第128話 草の上を滑る

「お昼ご飯は、お弁当と山賊焼きです」



 草の上にビニールシートの代わりに布を敷いてピクニックよ。


 

「山賊を焼いて食う!?」

「殿下、山賊なんか焼いて食べる訳ないでしょう」

「分かってる。言ってみただけだ」



 律儀にツッコミをくれたのか。優しいな。


 私は亜空間収納から沢山のお弁当と飲み物のりんごジュースと紅茶と水等を出していく。

 箱に詰めたお弁当は何故かワクワクするものだ。



「山賊のように豪快にお肉を焼いて食べます」

「豚の丸焼きみたいな物か?」

「親分、それは見た目が強すぎるので、鶏肉を油で揚げ焼きにする山賊焼ですぜ」


「誰が親分だ。ですぜとか言うのも止めるんだ」

「頭」

「かしらでも無い。というか鳥を揚げるだけで何故山賊なのだ? 山賊じゃなくても鳥は食べるだろ」



 だって前世で山賊焼きと言えばそれだったから……。 

 詳しくは知らない。



「じゃあ何か違う大きい、塊肉を豪快に焼きましょうか」

「何の肉だ?」


「殿下の側近のブライアンさんが狩ってくれた、どでかい熊とか、とても野生的で山賊感が出そうですよ」

「山賊感を捨てるんだ。鶏肉か牛肉にしよう」


 ……んもう。殿下はわがままなんだから。


「じゃあ牛肉でシュラスコに変更します」


 周りからほっとする気配を察知した。

 では熊はいつ食べれば良いのか。


「お弁当はサンドイッチ弁当とおにぎり弁当の二種が有るので、好きな方を選んで下さい。」

「悩む」

「どうしてですか?」


「おにぎり弁当が食べたいけど、サンドイッチに卵サンドが入っているならそれは食べたい」


「じゃあ、私の卵サンドを一つ差し上げますよ。

私はいつでも食べられますし、シュラスコのお肉で絶対満腹になるので」


「そうか、ありがとう。セレスティアナ」

「若頭の為ならなんのこれしき」

「山賊設定、まだ終わって無かったのか」


「おにぎり弁当の中身は卵焼きに茎ブロッコリーのベーコン巻き、唐揚げ、ミートボールにウインナー、ポテトサラダ、おにぎりとなっております」


「ティア、サンドイッチの方は?」

 では、問われたのでお父様の質問に答えよう。


「豚カツサンド、卵サンド、ハムチーズレタスサンド、それと唐揚げとフライドポテトです。

サンドイッチは二種ずつ入ってます」


「どちらも美味しそうだな」



 お父様も悩んでる……



「好きな方を選んで、仲良しさんとおかずを交換してもいいんですよ」

「じゃあ私はサンドイッチにするよ」



 アシェルさんがそう言ってサンドイッチを選んだのでお父様はおにぎり弁当にした。

 ……アシェルさんとおかずを交換してる。


 騎士達も同じ様に、気になるおかずを交換してる。かっわいい! 

 男子高校生みたい!

 思わず宝珠を握って撮影した。


 ……ん? どちらかと言うとJKかな? DKはおかずを交換するかしら?

 まあどっちでもいいわ、微笑ましい姿が見れたから満足。


 岩塩をすり込んできたシュラスコ肉を長い串にぶっ刺す。

 美味しい玉ねぎ、ニンニク、塩胡椒、パプリカ、パセリ。

 そしてワミードでゲットしたクミンやコリアンダー等を使ったソースを用意する。



「このお肉は火の上でぐるぐる回せば良いのですね?」



 ナリオが声をかけて来た。

 お肉係をしてくれるらしい。


「そうよ、ほど良い所でお肉を削ぐ様に切って食べるの。そしてソースがこちら」

 

 ──ちなみに、リナルドは葡萄や苺を食べている。


 * *


 ……香ばしい香りがします。

 美味しそうにお肉が焼けました。



「私は肉を削ぎ落とすのが得意です」ナリオがそう言ったら、

「俺も得意です」ローウェもそう言う。

 前世で見た作品にそんな特技の有るヒロインがいた気がするわね。

 でも二人もいるとダブルヒロインになってしまう。


 いや、まあ、それは置いとこう。



「好きなようにお肉を切って、お皿の上によろしく」

 


