第114話 庭園のパーティー会場

 我々が野苺狩りから戻ると庭園には食事の用意がされていた。


「お嬢様、お食事の手配は奥様がして下さったので、すぐに着替えて来て下さい。

お客様も来ておられます」


「お客様?」

「城仕えではないライリーの騎士ですよ、誕生日のお祝いに」

「そう、ありがとうアリーシャ。すぐに着替えて来るわ」


 アリーシャの言う通りすぐに着替える事にした。


「では、殿下。後ほど庭園で」

「ああ」


 * *


「セレスティアナ様、お誕生日おめでとうございます」

「おめでとうございます」

「ありがとう、アーノルド、セドリック。親子でお祝いに駆けつけてくれたのね」

「ティア、アーノルドは貴重な胡椒を贈ってくれたのよ」


 やった! 胡椒だ!


「お母様、料理の手配をありがとうございます。アーノルドもありがとう。

胡椒、とても嬉しいわ! うちの料理が美味しくなるもの。ゆっくりして行ってね」


「はい、ありがとうございます」


「あ、あの、セレスティアナ様」

「はい? どうしたのセドリック?」


 息子の方が顔を赤くして、声をかけて来た。


「と、とても、本日もとてもお綺麗です! そのピンクのドレスもよくお似合いです」

「ありがとう」


 あらあら、緊張しながらも褒めてくれるのね、可愛いじゃない。



「セレスティアナ、あらためて誕生日おめでとう」

「殿下……」

「ギ、ギルバート殿下!? 殿下におかれましては、ご、ご機嫌麗しく」


 セドリックが突然の第三王子登場にびっくりしている。


「ああ、ライリーの騎士とその子息か、堅苦しい挨拶は良い。私が言うのも何だが、ライリーの食事は美味いぞ、美食を楽しんでくると良い」


「「は、はい」」

 殿下がいるとは思ってなかったらしい騎士の親子はセリフをハモらせ、慌てて食事に行った。


 ピザに唐揚げにフライドポテト。ローストビーフに大好きなロブスター、いえ、ロズスターの塩焼き!

 マンゴールのジュースもある。

 大人用飲み物にはワインの赤と白。

 やはりお祝いにはこういうのよね。


 騎士人気も高い料理に、彼らも満足でしょう。


「セレスティアナ、これを」


 殿下が綺麗に包装された箱を差し出してくれた。プレゼントだ!


「ありがとうございます殿下。ここで開けても良いのでしょうか?」

「ああ、かまわない」


 開けてみたら前世で見た、琉球グラスのように美しい青と緑のグラスが二つ入っていた。

 しかも真ん中だけに色がついている。


「わあ! とても綺麗な色のついたペアグラス!。青と緑で爽やかですね」

「こちらもございます」


 エイデンさんが背後から歩み出て、追加で箱を持って来てくれた。


「エイデンさん。あら、こちらは赤と紫と黄色。家族の分まで? ありがとうございます」


「2個じゃ足らないだろうからな」

「殿下、本当にありがとうございます。ガラス製品、大好きです」


 透明感があってキラキラした物は昔から、前世から大好き。

 しかもガラスはこっちじゃ未だ貴重品よね。


「ほう、これは美しいな」

 いつの間にか正装してやって来たお父様も、グラスの美しさに感心している。


「これもメアトン工房の物だ」

「やはり、この透明感のある美しいグラスを作る技術は、あの天才錬金術師の物でしたか。

新作があったのですね」


 殿下の説明に納得した。あの天才、流石である。


「兄上が教えてくれたのだ」

「そうなのですね」


 正妻の息子とも仲良いみたいで安心した。


「そういえば、姉上がマツバサイダーに興味を持っていたのだが、あれは製法を聞いても良いものか? 

なんなら姉上がお金を払うから知りたいと」


「そうなのですか、じゃあ、紙に書きますね」


 亜空間収納から紙と鉛筆を出して、近くのテーブルの上でメモを書いた。

 お父様は場所を移動して、お母様の方に向かったようだ。


「どうぞ、少し面倒ですが」

「……本当だ、少し手間がかかる物なんだな。まあ、厨房の者が頑張ってくれるだろうが」


 殿下は私の差し出したメモを見て、少し驚いている。


「松葉はどこから手に入れるのでしょうか?」

「アズマニチリン商会だろうな、そこの鉢植えを買って育てたのだろう」


 あそこの商会の地元は松林があるのかな? 気になるわ。



 庭園のパーティー会場は春の陽光の中、色とりどりの花に彩られ、喜ばしい雰囲気に包まれていた。

 


