第92話 可憐と妖艶
「どうぞ、こちらです」
ひと休みする為にレストランに到着した我々を、行きつけの店なのかモーリス様が奥へ誘導して下さる。
竹のような木材で所々曲線が面白い作りの柱と梁があって、バリ島のオシャレなレストランみたいな雰囲気。
テーブルの形は丸いので身分的に上座とか下座とかあまり考えなくて良さそうで良かった。
南国系の植物も沢山植っている自然派レストランかな。
「ワミード侯爵領は海産物が美味しいので、ぜひ召し上がってみて下さい」
若様が自信あり気に勧めてくる料理だもの、期待が持てる。
「わあ! 美味しそうなお魚」
鯛みたいなお魚の塩焼き出てきたし、大きいロブスターみたいなのも有る。
スパイシーな香りのスープの中にも美味しそうな魚介類が入ってる。
エイデンさんだけ殿下の毒見で我々と同席しているので先に食す。
確認後、殿下の前に皿を戻す。
「美味しいね。私は特にこの赤いお魚と大きな赤いエビが好き」
「魚がドラージルでエビがロズスターですね」
名前が地球産のと、かすってるっぽい。やはり鯛とロブスターだ。
「なるほど、そういう名前なんだね。明日の朝は私、朝市、魚市場に行きたいな」
「朝市は当然ですが朝が早いですよ」
「早起きは得意なの。それに遊覧船の後はもう一度市場に戻って調味料を入れる小さな壺とか雑貨、お土産の布も買いたいので」
薄くて綺麗な生地があったのを一瞬だけど確認してた。
「調味料用の壺と布くらい、当家の倉庫にも予備がありますよ」
「ありがとう。でも、自分で選んで買いたいの。あの素朴でありながら味わいのある壺、もっとよく見たくて。ルギ君や若が疲れてるなら先に帰ってくれても」
「何を言う、俺は鍛えているから、全然平気だ」
「私も大丈夫ですよ」
「品物を売ってる人から直接買うと、嬉しそうに笑顔になってるのを見れたりするのが好きなの。
我が儘を言ってごめんね」
私がそう言うと、モーリス様に意外そうな顔をされた。
赤の他人の幸せなど興味ない系の方かな。まあ、私の方が貴族らしく無いんだろう。
でもねー、前世で同人誌とか絵とかオリジナルゲームとか、作った作品を売って、買ってくれた方が嬉しそうにされたりしてるの見た事あるんだけど、とても嬉しかったのよね。
「女性は買い物が好きなんだ。あれくらいで終わるはずが無かった」
ガイ君の時に市場で私に連れまわされた記憶でも思い出したのかな。
「一応遊覧船の方は手配しておりますので、その後、少し涼しくなった夕刻の市場に参りましょう」
「うん」
「それで俺もかまわない」
にしても、モーリス様だけが丁寧な言葉を使うのでこちらだけ無礼な口をきく平民みたいになってるけど良いのかしら。
お忍びの意味とは……。
でも我々も爆買いしてる時点で、もうある程度金の有る人間なのはバレてるか。
ちなみに騎士達とアシェルさんとアリーシャは近くのテーブルで食事をしている。
お忍び中で平民のふりしてるんだから、同時に食べても良いと言う事で。
美味しいお食事の後に船で近場の海を行く。
潮風が気持ち良い。
船上でココナッツジュースが出てきた。南国情緒溢れる!
それは良いけど、モーリス様と殿下の距離が近い。いや、二人が私を挟んで、私に近い。
何? 私が海に落ちる事を心配してる? それかエアリアルステッキの風が涼しいから?
