兆しの章

第122話 最初に思い浮かんだのは

 倉庫で魔法師偽装用に使えそうな杖を見つけた。

 それっぽいローブも。

 これを騎士の誰かに装備して貰う事にしよう。


 神秘的な綺麗さもある金銀コンビのヴォルニーやレザークあたりが似合いそう。

 頼んで着て貰おうかな。


 * *


 護衛騎士五人とアシェルさんと共に、人のいない岩場に行って大量に岩と土をゲット。


 ボッコリと地面に空いたそれなりに大きな穴は、ほっとくと雨水とか貯まるだろうけど、せっかくなのでいずれ何かに使おうと思う。

 池でも良いけどね。


 私の亜空間収納は容量制限無しなので、土や岩は大量に入った。

 使った魔力を回復させる為、その日の夜は朝までしっかりと寝る。


 * *


 翌日は昼食後、階段前に置く看板を執事に書いて貰ったり、大きな布に魔法陣を描いたりした。


 さらにその日の夜。

 まだ暗いうちから事故の多い通りのある冒険者の街へ出発。

 アシェルさんと護衛騎士達4人と共に馬にて移動。


 姿変えの魔道具でアリアカラーに変装もしてるし、さらにフードを目深に被り、仮面も付けた。

 一見不審者だけど魔法師コスだし、ミステリアスで良いのでは?



 予定通りに夜明け前に到着した。


 人気はなく、静かである。

 良かった。


 それでも念の為、急に通行人が来るかもしれないし、周囲の窓から人が見ないとも限らないから注意する。


 ある程度は灯りが無いと橋の造形が出来ないから、リナルドが魔法の灯りを灯してくれた。


 早速、騎士達にも偽装した魔法師姿で謎の杖やエアリアルステッキを振らせる。


 魔法陣の描いてある布から大量の岩や土が出て来るようにみせかける。

 実際には亜空間収納の魔法陣と重ねてある。

 私もエアリアルステッキミニを振り翳し、土を橋の形に成形していく。


 階段の段差の端には薄い溝を数本入れる。

「それは何ですか?」

 小声でローウェが聞いて来た。


「雨の日とかで滑らないように、滑り止めよ」

「なるほど、手すりも付けているのに、足元まで気を使ってあるのですね」

「馬車に轢かれなくなってもこれが無くて、滑って転落死でもされたら困るもの」


 領主命で作られた橋と書いてある歩道橋の説明の看板は一旦置くけどしばらくしたら撤去する。

 台風とかが来た時に吹っ飛んで、誰かが怪我してもいけない。


 見たら橋なのは分かるとは思うけど、見慣れないものが突然出来ていると、何かの罠に見えるかもしれない。

 ……皆、素直に使ってくれると良いな。



 人が沢山渡っても橋が崩れないよう、「頑強」の強化魔法をかけた。


「よし、実際に渡ってみるわね」

「我々も渡ります」


 騎士達が声をかけて来た。


「良いわよ、強度確認に一緒に渡りましょう。

でも一人は橋の完成した様子を宝珠で下から記録して、後でお父様に見て貰うから」


「では、私が記録します」

「じゃあ、ヴォルニー、記録をお願いね」

「はい」


 数人で橋を渡り、飛んだり跳ねたりして、強度も問題無しと確認した。

 しっかり撮影もして貰った。


 極秘ミッション完了!


 灯りを消し、薄闇の中を馬で走って街を出る。

 リナルドは私の外套の懐に入って寝てる。

 馬を走らせていると、草原に出た。


 朝日が昇ってきた。……夜明けだ。


 一旦馬から降りて、少し休んで行く事にした。


 人の通りの無い草原の中で仮面を外し、深呼吸をした。


 馬には水とにんじんをあげた。


 草原の草の上に敷き布を敷いて、同行者にホットドッグとエビフライドッグなどを配る。

 飲み物はマンゴージュースや紅茶を用意してある。

 朝食の代わり。


 皆、綺麗な春の草原を眺めながら、美味しそうに食べている。

 


 軽食を食べた後に、爽やかな朝の風の中で、私はほんの少しだけ、周囲に菜の花の種を撒いた。


 神の加護付きなので、適当に撒いても咲くとリナルドが言っていたので。


 この辺、草原も綺麗だけど、道の脇に菜の花が咲くと更に綺麗だと思うのよね。



 ーーふと、前世の春の景色を思い出した。


 レンゲの花、白詰草、小さくて可愛い、青い小花のオオイヌノフグリとか、畑の側に咲く黄色い花弁のキンポウゲ、白いハルジオン、そして桜。


 白詰草……クローバーはこちらの植物図鑑にもあったから、またいつか見つけたいな。

 ……四つ葉を見つけたら、最初に誰にあげようか。


 脳裏に殿下と……家族の顔が思い浮かんだ。


 まさか、一番先に殿下が出てくるとは、お父様より危なっかしいからかな?


 そうだよね、最近危ない目にあったばかりだし……

 多分……


「ティア、そろそろ休憩は終わりだって」

「はーい、戻ります」

 

 アシェルさんに呼ばれたので、再び馬に乗せて貰う。


 ライリーのお城に帰城して、一息ついてたら、王城から殿下の滞在時の資金が届けられていたと報告を受けた。

 


 神酒を使って微量なりとも魔力が増えるなら、戦力強化になるかもだし、お米のお酒を使った鯛飯とブリの照り焼きでも作るかな?


 鯛飯は前にも作ったけど、美味しいし、お母様もお気に入りだから、まあ、良いでしょう。

 ブリの照り焼きも、私の好物。


 砂糖も醤油も味醂も日本酒に似たお米のお酒も有るから、美味しいのが作れると思う。

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