神殿か、領主の館の転移陣を使わせて貰えば良いと思う」

「はあ、また遠出か」

「私が護衛と案内をするから大丈夫だよ」


「仕方ないな。エーリレフの領主に連絡と許可を取って、神殿に依頼して転移陣を使わせて貰うか」


 やった──っ!!

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