第98話 ドワーフの鍛冶屋

 真冬のある日、ついに私はドワーフの鍛冶屋に来た。

 この鍛冶屋はライリーの領地内の冒険者が多くいる地区に有る。


 城下町より少し離れた場所に有る地域だ。

 やや距離が有るので馬で来た。

 私はアシェルさんの馬に同乗させて貰った。


 同行者はエルフのアシェルさん。

 そしてライリーの騎士のヴォルニーとレザークの華やか金銀コンビ。


「初めまして、ゴドバルさん。いつも父がお世話になっています。ジークムンドの娘のセレスティアナです」


「……嬢ちゃんが次から次に見た事もないもん作らせるジークの」



 ファンタジー世界のゲームやアニメでお馴染みのドワーフを間近に見たのは初めてで感動する。

 背は高くないけど、横幅が有り、がっしり体型。



「ミシンの部品作りに忙しいかもしれないけれど、このようなコイルにしても強度と粘りがある金属はあるかしら?」


 紙に描いた設計図と、コイルの図を見せる。



「またけったいなもんを……ちょっと待て」


 言うなりドワーフの親父さんは一旦奥にひっこんで、インゴットを持って来た。


「それは?」

「錬金術師が作ってくれた合金だ」


 へー! 合金!


「それなら出来そうですか?」

「うーむ、出来なくはないが、今ミシンのパーツ制作で忙しい」


「その後でも良いので……。それと、これ、お世話になってるお礼のお酒なんですけど」

「何!? 酒じゃと!?」


 私は亜空間収納からウイスキーを入れた瓶と氷入りグラスを出した。


 私はグラスを手に持ち、騎士にウイスキーの瓶を持って貰い、あらかじめ打ち合わせていたので、グラスにウイスキーをそそいでもらう。


 ドワーフの目が爛々と輝いてお酒を凝視している。

 やはりお酒大好き種族だ。


「とても強いお酒なので、いきなりグッと煽らずに舐めるように飲んでみて下さい」


 グラスを差し出したらおやっさんはゴツい手で受け取り、グッとあおった。


「ああっ!!」

 一気に飲むなと言ったのに!


「か────っ! 喉が焼けるようじゃ! なんじゃこの酒は! こんなの初めて飲んだ! 美味すぎる!」


 焼けるようだけどやはり美味いんだな。


「とても尊いお方から頂いた貴重なお酒です。

あんまり量はありませんけど、この仕事を引き受けて下さるなら、残りのこの瓶の」

「引き受けた!!」

 食い気味で来た。


「ありがとうございます」私は微笑んで騎士に瓶を渡すように目配せをする。

 瓶に栓をして、ドワーフのおやっさんにあげたら、


「神ぃ────っ!!」と言って酒の瓶に頬擦りした。


 ……そんなに。


「本当に強いお酒なので、一気に飲まずに少しずつ飲んで下さい、命を大事に」

 まさかドワーフが急性アルコール中毒になったりはしないと思うけど、一応。


「これは貴重な酒と言ったが、人間の王様がくれた酒なのか?」

「いいえ、他言無用でお願いしたいのですが……」

「なんじゃ? わしは酒の為なら秘密は守るぞい」


「内緒ですけど、神様です」


「はあ!? 神様じゃと!?」

 ドワーフがギョッとした顔をする。

 

