第103話 秘密ミッション

 アトリエでマイラのミシン訓練の後、彼女を部屋に帰して、私は一人密かにある物を制作した。

 今の所は極秘ミッション。



 そしてもう一つ別件で作った物が有る。

 夜寝る前に神様から頂いたお米のお酒(純米酒)と精油、レモンなどを使って化粧水を作ったのだ。


 かつて舞妓さんや芸妓さんは、艶々すべすべの色白美肌をキープするため、お座敷で余ったお酒を化粧水の代わりに使っていたとか……なので、もったいないけどお酒を使った。


 コウジ酸は有能。

 シミやくすみの原因となるメラニンの生成を抑制する効果が有る。


 さらに、純米酒には、天然保湿成分でもあるアミノ酸が多く入っていて、その量は白ワインを凌ぐという。

 アミノ酸は潤い成分が豊富で肌の新陳代謝も早めてくれる。


 作った化粧水は氷の魔石を使った箱、簡易冷蔵庫でしばらく寝かせる。


 数日後に自分の肌に塗って異常が出ないかちゃんと美肌効果がありそうか試してみよう。


 元々美肌なので分かりにくいかもしれないけど。

 肌荒れとか異常がなければ他の人にも試して貰おう。



 * * *

 

 翌日の昼過ぎ、夕方の少し前くらい。


 洗濯物を取り込むメイドを発見、あの後、室内で畳む作業があるはず。

 そこへ侵入する。


 洗濯物を仕分けたり、畳んだりする一室へ私は入った。

 室内ではお香のような物が焚かれ、良い香りが洗濯物につくようにされていた。


「お、お嬢様? こんな所へ、いかが致しましたか?」

「サラ、お父様の部屋にも洗濯物を運ぶわよね?」

「はい」


「これを、買った物だという風に、私からだと思われないように、洗濯物と一緒に運んで着替え用のクローゼットにしれっと入れて」


「これは……?」


「お父様は娘から下着を貰うのは恥ずかしいみたいで、辞退されたんだけど、男前にはなるべくカッコいい下着を身に付けて欲しいので、こっそり作ったの」


「黒……の同じ下着が3つ……ですか?」


 サラの顔に朱色がさす。

 別にビキニタイプの下着ではない。片側横が紐だけど。

 紐の部分に金糸と銀糸で稲妻のような印が少し入ってる。微妙にセレブ感。


「そう、通気性も肌触りも良い、黒の生地で縫ったの。黒はかっこいいと思って」

「え、ええ、そうですね」サラの顔がますます赤く染まる。

「じゃあ、これを紛れ込ませてね?」

「は、はい……」

「良い子ね。これ、あげるから後で食べてね。容器は食べたら厨房へ戻して置いて」


 私は亜空間収納から出したプリンを、そっとトレイごと部屋に置いて行く。


「は、はい、あ、ありがとうございます!」


 明らかに動揺してるけど、よろしく頼むわよ!

 こっそりとランドリー室を出て、何食わぬ顔で廊下に出た。



 晩餐の為に食堂へ行く途中、騎士のローウェに会った。


「え!? 殿下が私の誕生日に撮影に来ると?」

 廊下で会ったローウェから衝撃的な話を聞いた。


「はい、王都に行った時に、偶然会ってしまいまして」

「誘われないなら……自分から行けばいいじゃない! って、事か。

な、なかなかガッツがあるわね……」


「はい、根性があって良いのではと思います」

「正直、撮影されるのはとっても恥ずかしいけど、逆の立場なら私だって行きたいし、そのガッツは……認めざるをえないわね」


 推しの撮影会とかあるなら絶対に行きたいわ……。

 騎士に報告ありがとうと言って、私はふらふらとした足取りで食堂へ向かう。


 とっても恥ずかしいけれど、逆の立場ならと思うと「誕生日に来ないで」とはとても言えないわ。


 前世で乙女ゲームをやっていた時、ランダムでデートを断られる度、ロードしてやり直していた私だ。

 熱意とガッツのある人は嫌いじゃないし、邪険に出来ない。

 

 デートのお誘い電話を繰り返して絶対に行くと言わせてやると意気込んでいた。


 しかし殿下は私の何にそんなに萌えて会いたいのか?

 顔? 容姿にパラ萌えはあるとは思う。

 ……料理? あり得る。


 魅力と料理だけで攻略できる王子キャラがいた?


 いや、もしかしてあの方ゲームキャラに当て嵌めたら隠しキャラみたいなポジションでは。

 城下町でお忍び中に出会えばイベントが進む系。


 ……とかいうゲームが実際にあればやりたいな。


 ……記録の宝珠の術式を解明すれば乙女ゲームのような物が作れないだろうか?

 この世界娯楽が少ないし。

 いつか作りたいな……


 あ、ついつい、思考がゲームに……現実逃避っぽくなってしまったわ……


 でもまずは馬車の座面でしょ。

 他はバドミントンとか、夏までにもっとちゃんとした魔道具の冷蔵庫も欲しい。

 今あるのはわりと雑に作ってるから。

 中にもちゃんと冷気を保つ金属とか、硬化系樹脂で水濡れ防止板も貼りたい。


 夏には水着も必要。

 そう、夏に土魔法でプールを作って水着で涼んだり、泳ぐ野望もある。

 プールサイドで松葉サイダーを飲んだり、アイスも食べたい。


 プールイベントの時には、こちらから、お世話になってる殿下も誘ってみよう。

 あの方は夏空とソーダ水がとても似合うもの。

 撮影は……されるよりしたい側だわ。


 祭壇の絵をステンドグラス風に作る計画もある。

 ああ、早く樹液の納品来ないかな。春よ、はよ来い。


 砂糖とチョコと菜の花畑作りも頑張らないと。


 ……いや、撮影会とシエンナ結婚式用のミュールと腰紐を先に。

 腰の飾りベルト、金属と紐どっちが良いかな〜。

 見栄えを取るなら金属、コストを抑える事を考えれば紐。


 色々考えながらも食堂に到着。

 今夜はワミードの鯛を使った鯛飯の予定なので楽しみ!


 お父様とお母様に殿下が誕生日にこっちに来るって、お伝えした方が良いわよね。

 騎士達からもう聞いてるかもしれないけど。

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