第127話 菜の花の種

 ワイバーンに乗って爽やかな春の空の中を飛んで来た。


 もちろん今回も私は竜騎士さんに同乗させて貰っている。

 殿下もまだ自分の竜は持って無いので竜騎士に同乗してる。

 

 我々は菜の花畑予定地に到着し、大地に降り立った。


「久しぶりにジークと一緒に遠出したな」

「いつもはどちらか出かけると片方が城を守っているからな」


 そういえば元Sランク冒険者パーティーの仲間だったアシェルさんとお父様。

 お二人共、楽しそうにしてる。

 撮影チャンス!

 私はすかさず、ブラウスの下。胸元にあるペンダントの宝珠を出して握った。


 私の今日のコーデはワイバーンに騎乗するので、女騎士風の動きやすいパンツルックにポニーテールだ。


 春の風が優しく爽やかに頬を撫でている。

 近くには陽光を受けて煌めく綺麗な川も有るのでご機嫌である。


 お父様に水車を作る場所をあの辺にお願いしますと、指定しておく。

 お父様が亜空間収納からペンを取り出し、地図に目印を描き込む。


 * *


 さて、今から畑を耕すぞ、という段階に来た。

 今回は殿下の護衛の負担を減らす為、現地の人は呼んでいない。

 地元民の農家さんに頼らず、魔力操作の練習がてら、自分達でやる。


「殿下にお願いが有るのですけど」

「何だ?」


「私が今から土魔法で土を耕すので、この菜の花の種を可能であれば畑の上に、風魔法で撒いて下さいますか?」


「……やってみよう」

「はい、では耕しますね」


 私は魔力を練り上げ、土をボコボコと耕していった。

 ──こんなものかな。


「これ、私が魔力操作を失敗して種が一箇所に纏って落ちたりしたらどうなる?」

 殿下がやや緊張した顔で不安を口にした。


『その時は僕がフォローするから心配いらないよ』

「そうか、妖精のリナルドが言うなら大丈夫か。やってみる」


 殿下は神様からの贈り物の種という事で、少し緊張しているみたいね。


「大丈夫、私もついていますよ」


 突然仕事をふってしまった私も一言添えた。

 それっぽいけど効力の有るのか無いのか分からない励まし方である。


「ああ……」


 殿下が魔力を高めて、練り上げていく。

 種を握っていた手を開くと、殿下の手の中から光る風が巻き起こり、輝く風が畑に種を運ぶ。


 本来なら種が光る訳は無いのだけど、何故か分かりやすく煌めいていたので、ちゃんと満遍なく撒けている事が分かる。


 何かの奇跡のバックアップかもしれない。


 銀髪の美少年が使う、花の種を撒く風魔法は、紛れもなく美しく尊い神事だった。


 映え! 映えシーン! 


 これが見たかったのでわざわざ風魔法でやって貰ったのだ。

 しかと宝珠で撮影もした。ふふふ。


「……ふう」

「はい、ギルバート殿下! お見事です! 私、これが見たかったのです!」

「「ギルバート殿下、流石です! 素晴らしいです!!」」


 周囲の騎士達も、大切な仕事をやり遂げた殿下に声をかける。


「……こんな時だけ名を呼んで持ち上げているな」


 私達は上機嫌で褒めたのだけど、殿下は苦笑いをして言った。

 少し照れているみたい。


 * *


 種撒き神事も終わり、ほっとして畑近くの川をよくよく見ると、良い物を見つけた!


「綺麗な水草がある!」


 前世、日本の水郷で見た、梅花藻に似た美しい水草が有る。

 清流でしか見れないらしい、あの素敵な水草。

 小さな白い花まで咲いてるし、キンポウゲ科の水草に本当に似てる。

 

『それの近くに細い竹のような植物が生えてるよね。

あの茎の中に、人間の日焼け止めに使える液体が入っているよ』


 肩に乗っているリナルドの情報に私は即、食いついた。


「夏前に良い物が! 少々、いただいていきましょう!」

『根っこだけ残せばまた節の所から伸びて成長するよ』


 私の今の服装は騎士風上着とシャツブラウスとズボンのパンツルック。

 このまま川の中に突入するとズボンがびしょ濡れになる。


 トップスがシャツブラウスで、長さは太ももの半ばまでくらいある。

 よし! 上着を脱いで、次に靴とズボンを脱げばイケる!