背後の護衛騎士達からめちゃくちゃ注目を浴びているのだけど。
思わず視線を海上に彷徨わせると、白い生き物が波間に見えた。
「あ! 白いイルカ!?」
「お、本当だ、なんかの群れがいるな」
私と殿下が船上からイルカの群れらしきものを発見したら、モーリス様が教えてくれた。
「運が良いですね。ごくたまにこの辺の海であの白イルカは見られるらしいのですよ」
えー、レアな上に可愛い〜。
思わず記録の宝珠を握りしめていたら、殿下もようやく私からやや距離を取ったと思えば、宝珠を握って撮影してる。
私ごとイルカを撮影しようとしてるっぽい。
輝く海とイルカと一見、可憐に見える白いワンピースの少女ね。
なるほど、私でも目の前にそんな存在がいたら撮りたいわ。
殿下が不審な動きをしてるように見えたのだろう、ここでようやく宝珠がただの首飾りでは無い事に気が付いたのか、モーリス様が殿下にそれ何ですか?と、質問していた。
殿下も聞かれてスルーもできず、耳元でこっそりと王家のお抱え錬金術師の作った貴重な非売品の記憶の魔道具だと説明した。
モーリス様は自分も宝珠が欲しかったけど、それなら仕方ないですねとか言ってた。
ポシェットの中で気配を絶っていたリナルドも顔を出して白いイルカの群れをしばらく見て、またポシェットに入った。
私もせっかくなので美しい海とイケメン達を撮影する。
褐色美少年二人とイケメン騎士と美形エルフを「映え!」と脳内で叫びつつ撮影してたら、アシェルさんからお母様に頼まれたからと、私の事も撮影されたりした。
実はメイドのアリーシャも撮影しようとしたら、私などにもったいないからやめて下さいと拒否られた。
恐縮されちゃった。
* *
夕暮れの異国情緒溢れる市場も良いものだと思う。
我々は午前中にいた市場に戻って来た。
陽が落ちるとランタンの灯りが市場を彩り、実に風情がある。
薄暗い城の書庫で、古い魔法の本を初めて開いた時のようにドキドキする。
雑貨屋で素朴で味わいの有る素焼きの壺を複数選ぶ。
丸いトレイに並べて使うと可愛いと思う。
透け感の有る綺麗な布を何種類か買ったし、売り手の人の笑顔も見れたし、満足!
* *
侯爵の館に戻ると、すっかり日は暮れてお風呂の用意が出来ていた。
お風呂には魔法のランタンが使ってあって、幻想的な光りを放っている。
広い湯船には色鮮やかな花びらが浮かべてある。
わー、魔法の南国リゾートだ。
しばらくお風呂を堪能する。
持参したシャンプーとリンスで髪も洗う。
お風呂から上がって、バスローブのようなものを纏い、小型エアリアルステッキで髪を乾かすと、サラッサラになる。
それから愛らしいピンク色のドレスに着替えた。
これで侯爵にスパイスと南国フルーツの交渉に挑むぞ。
サロンに移動すると、褐色肌のセクシーなお姉様方を両サイドに配置して、大きめの団扇でハーレムの王様のように扇いで貰っていた侯爵夫人を見つけた。
15歳の息子がいる年齢には見えない若さと美しさを保っている妖艶な美女。
そんなゴージャスな姿でお茶を飲む美女をリアルで目にする日が来るとは……。
夫人はまず、私の洗いたてのサラサラ髪に注目して、椅子から立ち上がり、優雅に歩いて近寄って来た。
「セレスティアナ嬢、その綺麗な髪に触っても良いかしら?」
「どうぞ」
「髪もサラサラで綺麗だし、花のような良い香りね。香油とも違って爽やかさがある」
「ライリー産のシャンプーとリンスの香りです。
奥様もぜひ試してみて下さい。お風呂上がりにこの魔道具のステッキで髪もすぐに乾かせます」
亜空間収納から出した品物の良さをプレゼンする。
「まあ! ありがとう、試してみるわね!」
魔道具の使い方を説明して、一時的に貸し出す。
シャンプーリンスはお土産に渡して、アリーシャに使い方を説明して貰う。
シャンプーとリンスはすぐに試してみたくなったのか、奥様はすぐさま入浴に行かれた。
晩餐まではまだ少し時間があるので、殿下のエアリアルステッキの側で涼みつつ、ワミード領の特産品のリストなどを見せて貰った。
奥様が戻って来たら、渡した商品と貸した杖の効果におおいに喜び、興奮しておられた。
ゆえに、晩餐での交渉はシャンプーとリンスとエアリアルステッキが絶対欲しい奥様のお言葉で良い感じにあっさり通った。
色っぽい奥様が旦那様に妖艶に微笑み、その耳元で囁くだけで良いのだ。
「ねえ、貴方、どれも素晴らしい物よ。ほら、以前より輝いて良い香りの私の髪をご覧になって?
さらにあの杖が有れば寝苦しい暑さの夜もずいぶんと楽になるし。
ライリーとは今後ともぜひ仲良くしていきたいわ。もちろん良いでしょう?」と。
まず奥様は私を最初に見た時から、即落ち2コマみたいな速さで気に入って下さっていたし、なんの心配もいらなかった。
ライリー製ポンプとかも既に所有されて使っておられたので、新しい事業をする際には資金援助もするから声をかけて欲しいとまで言われた。
やったわ。カレーのスパイスと南国フルーツゲット!
後は明日の朝は朝市で新鮮なお魚をゲットして、昼に侯爵邸で皆様とお食事を一緒にしてから、帰るだけ。
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