第102話 絶対に行きたい

 〜 ギルバート殿下視点 〜



「セレスティアナの誕生日……呼ばれる気配が無い」


 書類仕事の合間の休憩時間に、茶を飲みながら、俺はぼやいていた。


 そもそも陛下や第一王子の仕事の補佐は主に第二王子の仕事だろうに、ロルフが外国に留学してるせいで俺に回って来てしまう。


 まさか他国の姫に夢中なフリで書類仕事から逃げているんじゃ無いだろうな?


「お忙しいと思われているのでしょう」

「時間は作る物だ」

「別に婚約者とかでは無いので、遠慮されてるのかもしれませんね」

「姉上は辺境伯夫妻に結婚式の招待状を送ったのだったな?」


「左様です。しかし令嬢の誕生日はシエンナ殿下の結婚式の前に有りますから、さり気なく情報を探ろうにも……」


「殿下ーーっ! 転移陣使用の連絡です! 王都の教会から城下町の方へライリーの騎士が移動したと、伝令鳩が飛んで来ました!」


 ナイスタイミング!


 防犯目的ではあるが、転移陣を使用した貴族の連絡は教会から王城に来る事になっている。


 特に去年から国の重要な護り手のライリーから転移陣起動があったら高確率で重要人物が動く事があるから即伝令が来るようになっている。


 武力持ち(ドラゴンスレイヤー辺境伯)と浄化能力者(辺境伯令嬢)の二人も揃ったからだ。



「よし! 今すぐ城下街に行く!」

「殿下、お仕事は!?」

「帰ってからやる!」


 急いで冒険者風の衣装に着替えをして姿変えの魔道具で黒髪赤い目に変更して城から飛び出す。


「あれは、ワミードの子息モーリスとセレスティアナの情報をくれた騎士達だな」

 城下街のカフェに騎士が二人いるとの事。


 見つけた! あれはローウェ殿とナリオ殿だな。


「やあ、偶然だな!」

 全く偶然じゃ無いけど、二人のいるテーブルに近寄って俺は気さくに声をかけた。


「は、ええと、ガイ……君?」

 ナリオ殿が俺のお忍びスタイルのせいで話し方に戸惑っているようだ。

「こんにちは」

 ローウェ殿は一応笑顔で挨拶をくれた。


「こんにちは。相席しても良いかな?」


 ライリーの騎士二人はこくりと頷いたので俺は椅子に座った。

 側近も近くの席に座り、エイデンだけ俺の隣の席だ。


 ウェイトレスに適当に紅茶を注文した後に、早速聞き込みだ。


「なあ、君達のとこの天使は、春に誕生日があるんだろう?」

 天使……これで通じるはず。


「……ああ、まさにその為にプレゼントを探しに王都まで来たんだよ。うちの髪色金銀コンビにぬけがけをされて」


「ぬけがけ? まだ誕生日前なのに?」

「冒険者の街に行った時に、露天商の売ってる石をうちの天使が一目見て気に入って、この色綺麗で大好きだって言うもので、その場ですぐに買って贈ったらしく」


「どんな色の石だ?」

「青と緑を混ぜた、海のような? 宝石で言うならパライバトルマリンのような」

「その色が好きなのか、ふーん。で、その石は高価な物か?」


「ダンジョン産の色の綺麗な魔石だが、空魔石なので、値段も金貨2枚程度だったらしい」

 ナリオ殿はやや悔しそうにそう言った。自分もお金を出したかったと見える。


「空でも術者が魔力を込めれば御守りになる。貰った本人が入れられるし、良い贈り物だ」

 エイデンはそう言って、俺の紅茶を毒見すると、すっと俺の前に戻した。


「パライバトルマリンか、それを砕いて布にのせればいいのかな」

「待ってくれ! 砕く必要は無い! そのままで綺麗だし、そもそも染めに合う石と合わない物が有ると思うし」


 俺の言葉にナリオ殿が焦って「待った」をかけた。


「しかし、聖……とある聖職者はパンのお礼にサファイアを砕いたリボンを贈ったと」


「あれは加工の際に出た欠片や、元から小さめの物を砕いた物を使ったんだと思う」

「大きくて綺麗なサファイアはお高いから、わざわざ砕くのは勿体無い」


 ライリーの二人の騎士から宝石は砕かなくて良いと止められた。


「それもそうか……」

「しかしわざわざ似た色の石をまた贈る気なのかな?」


「その石を何に加工するか分からんが、仮にペンダントだとすると、イヤリングやブレスレット、指輪等、色を合わせた統一感のあるアクセサリーはあった方が良いだろう。石は何に加工するか言ってたか?」


「それはまだ聞いていない」

 ナリオ殿がそう言うと、俺もだと言うようにローウェ殿も頷いた。


「まあ、いい、宝石店に行くか」

 椅子を引いて席を立つ。


「あの、誕生会でなく、うちの天使は、神殿で撮影会をするらしいのだが、もしやうちに来る予定が?」


「ん? 神殿に祝福でも貰いに行くのか?」


 席を立って宝石店に行きかけた俺はもう一度着席した。


「天使のお母さんが春にえらい人の結婚式にお呼ばれしてて、天使はその時にどうしても綺麗なドレスを着て欲しいらしく、蒼い生地のドレスなんだけど」

「ああ」


 俺が贈ったラピスラズリのアレだな。

 

「贈られた物が物だけに早めに人前で宣伝、お披露目すべきだと思うのに、貰った本人は幼くそういう華やかな場に行かないので、共用って事で、先に天使が神殿であの服を着て撮影会をすると」


「神殿で、あれを……。絶対見たいんだが!?」

 宝珠で撮影会か! しかし共用は良いが、サイズは合うのか?


「だから親がその記録を結婚式に持って行ったら、贈り主に見せる事が可能だと考えた訳で」

「いや、いや、もちろん記録は欲しいが、なんなら自分で記録に行く」

「……恥ずかしがると思いま……思うよ」


「でも行きたい」

「まあ、そんな気はした……」


 ナリオ殿はボソっと言った。今のは素では?


「あんまり……高価な物はお返しが大変とか言ってたような」

 ローウェ殿が言いにくそうに小声で言った。


「誕生日ならば一方的に貰う側だろう。笑顔を返せば十分では?」

「相手にも誕生日は来るはずだから、そうもいかないと考えるのでは」

「じゃあそっちは食べ物……手料理で良いんだと伝えて欲しい」

「それなら……そう伝えておくけど、来るのは諦めたって事で良いのかな?」


 ローウェ殿は伝言を請け負ってくれたが、何言ってるんだ。


「行く」


 俺はキッパリと言った。決定事項だ。これは覆らない。


 ライリーの騎士二人は貼り付いたような笑顔で

「「ですよねー」」と言った。


 思いっきり見透かされているが、気にしている場合じゃない!

 絶対に誕生日は祝いに行くぞ。

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