 ベルトを外し、ズボンを太ももの半ばくらいズルッと下ろした所で、


「え!?」

「なッ!? やめ! なんで脱いだ!?」

「お嬢様!?」

 

 お父様と殿下と騎士達に慌てて止められた。……デジャヴを感じる。


「あの水の中に、私の欲しい植物があるんです!」

「そこら辺の男に頼めば良かろう!」


 殿下が赤い顔をして叫んだ。


「ズボンがびしょ濡れになってしまいます。

 私のシャツは太ももの半ば近くまで長さが有るので、シャツワンピだと思えばイケると思って」


「「いけない!!」」


 また男性陣のセリフが仲良く被った。


「何でそれでいけると思った!?」

「私はまだ12歳にもなってないからセーフ、いえ、大丈夫かと」


 殿下の言葉に反論してはみたけれど、


「何基準だそれは!?」


 ダメか……。


「私基準です」

「ダメだ。早く服装を正して、ズボンを履くんだ」


 ──やっぱりダメだったっぽい。

 お父様にも怒られるので仕方なく脱ぎかけズボンを戻した。


「お嬢様、俺が水に入って取って来ますよ」

「でもそれじゃローウェのズボンが濡れるわ」


 黒髪長身のイケメン騎士のローウェが志願している。


「昔は夏になると下着一枚とかズボンのまま近所の川に入っていましたよ! 大丈夫です!」


 昔はやんちゃな田舎の少年だったのかしら?

 ローウェがマントを外し、ブーツや服を脱ぎ出した。

 今度は止める人達がいない!

 え!? もしかしてパンイチになるの!?


 せめて腰に巻くタオルか布くらい渡そう!

 そう思って私は慌てて亜空間収納から布を出して渡した。


「これを腰に巻いて! 濡れていいから」

「あ、ありがとうございます、お嬢様」


 私はそう言って横長の布を渡してから後ろを向いた。


「布を巻いたら言って!!」

「……巻きました!」


 じゃあもう振り向いて良いかな?


「根っこは残して切ってね!」と言ってから振り返るやいなや、ザブンという水音が聞こえた。


 もう川に突入していた。

 ちゃんと腰に布を巻いた状態で川に入っている。


 だけど鍛えられた太ももが丸見えに!

 ──いや、陸上の選手だってボクサーだって短パンだし、太ももくらい出てるし。

 ……騎士服だと普段は隠れてるからちょっとびっくりしただけよ。


 うん。

 それより細長い竹っぽい水草よ。



「お嬢様!どれ位の量を採りますか!?」



 ローウェは水草をナイフで斬っては川の縁に広げられた布の上に投げてくれてる。



「とりあえず、そのくらいで良いわ! ありがとう」

『とりあえず、ちょっとだけなら根っこごとも貰って、近所の川に移植すればそのうち増えるよ』


「あ、じゃあ数株だけ根っこごと抜いて!」

「はい!!」



 私は採取した水草をかき集めて壺に入れた。

 私がローウェの体を乾かす為にヴォルニーにエアリアルステッキを渡したら、またリナルドが声をかけて来た。



『さらにもう少し先に行くと、セリが川の近くに生えてるよ』

「セリって食べられるあのセリ!?」

『そうだよ』

「取りに行くわ!リナルド案内して!」


 喜んでセリも摘んで行く事にした。

 香りが爽やかな植物だ。

 巻き寿司やお吸い物に入れたい!


 私はリナルドの先導に走ってついていく。


 お父様や殿下や騎士が数人、そんな私を慌てて追いかけて来た。



「ティア! 今度は何だ? いきなり走り出して!」

「セリです! 食べられる植物があるらしいのです!」


『この辺〜』


 リナルドが旋回する下あたりを見てみると、確かにあった!

 川の浅い所と、川近くの平地にも緑色の瑞々しいセリがいっぱい生えてる!

 わっさわっさと。


「食べられるのにまさかの誰も摘んでない! 摘み放題!」

『生えたの最近なんだよ』



 リナルドが私の肩に戻って言った。



「なるほどねー」



 私が納得してると殿下が問うて来た。



「その草、美味しいのか?」

「殿下、茎を千切ったら少し爽やかな香りがしませんか?」


 ……プチッ。殿下が手折って香りを嗅いでいる。



「……ふむ、なるほど」


「個人的には風情と香りを楽しむ物だと思っています。

若い芽の、葉の出方が似ている、毒の有る毒ゼリって言う植物も有りますから、摘むなら気をつけて下さいね。リナルド、良ければ殿下のサポートをしてね」


『了解〜』


 こういう川だとクレソンもあって良さそうだけど、そっちは見当たらないな。

 まあ、セリだけでも嬉しいけど。



「この辺に有るのは大丈夫か?」

『大丈夫だよ〜』


 殿下の摘んだセリは殿下の肩に飛び移ったリナルドがチェックしてくれてるので安心。


 セリを食べるのはライリーの城に戻ってからにしよう。

 お母様が弟とお留守番をされているからね。

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