第106話 チーズフォンデュ

 夜になってバーベキューコンロの上に網を置き、それと器を3つ用意した。

 器の中でチーズフォンデュのチーズを熱する。


 私、殿下、アシェルさん、エイデンさん。

 ライリーの騎士と殿下の側近さん達、そして竜騎士さん達の組み合わせで、机とチーズの入った器を分けて食する。


「いただきます!」


 チーズフォンデュの具材はバゲット、茹でてあるソーセージと野菜。

 軽くソテーして塩胡椒したひと口サイズの鶏肉。

 そしてエビを用意して来た。

 エビもあらかじめ殻を外して背ワタを取り、塩茹でとか下準備をしてある。


 「野菜はブロッコリー、プチトマト、ジャガイモ、にんじん等です。

私が目の前で毒見します! ……チーズフォンデュ、美味しい〜!」


 エイデンさんの仕事を奪ってしまうけど、まあ良いでしょと、私はソーセージにチーズを付けて食べた。


「こういう食べ方もあるのだな、美味しい」

 殿下も私と同じようにソーセージの串をチーズに付けて食べている。


「この茎ブロッコリーにベーコンを巻いたのもおすすめですよ」

 アスパラの代わりに味の似ている茎ブロッコリーを使っている。

「ああ……これ……めちゃくちゃ美味いな!」


 殿下も味に満足そうで何よりです。


「後で、カレーを入れてみますか?チーズカレーフォンデュになりますよ」

「それもとても美味しそうだね」

「ああ、そっちも食べてみよう」


 アシェルさんも殿下も興味深々だ。

 溶かしたカレールーを追加してチーズに混ぜてしまう。


「あれ? このカレーってもしや神の……」

「エイデンさん、気にせずに食べた方が得よ」

「は、はい」


「そっちもカレー追加で味変しましょうか?」

 私が違うテーブルの騎士達に声をかけると、元気に返事が返って来た。


「「はい! いただきます!」」

 ライリーと殿下の側近の騎士組と竜騎士組も味変を楽しんだ。


 テントから少し離れた場所に土魔法で風呂場を作った。壁、脱衣所、浴槽。

 大きな瓶にお湯も入れて来たので、浴槽に注いだ。

 これでもう入れる。


「殿下、お先にお風呂にどうぞ」

「いや、ここは女性が先に入るべきでは?」

「うーん。では、お風呂をもう一個作ります」

「え? 魔力の無駄使いでは? 大丈夫か?」


「魔力は大丈夫です。ただ、亜空間収納に入れて来たお湯の用意がお風呂一つ分なので、もう一つのお風呂には水を入れますので、後はこの炎の魔石を放り込んでお湯にして下さい」


 水瓶と炎の魔石を渡す。


「私がやります」

 エイデンさんが石を入れてお湯にする作業を引き受けてくれた。

 炎の精霊の加護持ちらしい。


 殿下のテントから少し離れた所に王都組のお風呂をもう一つ作った。

 だいぶん魔力量が増えてるのが、何故か分かる。


 わいわいと、楽しそうにお風呂の準備作業をしてるグッドルッキングガイズ。

 イケメンだらけの林間学校みたい。


「じゃあ私は向こうで先に入らせていただきますね」

「ああ」


 ライリー用の風呂にて一番風呂を頂く。

 もくもくと湯気の立つお風呂に入る。

 ふはー、土魔法便利。気持ち良い〜。


 壁は作ったけど天井が無いので上を見れば春の星空が広がっている。

 丸い灯りの魔法も浮かべて幻想的……。


 リナルドも一緒にお風呂に入ってるけど、ぷかぷか浮かんで気持ち良さそう。


「殿下──! お湯が沸きました!」

 王都組のお風呂の方から騎士の声が聞こえた。


 星空を見て、ふと、思い付いた。


 ……タイミングを見はからう。


 そろそろ殿下が湯に入った頃合いよね。


「リナルド、魔法の花火を三発だけ上げるわ。テントに飾られた花の返礼よ」

『分かった! じゃあ僕が打ち上げ音のヒュー! の音を出すよ』


ややしてリナルドが草の笛を吹き、ヒューと言う音がした所で、私が夜空に魔法の花を咲かせた。


「「お──っ!」」という歓声が聞こえた。 

 何人かの騎士の声。

 よし、この声は花火に気が付いた声。


 少し、間を置いて、残り二回、夜空に花を咲かせた。

 殿下も花火、ちゃんと見てくれたわよね?

