第125話 お土産とご褒美
私は寝る前にお米で作った化粧水を肌に塗った。
──翌朝、痒みも肌荒れも無く、うる艶のもちもち美肌になっていた。
いや、この体、元から肌は綺麗なんだけど、いつにも増して良い感触。
流石贅沢に神酒を使っただけはある。
朝食後、殿下を転移陣でお見送りし、お茶会に送り出した後に、お母様が私を見て言った。
「ティアの肌とかが、いつにも増して綺麗になってる気がするわね」
と。
それを聞いたお父様がはっとした顔をして、
「ま、まさか恋のせいで綺麗になったのか?」
「恋!? お父様、お母様、違います! 作った化粧水を昨夜寝る前に塗ったんです!」
「「化粧水?」」
「お米の神酒で化粧水を作ったんです。自分で使って肌に異常がなければお母様に渡そうと思って」
「まあ、あんな貴重なお酒で私の為に? 頬に触ってみてもいいかしら?」
「どうぞ?」
お母様が私のほっぺをなでなでした。
「しっとりとしつつ、すべすべしてて、かつ、もちもち。まるで赤ん坊のような肌……」
お母様はしばらく私のほっぺや手の甲をなでなでした後に満足した。
私は亜空間収納から瓶入り化粧水を出し、お母様に手渡した。
「これが化粧水ですよ。朝の洗顔後や夜の入浴後の……寝る前に塗ってみて下さい。
シミを作りたく無いお顔とか」
「シミ……?」
「シミはある日突然出てくるんです、主にお外で紫外線を浴びていたら、普通に。
老人とか、よく顔にシミがあるでしょう?」
「……!!」
「お母様は今まで、お肌の為に何かされていましたか?」
「な、何もしていません……」
芸能人とかの美女が「特別な事は何もしてません」って発言をしてたのを思い出した。
でもお母様の場合は、リアル「何もしてません」だわ。
だって大地浄化前は経費節約で色々切り詰めまくっていたものね。
これで子供を産んだ後も美貌を保っていたので凄い。謎だ。
「それは神酒で作ってるので、あれが尽きると終わりなんですが」
「ああ……」
お母様があからさまにガッカリしてしまった。
「でも神様にお米の種籾を貰ったので、いずれお米を収穫出来たら、それでお酒を作ったり……あ、白樺の樹液でもいずれ化粧品を試してみたいと思っています」
「ティア、私も頬に触りたいのだが、ダメかな?」
気が付くとお父様が仲間に入りたそうにこちらを見ていた。
「良いですよ。もちもち肌は見てると触りたくなりますよね。
私もウィルの赤ちゃん肌がぷにぷにで最高なので、すぐ頬擦りしてしまうのです」
乳母に抱っこされている弟の方をチラ見する私。
私はお父様にもほっぺをなでなでされた。
……気持ちは分かる。
* *
私も両親とサロンに移動してからソファの上で、ウィルをなでたり頬擦りした。
両親もウィルを撫でたり可愛がった。
弟はされるがままだけど、機嫌は良くてニコニコしてる。
空前のなでなでブーム到来。
そしてサロンに来た本命、メインイベントはウィルを撫で回す会ではなく、殿下の宝珠の記録鑑賞会なので、早速、白いスクリーンに上映準備をした。
* *
「な、何を見せられているの……」
「流石は殿下だ。ティアの可愛いさ、美しさを余す所なく、的確に捉え、記録している」
ひたすら私ばかり出るPVを見せられている!
たまに料理とかも映るけど!
「王城の美しいと有名な薔薇園とか兄君とか姉君は!?」
何故撮ってないの!?
「あ、城下街に犬と、側近さん達が出て来たぞ」
「またシエンナ様のワンちゃんの散歩をさせられたのね」
……しばらくしたら、場面も代わり、殿下本人も映った。
「あら、これはきっと側近が撮影したのね」
殿下の綺麗な蒼い瞳が何かをじっと見つめている。
「……ティアを見てたのか、慈しむような優しい目をしてると思った」
お父様がなるほど、といった言った風に言う。
…………!!
私は思わず机に突っ伏した。
「もう無理……」
恥ずか死ぬ。
* *
後日殿下がお茶会から戻って来た。
「宝珠にしっかり記録して来たから、ご褒美をくれるか?」
一時的に交換していた宝珠をお互いにもどした。
貴方の宝珠のせいで先日は恥ずかしくて死ぬかと思ったのですけど!
って、責めてもしょうがないわね。
本人にとっては普通に自信作の私メインのPVなのでしょう……
今、私達のいる場所は庭園のテラスだった。
春の庭に咲き誇る花は目にも楽しく、素晴らしいから。
「な、何か食べたい物でも?」
「キスを」
は、はあっ!? ちょっと急に何を言い出すの!?
「キス!? ど、どこに!?」
「顔が真っ赤だな。手の甲以外に許される箇所があるのか?」
「あ、ああ……っ、手ですね! 分かりました!」
「他に許される箇所があったのかと聞いている」
そこは突っ込むな!
「そこになければ、ないですね!」
思わず某店員さんみたいなセリフが出てしまう!
「そこってどこだ」
「何でも有りません! ──ほら、手ですよ」
もはや選択の有無を言わせぬ! スッと手を差し出す私。
「ムードがない……」
不服そうに言う殿下。
「ムードなんか作ったら私が恥ずか死ぬでしょう!」
「そんな死に方は無いと思うが……仕方ないな」
殿下は姫君に忠誠を誓う騎士のように、私の前に片膝をつき、手の甲にそっと口付けた。
「も、もう、満足しましたか?」
茹でタコになる前に離して下さい。
「熱でも出そうな勢いだから仕方ないな」
殿下はくすりと、悪戯っぽく笑ってから、解放してくれた。
「ほら、約束のお土産だ」
風呂敷型亜空間収納からメロンと枇杷が出て来た!
やった! 美味しい果物!
「わあ! 美味しそうですね! 殿下、ありがとうございます!」
「名前……」
「ギルバート殿下! ありがとうございます!」
「……もはや果物しか見えていないようだが、まあ良い」
「セレスティアナ様、殿下のお土産映像には、茶会以外も入っていますよ」
「え?」
「あー、こら、バラすなよ。チャールズ」
「え、秘密にするつもりだったんですか?」
「今更しょうがないから、言うが、実は茶会は魔族関連の心配事より、俺を茶会に引っ張り出すのがメインのような気がしたので、早めに切り上げた。
それで市場には自分で行って買い物して、宝珠で記録もした」
「市場の風景も記録してくれたんですか! ありがとうございます! サロンで早速見て来ますね!」
私はテラスから城内に向けて一人で駆け出した。
「え!? おい! セレスティアナ!」
「お嬢様! 淑女はそんな風に走っては行けません! どなたか止めて下さいませ!」
殿下やメイドが止めるのも聞かず、走っていたら──
ガシッ!
しまった────早速捕まった!
「あ、アシェルさん!」
「先日は綺麗なブレスレットをありがとう、ティア。ところで何故走ってるんだい?」
突然現れるマイペースなエルフに捕獲されたのだった。
「ブレスレットの事なら、どういたしまして!
私は頼んでいた宝珠の記録を見にサロンに行くから急いでいたの!」
「セレスティアナ! 俺を置いて行く事は無いだろう!」
殿下が側近と一緒に追って来た。
「申し訳ありません、撮った本人がまた見たいとは思わず」
「普通に確認したいのだが」
「そ、そう言われれば、そうですね。……失礼しました」
実はさっきキスされたばっかりなので、一緒にいるのが恥ずかしくて逃亡したかった……とは言えない。
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