「瘴気の浄化と貢物のご褒美を下さったのです」

 おやっさんはしばらく固まったけど、大地の浄化をして、蘇らせた私の噂を聞いていたのを思い出したのだろう。


「なんとまあ、本物の神酒か! 気合いが入るわい!」


 信じたみたい。 この世界、まだ蒸留酒が無いからね。

「よろしくお願いします」


「今やってるミシンの部品は親戚と手分けして、こちらのコイルも作っていく事にするわい」


「差し当たって馬車の座面用に上段と下段の二層構造で、コイルを使用したいの」

 いつかはベッドとソファにも使いたいけど。


「スプリング線径1mmと線径2.0mm二種か、こんなに細いのを大量にか?」

「無理かしら?」

「出来なくはない、俺は天才鍛冶屋だ! やって見せる」

「仕切り入りの袋にえらく沢山コイルを詰めるんじゃな」


「馬車の揺れでお尻が痛いのが辛くて。布袋の方はお針子にお願いするので金属部分をお願いしますね」


「勿論ワシは鍛冶屋で針子じゃないからの。

しかし成功すりゃあ、お貴族様がこぞって欲しがる物じゃろうな」


「はい、そう思います。とりあえず試作品をお願いしますね」

「美味すぎる酒の為じゃ! 仕方ない!」


 ドワーフのおやっさんは「がはは」と豪快に笑って引き受けてくれた。

「あ、これ、お酒のつまみにどうぞ」

 

 亜空間収納からお弁当を出してあげた。

 中身は黒胡椒をかけたベーコンのチーズ巻き、茎ブロッコリーのベーコン巻き。

 ウインナー、ほうれん草のおひたし、枝豆の塩茹で、バゲットなどが入っている。

 ドワーフはベーコンのチーズ巻きを素手で摘んでひょいと口に入れた。


 「!! なんじゃあ! こりゃあ! こいつも美味すぎる!」

 私はにこりと笑って言った。


「お気にめして頂いて良かった。では、お仕事よろしくお願いしますね」

「お、おうよ!」


 設計図と企画書を封筒にしまい、それを渡して帰る事にした。


 * *


 帰り際、せっかく冒険者の多い街まで来てるので、変装の魔道具でアリアカラーに変装して街を散策。

 街並みもやはりヨーロッパ系でワクワクする。

 自領なのになんだかんだと街らしい街には来て無かった。

 畑には行っていたのにね。


「ねえ、あそこ、もしかして冒険者ギルド?」


 異世界転生の醍醐味の冒険者ギルドを発見! 看板がある! わー! 凄い! 本物!

 私は見つけた石作りの建物に興奮した。 

 オタクが聖地発見したみたいな興奮が有る。


 周囲にはいかにも冒険者って装備の人達がいる。



「荒れくれ者がいるので近付いてはいけま……いけないよ」



 騎士のレザークが私を制止する。急な変装で言葉使いに迷って乱れてる。


「依頼が貼ってある掲示板だか依頼板だけでも見てみたいの」

「危ないから駄目だよ、子供が行く所じゃない」



 保護者のアシェルさんにしっかりと腕を掴まれて突撃出来ない。



「あ、露天商の雑貨がある、ちょっと見たい」



 縁日の屋台のような規模の小さいお店だ。

 ギルドは諦めて違う提案をする。



「ちょっとだけだよ」



 アシェルさんが言う。



「見て、この石綺麗、私、青と緑を混ぜたようなこの色大好き」



 パライバトルマリンみたいな色の石を指差して言った。



「お、お嬢ちゃん、お目が高いね! こいつはアルンの島のダンジョン産だよ、買うかい?」



 露天商のおじさんが目を輝かせた。



「うーん、他所で散財したばかりなのよね」


 香辛料とか食材が多いけど。



「「「私が買おう」」」



 騎士二人とアシェルさんが同時に声をあげた。



「私が払う」



 アシェルさんが財布を出す。



「いや、私が買って贈るので」



 レザークも財布を出す。



「いやいや、私が贈るので」



 ヴォルニーも財布を出した。



「お? お嬢ちゃん、小さいのにモテモテだねえ」



 おじさんは誰が買ってくれてもありがたいのでニヤニヤと笑っている。


「私はどんぐりと肖像、いや、似顔絵のお礼として」

「それなら私にも返礼、いやお返しの権利があるぞ」


「じゃあ、似顔絵のお礼がしたいなら、割り勘で良いのでは?

ワタシノタメニアラソワナイデ(棒読み)」



 私はそう言って妥協案を出した。



「それじゃ、仕方ないから君達に譲るよ」



 アシェルさんが諦めて譲ってあげた。


「「それなら……」」


 と、騎士達がお金を出しあってくれた。


「ありがとう、すっごく嬉しい!」


 とても綺麗で大好きな色だったから、本当に嬉しかった。

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