第129話 春の夕焼け

「では、帰る前にワイバーンに例の物を撒いて貰います、四方を囲むように」

「分かりました。新芽が出ても野生動物に食べられたら台無しですからね」


 我々は菜の花畑の近くでテントを設置し、一泊した。


 早朝に軽食を食べ終わって、今からライリーの城に帰るのだけど、新芽が出た時、動物などに食べられないように、ワイバーンの黄金水をきっちり撒いて貰った。


 * *


 早朝に出発し、昼に見栄えの良い川辺で一旦昼食を兼ねて、少し休憩。


 燻製の鮎を炙って食べた。

 燻製後、苦味飛ばしにしばらく風に当てた後でも、炙る事で香りが蘇る。

 身をほぐすと、鮎独特の清涼な香りがした後、燻製の香りが追って来る。


 絶対に日本酒が合うと思う。


 でも食後にまた空を飛ぶので、飲酒運転、いや、飲酒飛行をさせる訳にはいかないので、水かお茶で我慢して貰う。

 まあ身体が子供の私は、どの道飲めないけど。


 塩気の有る菜っぱを刻んだおにぎりも食べた。

 だいこんの葉に似た味の春の菜っぱ。

 程よい塩気が有って美味しい。


 その後、再び飛び立って、夕刻にはライリーのお城に帰城した。



 お風呂に入って、ドレスに着替える。

 せっかくなので虹色鱗のイヤーフックと指輪も身に着けた。

 虹色の鱗アクセは夕陽を受けてキラキラと輝く。


 殿下やお父様も、お風呂の後に、正装で出て来た。


 わ──!!

 脳内でペンライト振ってしまうくらいかっこいい。


 お父様や私が留守の間、城を守っていてくれた聖騎士様達と、遠出に協力してくれた竜騎士さんも王都へお戻りになるので、夕陽に照らされた春の庭園でお食事会をするのだ。


 規模の小さな春のサンセットパーティー会場みたいね。

 春の夕陽は柔らかく穏やかで趣が有る。


 王都でグラフの書き方を指導して来た先生も戻って来られた。


 もはやライリーのパーティーで定番となった人気の高いピザやらローストビーフにフライドポテト。

 比較的最近追加されたワミードスパイス使用のカリーにロズスターのガーリックマヨネーズ焼き等。


 カリーがあるのでナンも用意した。

 大人用にお酒はワインの白と赤。

 ジュースはりんごジュース。


 スイーツ枠はメロンとマンゴールといちごの豪華な生クリームのフルーツケーキ。

 他はプリンと枇杷ゼリーに葡萄ゼリーなどが有る。



「メロンいっぱいのフルーツケーキも綺麗で美味しい〜〜」



 料理長にレシピを渡して作って貰ったケーキも大成功したので私はご機嫌だった。

 そんな私を見た殿下も嬉しそうに言った。



「お土産に持って来た甲斐があったと言うものだ」


「殿下、お土産を沢山ありがとうございました!」


「本当に、色々とありがとうございます」

「殿下、本当にありがとうございます。色も香りも味も上品で素敵ですわね、このメロン」



 私も両親も改めて殿下にお礼を申し上げた。


 色んな料理を味わっていると、お世話になっている竜騎士さんが声をかけて来た。


「メイドに聞いたのですが、この滑らかなプリンと喉越しの良い、枇杷ゼリーと葡萄ゼリー、一個ずつお土産に貰っても良いと言うのは本当ですか?」


 竜騎士様はにこやかに、このライリーの女主人たるお母様に聞いたのだけど、

「お土産に関しては私の娘が料理人に指示して用意させております」

 と言って、お母様が私を見たので、会話を引き受ける。


「ええ、本当ですよ。甘味のお土産の用意があります。竜騎士様と聖騎士様も同様に。

枇杷を沢山下さったのは殿下ですから殿下にお礼を申し上げて下さい」


「殿下、どうもありがとうございます」

「どうという事も無い。美味しい甘味にしたのはライリー側だ」


「枇杷は皮を剥いて食べるだけでも美味しいですけどね。

あ、プリンのお持ち帰り分は一人3個あるんですよ。

容器ごと箱に詰めて、お帰りの際にお渡しします」


「ありがとうございます。聖騎士の知り合いも滞在中、どの料理も美味しかったと喜んでいましたよ。

ほら、あそこの騎士も言葉も少な目に夢中で食べています。彼のあんな姿は初めて見ます」



 そう言って竜騎士さんは華やかに微笑んだ。



「召し上がっているのは……ピザですね。こちらの騎士にも人気がある料理です」



 私はニッコリ微笑んだ。


 噂をしたせいか、聖騎士様達も殿下や領主一家に挨拶に来た。



「どの料理も美味しいのですが、ロズスターの料理とはあれほど美味しい物だったのですね」

「お肉に使われているソースが絶品でした」

「スパイシーなカリーが気に入りました」


「あのケーキは今まで食べたどのケーキより、香り高く美味しいと思いました」

「ええ、私もあんな美味しいケーキを食べた事を姉や妹に知られると嫉妬されそうです」


「竜騎士の友人がライリーの料理は極上だと自慢していた理由が分かりました。」

「ははは、正直、王都に帰りたくなくなる程、どの料理も素晴らしいです」


「あらあら、ふふ……ありがとうございます」



 お母様も扇で口元をかくしつつ、上品に微笑んでいる。

 ……今日もお母様は美しい。

 

 それにしても目が幸せだな〜。

 お母様と言う極上の美女もいるし、騎士様には何故か、かっこいい人が多い。

 まー、お父様が一番かっこいいんですけどね。



「ところでセレスティアナ、今日のドレス姿も綺麗だから宝珠で記録しても良いか?」


 ……うっ!! 油断している所に……ストレートに来た! 

 恥ずかしい! でも……断るわけにもいかない!



「……照れますけど、はい」


 自分が贈った虹色鱗のアクセを付けてるからか、嬉しそう。

 うーん、仕方ない、これは仕方ないね。

 本当はお父様のマントの中に隠れたいけど……恥ずかしいけど!


 頑張って羞恥に耐えた!


 * *


 弟用には辛く無い肉味噌のあんかけうどんを作っている。

 美味しそうにもりもり食べてくれて良かった。


 うどんは一回目の前で作って見せたら、後は指示したとおりに料理人達が作ってくれるようになった。


 あんかけに使用した片栗粉はじゃがいもから作った。


 じゃがいもの皮を剥き、生のまますり下ろす。


 器にたっぷりの水を入れ、布に包んだじゃがいもをつけて、10分くらい水の中でモミモミと揉む。


 さらしのような布で濾して、搾る。

 搾りかすを取り除いたその汁をしばらく、およそ15分くらい放置しておくと、下の方にでんぷん質が沈殿する。


 上澄みの液を捨て、残ったでんぷんを乾燥させると、片栗粉と同じ働きをしてくれる白い物質が残る。

 苦労してカタクリの花を探してカタクリ粉を作り出さなくてもじゃがいもがあれば何とかなる。


 * *


 聖騎士様と竜騎士様達が食事会の後、王都に戻るのでお土産のスイーツを持たせて、転移陣までお見送りした。


 すごく華やかな騎士集団だった。


 我々の留守中、城では特に何事も問題は起きて無いので、聖騎士様達はお母様と言う美女の側に侍って美食を堪能して帰ったって事よ。

 私ならマジ儲けた! ってしばらくヘブン状態になると思う。

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