第130話 日焼け止め
朝、私は水を弾く素材でミシンを使い、男性用水着を作った。
水着はまた水に入ってくれるらしいローウェに渡した。
そして、アシェルさんと、殿下と、護衛の騎士数人が一緒に、ライリーの城から比較的近くに有る川に、馬に乗せて貰って来た。
私はアシェルさんと同乗。
日焼け止めになる液体が入ってる細い竹に似た植物を移植する為に行くだけだから、城で大人しく勉強をしていて欲しいと、殿下に言ったのだけど、ついて来ると言って、聞いてくださらない。
「天気もいいし、散歩がてらちょうどいい」
とまで言われた。
特別面白いことが無くても、散歩代わりだと思えばいいのか、本人がそう言うのだし。
そういう訳で、結局こちらが折れて、同行となった。
ローウェは先に水着を穿いて来たらしいので、上に穿いていたズボンをさっと脱いで移植の作業はすぐに終わった。
キラキラと春の陽光を受けて輝く水面を除き込む。
やはりまだ魚影は見えない。
作業が終わったら、ローウェの為に、木と木の間に布を仕切りカーテンのように使い、張った。
そして中に入って、体を拭いて着替えを終えるように言った。
私は出て来たローウェに一応聞いてみた。
「水着の穿き心地どうだった?」
「悪くないです」
「なるほど」
──ふむ。
じゃあ今度、お父様やお母様の分も作ろう。
もちろん、自分の分も。
夏が来る前に。
* *
川近くの林に、大木が倒れていた。
──まるで、亡骸のようだと思った。
木肌は白骨のように白い。
そばにいた薪を集めに来た老人に話を聞いた。
この辺では有名な巨樹で、まだ元気な頃は凄く香りのする香木だったと言う。
私はまだ元気に生きていた頃の巨樹の姿を知らない。
今は苔むし、裂けた幹の隙間から新しい命が芽吹いている。
身が裂かれても、それは新たな命の始まりを静かに許している。
美しい光景だったので、私は記録の宝珠を握り締めて瞳に映した。
* *
何事も無く、作業を終え、城に戻って、今日の授業を受けた。
自分でテーマを決めて手紙を書く練習と言われた。
お茶会のお誘いの手紙とか何かの御礼状の書き方を選ぶのが普通なのかもしれないけど……
私はテーマを遺言にした。
……形見の代わりになりそうな、レシピ本をいつか出したいと以前から考えていた。
まだ印刷機が無い為に、作れてはいないのだけど、いつか完成させたい。
私がいつかこの世から消えても、美味しい料理を、レシピを覚えてる誰かが継いでくれるように。
同じ味を求める誰かが、またあの料理が食べられて嬉しいと、美味しい料理が誰かの心を癒せるように。
明日への活力になるように。
私が亡くなったら、形見として、大事な人にレシピ本を渡して欲しい。
そう書いた。
先生が眉間を押さえている。
──何か不味かったかしら?
先生の様子を見て、殿下が何だ?とばかりに首を傾げてこちらを見ている。
──何でもないです。気にしないで下さい。
* *
お昼ご飯の準備に厨房に来た。
セリを使って巻き寿司を作る。
胡麻と海苔はアズマニチリン商会から購入出来た。
中身はサーモン、エビフライ、ロブスターならぬロズスターと、キュウリとサニーレタスに似た菜、セリ、マヨネーズ、胡麻、卵等。
寿司酢も(酢4:砂糖3:塩1)の割合で作った。
エビフライとロズスターでエビ系が被ってるけど、片方は揚げ物だから、味違うし。
私がエビ好きだし。
汁物枠にお吸い物も昆布と鯛のアラから出汁を取った物がある。
具が魚のすり身で作った団子とセリ。
これも天気が良いのでランチを庭園で食べた。
感想を聞くと、巻き寿司もお吸い物も好評で良かった。
お庭ピクニックも大好き。
今が春で良かった。
暖かいし、色とりどりのお花も咲いている。
豪華な花から、素朴で愛らしい花まで、多様な美しさがある。
一緒に食事をしたついでに、お母様に化粧水の使い心地を訊いた。
良い感じみたい。
少し肌に、手と頬に触れさせてもらった。
「うん、潤いがあって、しっとりして滑らかな肌触りですね」
「良かったわ。ありがとう、ティア」
「あと、リナルドに教わったこの植物、日焼け止めになるんです。中の液体が。
なので瓶に詰めてみました。
今日のようにお庭に出る時や外出時にはお肌にぬって下さい、主に、顔に」
「私は実験的に既にぬってみましたが、痒くなったりもしませんでした」
「お嬢様! またご自分を実験体にしたのですか? 声をかけて下さいと言ってますのに」
メイドのアリーシャに怒られた。
「良いじゃないの。私なら光魔法の癒しの力で何かあっても肌の再生が早いはずだし」
「全く、ティアったら……」
お母様も私の令嬢らしく無さに呆れる。
「次は私で試せばいいだろう」
お父様が実験体に!?
「えー、とんでもないです」と、私は断ったのだけど、次にメイドが挙手をする。
「「我々がやりますので!」」
──メイドが献身的過ぎる。
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