「「はい!」」


「「美味しいです!」」


 皆、満足そう。

 私もイケメンを眺めながら食べるご飯は最高だと思うわ。


「卵焼き美味しい」

「このなめらかな卵サンドも神ってます」

「この照り焼き味のミートボールも美味しいぞ」

「いや、こっちの茎ブロッコリーのベーコン巻きが美味い」

「ウインナーが勝つだろ」

「カツサンドが勝つに決まってる」


 なんか面白い会話も聞こえて来る。


「デザートは枇杷ゼリーを作って来ています」



 亜空間収納から出してデザートを振る舞う。

 粉ゼラチンを使ったわ。



「美味いな、枇杷ゼリー」

「えぇ、本当に。……やはり私の娘は天才だった」

「確かに親バカとは言い切れないね。ティアの料理は本当に全部美味しいから」



 殿下とお父様とエルフのお墨付きもいただいた。

 我々はぽかぽか陽気の中で楽しくランチタイムを過ごした。


 食後に、食休みをしていた最中に、青々とした草原の丘の傾斜を見て思った。

 草スキーをやりたいと。


「ソリが欲しい……」



 ボソリと呟いた後に、アシェルさんが言った。


「木製のソリなら亜空間収納に二つ持ってるよ。ティア、私と一緒に滑ろうか?」

「滑る!」



 アシェルさんはソリを二つ出してくれた。



「ギルバート殿下も良ければどうぞ」

「これで滑るのか?」

「怖ければ見てるだけでいいですよ」



 アシェルさんは悪気なく優しく言ったっぽいけど、負けず嫌いの殿下はムキになった。



「怖くなど無い!」

「殿下、私がご一緒しましょう。いざとなれば大人の足の踵で止めれば良いので」

「別に私は一人でも乗れるが、辺境伯の誘いなら断れないな!」



 何と殿下と同乗するのがお父様だ!



「安全の為にソリで滑る方は手袋を装備して手ぶらで、剣は鞘ごと、マントもソリに巻き込まれないよう一応外して下さいね」



 一応、注意事項を言う。

 短パンや半袖も禁止だけどそんな服装の人は居ないからこれはいいか。



 丘の上までワイバーンがひょーいと連れてってくれた。

 木で出来たソリに、私が手前、後ろにアシェルさんが座って、守るようにピッタリくっついて支えてくれる。



「行きますよ!」



 青空の下で草スキー!


 ズザザ──────ッ!!


「………っ!!」


 早──い! 楽し──!!

 一気に下まで到着!



「……想像以上に早かった! 楽しい!」



 殿下もそう言って楽しそうに笑ってる。

 良かった!


 ワイバーンで飛ぶのも楽しいけど、別の楽しさが有るよね。

 レジャー施設に来たみたい。



「楽しかったので私はもう一回上に行きます!」

「よし、アシェル、交代だ。私も次はティアと滑るからな!」

「もー、ジークは仕方ないな」

「「殿下! 次は私と滑って下さい!」」



 エイデンさんとチャールズさんが同時に声をかけている。



「俺は、今度は一人で滑る」

「「ええ〜っ」」


 あからさまにガッカリする側近さん達。


「滑りたいなら俺の後にソリを借りて、それぞれ一人で滑ったら良い。大人なのだから」

「えー……分かりました」



 ちょっと不満気なエイデンさん。



「殿下と一緒に滑りたかったんですが」

 チャールズさんもしゅんとしてしまった。


「いや、狭くなるし」


 殿下はクールに断っている。まあ、あの位の年齢の子なら一人で滑るか。

 お父様は特別枠だったのね。


「じゃあ私は一人でも滑ります! 良いですか、アシェル殿!」

「どうぞ、ご自由に」


 やっぱり一人でも滑りたいのか、エイデンさん。


「楽しかった──!!」

「ははは、これは童心に帰るな」


 お父様とも一緒に滑った! 楽しかった!



 * *


 帰り際に皆にお願いをする私。


「結構やんちゃしてしまったので、お母様には秘密にしておいて下さい」

「「はい!」」

「そ、そうだな」


 苦笑いで了承したお父様も一緒にソリ遊びをしたので、共犯である。

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