第97話 サクッ……

 冬の尊い朝陽を浴びつつ、祭壇でお祈りを済ませた後、自室にて聖下に渡す蝋燭の絵付けを終わらせた。

 暖炉で使う薪を十分に買えないお家では、さぞかし暖かい春が待ち遠しいだろう。


 蝋燭は……5本くらいで良いよね。

 あとはパンを料理長に頼んで焼いて貰って、蝋燭とパンを騎士に頼んで教会にいる聖下の元へ、

渡しに行って貰う。



 次に企画書、設計図を二種類書く。

 旅行から帰って、殿下も王城に戻って、ちょっと最近お金使いが荒いかな?

 と、思い始めた。


 時間が経つと冷静になる。


 使った分、また稼がないといけないので企画書と設計図を書いたのだ。

 食事の後にでも両親に相談しよう。


 * *


 今日のお昼の料理は魔物の鳥の胸肉を使う。

 冬の魔物狩りの鳥系の肉がまだ残ってたから。


 まず鳥肉の上にかけるトマトマリネを作る。

 トマトは亜空間収納に取っておいた物。


 トマトは湯むきして1 cmの角切りに。


 ボウルにトマトとバジル、すりおろしにんにく、オリーブオイルを入れて混ぜ合わせ、酸味が消えてれば完成。


 鳥肉は叩いて、伸ばす。平ぺったく。


 削ったパンくず、粉チーズをいれた溶き卵を準備。


 塩とハーブで鳥肉の下味をつけ、溶き卵をつけて、パン粉をまぶす。

 フライパンにバターと油をいれ、熱する。

 バターが溶けて細かい泡になってきたら、弱火〜中火で焼いていく。

 両面こんがり、良い色になるまで。


 香ばしい匂い、美味しそうなキツネ色を確認したら、思わず口元が笑みを刻む。

 食欲をそそる香りが立ち込める。


 味見用の分を切り分ける。

 トマトマリネをちょっとかけてから、

 口に入れたらサクッ、といい音がした。


 美味しい……!


 残りのチキンカツをお皿に盛り、トマトマリネも小さな器に入れてそえる。

 お好みで、トマトマリネをかけるかソースを使うようにしよう。


 そう、今日のメインはお好みでトマトのマリネをかけるチキンカツ。

 汁物はオニオンスープで、付け合わせがほうれん草の胡麻和え。

 それとファイバス。


 料理人達にもそれぞれの料理を味見をさせてみたら、今回も「美味しい」という評価を得たので、両親との昼食に出して貰う事にした。



 * *


 お昼になったので食堂に来た。


「まだ魔物の鳥肉の使ってない胸肉が沢山あったので、それを使って作ってみました鳥胸肉のカツレツです。

スープはオニオンスープ、付け合わせはほうれん草の胡麻和えです。

お好みで、トマトマリネをカツレツにかけて下さい。

ソースの方が良ければ、そちらにあります」


「じゃあトマトマリネを、少し端っこにかけてみるか」


 お父様はそう言うと、食べやすいサイズに切り分けたカツを口に入れた。


 サクッ。

 実に良い音がする。


「……ん? 胸肉というのは、もっとパサついて残念な物だと思っていたが、これは美味しいな」


「トマトマリネが良い仕事をしているわね。

鶏肉も、スープも、付け合わせの葉物野菜も美味しいわ」


「ああ、この胡麻とほうれん草の付け合わせと、オニオンスープも美味しい」


「胸肉も土地によっては好まれるんですよね。モモ肉とかより安いし」


 前世で外国人のスーパーの買い物動画を見たんだけど、なぜか胸肉が好き。

 日本人はパサついてて微妙って評価が多かったような。


 パサパサをどうにかする為に、マヨネーズの力を借りてピカタにしたりしてた。

 でも鳥胸肉は積極的に筋肉を作ってる人と節約上手の人には人気だったとは思う。

 高たんぱく、低カロリー、低脂質で。


 今頃騎士達も食堂でチキンカツを食べているかな?

 良い筋肉を維持して欲しい。


 またもサクっと言う音が、すぐそばでする。


 この良い音は、聞くとやっぱりテンションが上がるなあ。




「ところで……つい、景気良く旅先で買い物をして来たので、思い出した金策があるんですけど」


「ん? まだミシンの部品を製作させてる最中だが新製品か?」

 お父様の顔がややひきつる。


「そうなのですけど、スプリングコイルを作りたくて、今度ドワーフの鍛冶屋さんの所に、バネに加工しても折れない強度のある金属がないか、聞きに行きたいです」


「ミシンの部品の量産も既にドワーフのおやっさんには頼んであるのだが、兄弟や親戚にも声をかけて貰うしかないかもしれんな」


 そういえばドワーフの鍛冶屋さんの仕事がかなり多いかもしれない。

 申し訳無い。

 神様のお酒を持って行って労おう。


「そのスプリングコイルとやらで、何をするの?」


 お母様が私に視線と問いを向けて来たので、両親に用意していた企画書と設計図を渡して見せた。


「長時間馬車に乗ってもお尻があまり痛くならない座面。他は寝具、ソファの座面などにも使える物です」


「痛くならない……それは良いわね」


 お母様が設計図を見て真剣な顔をしている、やはりあの馬車移動は辛かったのかも。

 ややしてお母様はお父様に設計図を渡した。


「本当はお母様達が以前、紅葉デートに行く前に作れたら良かったのですけど、今回はきっとワミード侯爵も出資して下さいますので、沢山コイルを作っても大丈夫かなって」

 

 企画書と設計図を目にしたお父様もいけると思ったのか、良い返事を下さった。


「なるほど、ドワーフのおやっさんの所に良い金属が有ればいいな。会いに行くと先触れを出しておこう」


「ありがとうございます。良い金属が見つかれば、コイル職人だけでなく、座面に使う布を縫うお針子の手配も要りますのでそちらも考えておかねばなりません。袋状に縫うのにミシンを覚えてくれる人も欲しいですね」


「お針子の募集は、私の方でなんとかしましょう」


 お父様もお母様も協力してくださるみたいで良かった!

 良い金属とお針子さんも見つかれば良いな。



 本当はバドミントンも早く作りたいけど、どう考えてもお金になるのは、貴族用馬車の座面の方。


 ところで冒険者に依頼しているレジン風樹液の方の納品って、やっぱり春になるのかしら?

 手描きの祭壇の絵を一階の祭壇に置いたままなのよね。 

 ステンドグラス風のを作って早く仕上げたいな。

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