第132話 緊急帰国の理由
〜ギルバート殿下視点〜
「ちょっとギルバート! ロルフ兄様の事、聞いた!?」
第二王子ロルフは隣国のリリアーナ姫に惚れ込んで長い事留学していた。
それがようやく帰国した。
ただし、現在、体調不良で臥せっている。
「ロルフ兄上があちらで体調を崩していたのをこちら、本国側に隠していたらしいと言う事なら」
姉上、シエンナ王女が血相を変えて俺の自室に来たと思ったら、俺の側近以外の、侍女達を部屋から出した。
人払いをするとは……只事では無い。
「体調を崩した原因聞いた?」
「いいえ」
「表向きは秘密なんだけど、恋敵によって手袋に毒を仕込まれていたのですって」
「手袋に毒?」
側近達にも衝撃が走る。
室内に緊張がみなぎる。
「そうよ。口に入る飲み物や食べ物は警戒してても流石に手袋に毒を仕込まれるなんて予想外過ぎたんでしょう」
「毒なんて……兄上は大丈夫なんですか?犯人は捕まったのでしょうか?」
「毒消しは飲ませているけど、まだ弱ってるみたい。
占い師によると、なんでも毒のみならず、呪われているらしいの。
ちなみに犯人は捕まっていないわ」
「占い師は犯人の特定までは出来ない感じなのですか?」
「占い師の言葉によれば、ロルフ兄様の恋が実って無かった原因と言うのが、リリアーナ姫の男性恐怖症らしいのよ。
侯爵家の四男の一方的な恋慕と暴走だと占い師は言ってて、ロルフ兄様はリリアーナ姫をこれ以上怖がらせたくないという事と、大騒ぎして二国間に亀裂を入れたく無いとかで、断罪してないの」
「兄上は慈悲深い人なんですね。殺されかけたと言うのに」
「ロルフ兄様は、キリっとした目付き鋭い系の男前な外見だし、あまり優しそうには見えないけど、思いの外、純愛の人だったのね。私も驚いたわ」
「自分が惚れた姫を怖がらせたく無いのは分かりますが、その侯爵家の四男という、危険人物は野放しにしていて大丈夫なのですか?
手袋の証拠品とかは残っていますか?」
「物的証拠は消されてたらしいわ」
「当然でしょうが、悪辣ですね」
「我が国の王族をなめてるわよね」
「……王妃様のご様子は?」
「お母様はあまりの事に、泣いていらしたけど」
「……バタバタしてて忘れていました。ライリーからのお土産のケーキです」
俺は亜空間収納の魔法陣付きの布からフルーツケーキが入っている箱を出した。
「これを食べたら、ロルフ兄様とお母様も元気が出るかしら?」
「試してみても良いのでは? 私の分はライリーで食べて来たので、どうぞ、お構いなく」
「そう、ありがとう……。ライリーのケーキなら、なんかの加護がありそうなので食べさせてみるわね」
姉上が珍しく、しおらしい笑顔だ。
「あ、それと兄上の分のエアリアルステッキも預かって来ました」
これも亜空間収納から出した。
「侍女を呼び戻して運んで貰うわ」
* *
姉上が侍女と一緒にケーキとステッキを持って部屋を出た。
「……やれやれ、大変な事になっていたのだな」
ソファの背もたれにぐっと身体を預けた俺の呟きに反応し、リアンが口を開いた。
「ロルフ様が早く回復されると良いのですが」
「そうだな……」
* *
二時間くらい経って、また姉上が俺の部屋に来た。
「お母様が泣きながらあのケーキをロルフ兄様に食べさせたんだけど、兄様の体から黒いモヤみたいなのが出ていって、急に元気になったわ!」
「そ、そうですか、それは何よりです」
──やはり凄いな、セレスティアナのくれる物は。
「あのケーキにも神様の調味料が入っていたのかしら?
凄い威力だわ。相変わらず、とっても美味しかったし」
「入っていたかもしれませんね」
「ロルフ兄様がライリーに御礼に行くって言ってるわ。
ステッキも貰ったし」
「は!? お礼状を出すではなく!? 病み上がりなのに!?」
「もう、すっかり元気になったからって」
「何か別の意味で嫌な予感が……」
「ギルバート、どうするの?」
どうするのって……困った。
──無理矢理、俺もライリーに同行する?
王城に帰ったばかりなのに?
何故か仕事も積まれていたし……。
文官が申し訳なさそうに俺を見ていた……。
「いや、だって、元気になったのなら、もうじき姉上の結婚式も控えているのですから、しばらくは大人しくしているべきでは?」
「ロルフ兄様がそんな理由で止めて、大人しく聞く人かしら……」
ロルフは惚れた女の為に強引に留学を決めた人だ。
行動力があり過ぎる男……。
絶対にライリーに興味を覚えたんだろうな。
ロルフは思いの外、純愛の人だったが、あんな事があって、流石にリリアーナ姫の事はもう諦めたのか?
男性恐怖症の女性に、いかにも男らしい外見のロルフは相性が悪すぎる。
……セレスティアナに目を付けないで欲しい。
彼女は可愛過ぎるから心配だ。
俺は頭を抱えた。
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