第100話 女神風衣装

「王家からお礼状が届きましたよ」

「お礼?」


 私はお茶の時間にサロンにて、美味しいふわふわスフレパンケーキを食していた。

 お父様とお母様の目の前にも同じ物がある。


 さっきまで平和にみんなで美味しくパンケーキを食べていたの。

 執事が手紙を届けるまでは。


「とても貴重な神から賜った調味料を使った、美味しいマンゴールの生クリームケーキのお礼ですよ」


「ほんの数滴バニラエッセンスを使っただけなのですが、まさか寿命が延びる効果でも有ると思い込んでませんよね?」


「それは分からないけれど、とても美味しいあのケーキがお気に召されたようだわ」

「そうですか、お口に合ったのなら何よりですね」


「それはそうなのだけど、春に有るシエンナ様の結婚式の招待状も一緒に来てしまったの」


「私はまだ社交界デビュー前の子供なので関係は無いですよね」

「そう、問題は私とジークなのだけど」


「楽しんで来て下さい。留守番ならちゃんとやっておきますよ」


「また新しいドレスを作るはめになるのかしら」

「ならば今こそラピスラズリの生地の出番とみました!」


「お待ちなさい。何度も言いますが、あれは殿下がティアへ贈った物ですよ」


「母娘で共用って事にしませんか? 

私の社交界デビューまではかなり時間があるのでその間はお母様が着て、あの生地の宣伝をする。

シエンナ様は嫁ぎ先の名物の宣伝目的で殿下に売り込んだと思うので」


「シエンナ様的には嫁ぎ先の為の宣伝でも殿下のお気持ちは……でも共用なら良いのかしら?」


「ワミード系の女性の衣装が布を巻き付けるタイプのデザインにするのです。

あれなら成長後でも多少の体型違いは大丈夫だと思うのですよ」


 インドのサリーみたいなやつ。


「まるでワミードと特別に親交を結んだみたいに思われないか?」


 パンケーキを食べながら静観していたお父様が、ようやく口を開いた。


 香辛料の交易はするけど、紛らわしいかな。

 息子のモーリス様と何かあるみたいに思われるのは……確かに不味いかも。


「……分かりました。では、女神風にしましょう」

「「め、女神風?」」


 古代ローマだかギリシャ系の女性の衣装と言うか……。

 ワミードやインドのサリーと共通する部分もあるけど、まんまよりは良い。


 肩かけ部分にラピスラズリの生地を使おう。


「ドレープがたっぷりあれば、優雅になるはずです」


 紙と筆記用具を出して、サラサラっと簡単にラフデザインを描いて見せた。

 胸の下か腰で紐のような物で固定して、下布は足首あたりまで垂らし、上部は片側の肩にかけて、そのまま背中に優雅に布を垂らす。


 両親がデザイン画をじっと見ている。


「これが、女神風か。確かにこれをシルヴィアが着ればますます女神のようになってしまうな」


 お父様がやたら真剣な顔をして言った。

 私もその通りだと思います。


「先に今の私が着るとずるずる引きずる長さになるでしょうが、記録の宝珠で撮影し、それを殿下に見せれば先に着せましたよアピールは出来ます。

どうせ撮影だけなら布をひきずって移動する必要はほぼ無いので、ベッドの上とか」


「お待ちなさい。ベッドの上なら確かにドレスは汚れなくても、いやらしくなってしまいます」


「確かに背景がベッドだと少しエッチですが、私は子供なのでそこまでは」


「撮影時は誰かが裾を持ち上げて移動するか、絨毯を敷けばいい。

もういっそ神殿の一部を借りて撮影しよう。

そうすれば殿下も満足なさるだろう」


「そう、先にティアが身につけて撮影するなら、私もラピスラズリの生地のドレスを着ても良いわ」


 ようやくお母様が了承したけれど、かなりの羞恥プレイ。


「わ、わざわざ神殿で!?」


「確かに神殿で撮影すれば見栄えも良いですわね。女神風衣装も映えるでしょう」


 お母様まで!!


「ライリーのサロンか屋上か庭園でも良いのでは?」


 私は食い下がる。


「せっかく殿下の好意でいただいたのだから、特別な所で撮影しましょう」


 あーーーーっ!


「ドレスの撮影の為に、わざわざ神殿に場所を貸して欲しいと言うのは辛くないですか?」


「領主の私が言うから気にするな。神殿には心付けも渡す」

「お、お父様……」


「あ! 初春に白樺の林に行って、三月末にティアの誕生日で四月の半ばにシエンナ姫の結婚式。

ティアの誕生日が先に来るじゃないか! 

その日に神殿に行ってラピスラズリのドレスを着ればいい!」


 お父様が閃いた! って顔で言っておられるけれど……


「まあ、そう言えば誕生日なら、神殿で祈りを捧げて祝福を受けるから、場所を借りるという名目も立ちますわね」


「お、大袈裟な話になって来ましたね」


 なるべくギャラリーは増やさないで欲しいのですが。

 まさか神官や巫女が見守る中で撮影とかしませんよね?


「誕生日だ、問題ない」

「そうよ、誕生日ですもの、ちょっと特別な場所に行っても良いはずですよ」

 

 ぐぬ……。


 結局私もお母様に豪華なドレスを着せたいので、諦めて神殿撮影を了承した。


 服を完成させるのは自分の誕生日前までにすれば良い。

 複雑な形でもなくミシンもあるからそう時間もかからないと思う。


 お母様はあの優美なデザインが問題なく似合うと思う。

 私はどうだろう、顔が良ければ似合うというものでも無いような。

 髪型のアレンジやメイクでどうにかなるかしら。


 それにしても、自分が女神風衣装でPVみたいなものを神殿で撮影するはめになるとは。

 顔面SSRの美少女でなければ、耐えられなかっただろう。

 もう笑うしかない。


「お父様とお母様の正装姿もですが、結婚式ではシエンナ様の晴れ姿もしっかり撮影して来て下さいね」


「分かった。

シエンナ姫の側にシルヴィアを立たせて、まるで女神の祝福を受けて結婚するかのような晴れの姿を撮ろうじゃないか」


「ジーク、私は女神ではないのですが」

「君はいつでも、我が女神だ」



 ────っ!!!! (声にならない叫び)



「……ご馳走様です。本当にありがとうございました」



 お父様、今のはオーバーキルでしたよ。 

 精悍なイケメンが色気のあるイケボでそんな発言……。

 

 ジャラリ。


「何故ティアがお礼を言っているのかしら?」

「ティア、何故我々に金貨を差し出してくるんだ?」


 推しに良いものを見せて貰ったと言うか、聞かせていただいたと言うか……。

 思わず亜空間収納から金貨を取り出した私だった。

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