 予告もせずにやったけど、お風呂で寝てたりしないわよね?

 


 ややして、お風呂から出た私はテントでエアリアルステッキを使い、髪を乾かした。

 もう寝るだけなのだけど、夜着に着替えてガウンを羽織り、そろりとテントから出た。


 私のテントの前で見張りに立っていた騎士のヴォルニーが出て来た私を見つけて、声をかけて来た。


「お嬢様、どうかしましたか?」


「ねえ、殿下もちゃんと花火を見てくれたかしら」

 妙にソワソワして気になるのだ。


「ヒューとかいう音が聞こえたので周囲を見回すと夜空に魔力の花が咲いてました。お嬢様の仕業でしょう? 綺麗でした。あれ、魔力持ちは皆、気が付きますよ」


 そう言ってヴォルニーはにっこり笑った。


「そっか……ならよかった」


「ヴォルニー殿、お風呂と見張りの交代だよ。ローウェか貴方か次に入ると良いですよ。

湯が温くなり過ぎたらこれを」


 アシェルさんが火の魔石を手渡しながらそう声をかけて来た。


「アシェル殿、ありがとうございます」

 アシェルさんが私の次にお風呂に入っていたのね、髪がまだ少し濡れてる。


「おーい、ヴォルニー! 先に風呂いいぞ、俺は後でも良い!」


 どうもテントの前と後ろで1人ずつ見張りがいたようだ。

 テントの背後の方からローウェの声が聞こえた。


「分かった──!」


 声を上げてヴォルニーがお風呂に行った。

 今度はアシェルさんが見張りに立つらしい。


 殿下に直接「花火見ました?」って聞きたかったけど、仕方ない。


 朝に樹液を採取する時か、朝食時に聞こう。


「アシェルさん、髪、乾ききっていないから、乾かしてあげる」

「ああ、ありがとう、ティア」


 テント前で椅子に座らせ、エアリアルステッキを使い、エルフの美しいサラサラ髪に温かい風を送り、乾かしていく。


 櫛も使って、梳かす。

 ……うーん、麗しい。


 殿下の髪もこうやって、乾かして、櫛を入れてあげたかったな…。

 まあ、きっとエイデンさんあたりがやってるのでしょうけど。


「よし、乾いたよ」

「ありがとう、ティアはもうテントに入って寝てくれ」

「アシェルさんはいつ寝るの?」

「騎士と時間が来たら交代するから大丈夫だよ」

「そう、ありがとう」


 手間をかけないようにさっさと寝たほうが良いみたい。


「あ、夜空の花、綺麗だったよ。おやすみティア」

「うん、おやすみなさい」


 アシェルさんの優しい声に頷いて、テントに戻って、寝る……。


 * * *


 朝に管を刺して置いた何本かの白樺から樹液を貰った。

 殿下もお土産用の樹液をしっかり採取した。

 よし! 採取完了!


「殿下、お風呂の時、魔法の花火、見ました?」

「ああ、見たとも、綺麗だった。あれは俺の為だったのか?ありがとう」

「お花のお返しのお花ですよ」

「何倍返しの返礼だ? あれは」


「あれは魔力の花なので無料ですよ。殿下、なんでちょっと悔しそうなんです?」

「其方にしてやられた感が有る」

「うふふ」


「さては、セレスティアナ。負けず嫌いなんだろう?」

「バレましたか?」

「わからいでか! ところでギルと、名前で呼べと言うのに何故すぐに殿下呼びに戻ってしまうのだ?」


「う、いいじゃないですか、そっちの方が慣れているので」

「名前……」

「さー! 軽く朝食を食べたらライリーの城に戻りますよ!

森の恵みの樹液はしっかりゲットしましたから!」


「やれやれ……」


 私は照れ隠しに殿下の呟きを無視して、朝食の準備に取り掛かった。

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