「今日もピザが美味い!」

「ナリオは本当にピザが好きだな。まあ、同感だが」

「この大きいエビもすごく美味しいな」

「そもそも素材が良いのだろう」


「ロズスターだったか、ワミード産の」

「あそこの女性、褐色でエキゾチックな美女が多かったですよ」

「ほう、羨ましいですな。ワミード侯爵領に行かれたのですか?」

「お嬢様の交易のお供で行きました」



 騎士達が料理に舌鼓を打ったり、楽しげに雑談をしている。

 私は自分の亜空間収納にケーキを入れたままだったのを思い出し、取り出してメイドに渡した。

 色鮮やかな、フルーツタルトケーキだ。


 私は殿下と同じテーブルに座って、食事をしながら先程の会話を続けた。

 殿下の隣にはエイデンさんだけがついている。


「いただいた美しいグラスでサイダーを飲むと良さそうですね。

良ければまた夏にでも、遊びに来て下さいね」


「ああ、もちろん」

「殿下の誕生日は、王都でパーティーですよね?」


「私は正室の子じゃないから目立ちたくないんだ。陛下にはパーティーなどしないで欲しいと言ってある」


「え、じゃあお誕生日に、ライリーに来る事は可能なのですか?」

「来ても良いのか?」

「もちろん、どこぞの令嬢からのお誘いが無いのでしたら、こちらは大丈夫です」

「あっても断るから大丈夫だ」


 ーーそれは、本当に大丈夫でしょうか?

 私と過ごす為に全フラグをボッキボキに折るつもりなのかな。


 ふと、お父様とお母様がこちらのテーブルに来ないな? と、思ったら、別のテーブルで殿下の護衛騎士達と食事をしながら、お話をしている。

  

 まあ、それはいいか……

 あれも社交だよね。


 それよりも殿下の恋愛フラグが、他の令嬢へのルートが閉ざされているようで戦慄する。

 

「そう言えば、陛下に竜騎士コースが出来たら学院に通っても良いと伝えたら、来年から創設されるらしいので、通う事になった」


 ええ!? 突然の殿下の言葉に驚きを隠せない私。

 いきなりコース新設出来るの!? 鶴の一声的に!?

 権力者ハンパない。


「私も竜騎士コースを選べるでしょうか?」

「え? 流石に令嬢が竜騎士コースを選ぶ事は想定して無いのでは?」

「私だって自由に空を飛びたいのですけど」

「私が自分の竜を持てたら、一緒に乗せてやる」


「まさか、空を飛びたいと思う時に毎回殿下を呼べるはずが無いでしょう」

「其方が呼ぶなら駆けつけ、いや、飛んで行くとも」


 んんん〜、流石に無茶だわ。

 殿下を足扱いなんか、タクシーじゃ無いのよ。


「お気持ちだけ、ありがたく頂戴致します」


 私は引き攣りそうな表情筋を叱咤し、なんとか、愛らしく見えるだろう笑顔で取り繕った。


「なんだ、俺の飛行技術に不安があるのか、確かにまだ練習も出来ていないが」

「いえ、ですから、問題はそこではありません」


 殿下、私に盲目的で献身的過ぎますよ──っ!


 途中で別の令嬢ルートに行ける余地は残しておくべきでは?

 と思うゲーム脳の私。

 


「お嬢様、ケーキをご用意しました」


 メイドがケーキを切り分けて持って来てくれた。

 良かった、助け舟だ、

 話を別方向に持って行こう。


「宝石のように美しいケーキだな、フルーツが艶々している」

「どうぞ、殿下、フルーツタルトケーキです。お召し上がりください」

「今日ばかりは、最初に食べるのは其方が相応しいのでは」

「では、いただきます……うん、美味しいです」


 フルーツは苺とマンゴールと葡萄などが使われている。


 前世で、「ケーキの中でフルーツタルトが一番好き〜〜」って言ってた友達を思い出す。

 うん、本当に美味しい。

 私はチーズケーキも苺のショートケーキもモンブランも大好きだけど。


「では、私もいただこう……うん、フルーツも瑞々しくて美味い」

「これは色鮮やかで、女性受けするケーキですよ」

「そうだろうな」


 殿下がそう言って苦笑したのは姉のシエンナ様を思い浮かべたのかもしれない。

 大丈夫、お土産分も用意がありますよ。

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