第91話 侯爵領で爆買い

「おや、殿下。以前私がワミードに遊びにお誘いした時は暑い地域は苦手だと断られたのに、どういう風の吹き回しでしょう」


「ふん、今回は秘密道具があるので暑かろうが寒かろうが平気なのだ」



 何故か殿下と側近さん達がワミード侯爵領に同行する事になっていた。

 今は教会内の転移陣前で顔を合わせ、挨拶を終わらせた所。


 Sランク冒険者のアシェルさんとライリーの騎士のローウェとヴォルニーとメイドのアリーシャが私と同行するのはまあ、分かるんだけど。


 ちなみにリナルドは私のポンチョコートの内ポケットの中で寝てる。



「殿下とモーリス様はお知り合いだったのですか?」

「魔法訓練と剣術の訓練で顔を合わせる事があるだけだ」

「殿下、狩りでもご一緒した事が有りますよ」

「まあ、そんな事もあったな」



 そうなんだ。まあいいか。

 褐色美少年祭りが目の前で開催されている。

 目の保養。


 私は前世でオタクやってて作品ごとに大抵推しというかお気に入りがいたんだけど、亡くなる直前まで推してたキャラは浅黒い肌に銀髪イケボの料理上手なイケメンだった。


 高確率で褐色や浅黒い肌の男前を好きになるのよね、セクシーで。

 うーん、二人とも、将来が楽しみですね。


 まだ二人は瑞々しい美少年枠だ、殿下にいたっては儚さもある。

 性格的には俺様系も混ざるけど、蒼い瞳にたまに見え隠れする寂し気な雰囲気とか。

 寂しさを覆い隠す為の強気な言動もあるような。


 大きな喪失を体験した人って感じの……。

 お母様を亡くしてるせいだと思う。

 二度も失うくらいなら先に死ぬ方がマシっていう感じで、魔物の攻撃から庇われた事があるし。


 考え事をしていると、男子二人の会話も終わったので、いよいよ教会の転移陣からワミード侯爵家の庭園内の転移陣へ移動!

 


 * * 


 ワミード侯爵領到着! 本日は快晴!


 やっぱり二人とも、褐色肌で南国の青い空が似合う。

 目の前に広がる美しい庭園にはブーゲンビリアやハイビスカスっぽい花が咲いてる。


 涼しげな噴水も大きいのがあって、水路が引かれている。

 打ち水の代わりになるのかな?


 そしてやはり気温が高い! 太陽は高くギラ付いている。

 すぐさま持って来た夏服に着替えたい。



「では、冬服では暑いでしょうから、両親への挨拶の前に着替えをどうぞ。私も着替えて参ります」



 先触れは出てるって事よね、お邪魔しまーす。

 案内されたお部屋は南国リゾート感がある。


 侯爵への挨拶があるからワンピースは後にして、一旦は涼しげな水色の夏用ドレスを着る事にした。

 アリーシャが手早く着替えを手伝ってくれる。

 髪はポニーテールに水色のリボンをした。


 ワミード侯爵への挨拶は滞りなく終わった。

 侯爵は黒髪褐色にお髭のあるダンディなイケおじって感じの方だった。


 侯爵夫人がまた黒髪褐色でアラビア系衣装のエキゾチックな美女であった。

 素敵。



「か、可愛い、なんて可愛らしいのかしら、セレスティアナ嬢、抱きしめても良いかしら!?」



 夫人の方が凄いテンションで、私を見て興奮しておられる。



「親愛の証に挨拶で抱き締める事もありますから、良いのでは?」



 しれっと己の母親を援護するモーリス様。


 夫人は、ぱあっと顔を輝かせて私に近寄り、ひしっと抱きしめて来た。

 美女に抱きしめられた、ラッキー。


 私はニコニコしながら言った。



「侯爵夫人、熱烈歓迎をありがとうございます」

「領内の案内は遠慮なく息子に言いつけてね」



 超フレンドリーな奥様。


 サロンでお茶の代わりに南国のジュースを振る舞われた。

 甘くて美味しい。これはマンゴージュースの味!


 とにかく商談より先に観光て事だよね。

 それも良いですね、南国の街並みも興味があるし、市場に行きたいので!

 市場に行けばその地域の暮らしや文化がだいたい分かるし。



「私は市場に行きたいので、市井で浮かない服に着替えて参ります」


 白いワンピースに麦わら帽子にサンダルを装備。

 髪型はゆるい三つ編みをひとつ、胸の前にたらす感じ。

 プラチナブロンドは珍しいので姿変えの魔道具のアリアカラーの茶色で行く。

 首からは記録の宝珠を下げている。多分ペンダントに見えるはず。


 リナルドはポシェットの中。

 同行のアシェルさんと騎士達も夏っぽい冒険者風の服。

 黒のタートルネックにノースリーブのトップスがエッチで良い。

 二の腕の筋肉が視覚的に堪能出来る。


 アリーシャも街娘風の夏服に着替えた。


 殿下はチャイナ系の襟でノースリーブのトップス、色はネイビー。

 爽やかな白いパンツと足元はサンダル。

 殿下は今日は姿変えはしてないけど、褐色肌はこの地に馴染むからかな。


 護衛騎士もチャイナ系の襟のノースリーブトップスだ。

 白が二人、赤が一人、緑が一人、灰色が一人。

 似た衣装のアイドルグループみたいな外見してる。 眼福ありがとうございます!

 エイデンさんがエアリアルステッキを代理で持って殿下の側にいる。

 でもまだ起動はしていない。


 モーリス様の護衛の騎士達は白いアラビア系の服を着てる。

 南国の商人の息子とその護衛みたいな雰囲気。


 街の人の服装は男性は上半身裸で腰に布を巻いた感じの人が多い。

 あとはアラビア系の服を着た人。

 女性はアラビア系衣装。


「殿下、外ではなんて呼べば良いのですか?」



 本日はガイ君カラーじゃないので気になった。



「こっちじゃ俺は知られてないと思うが、一応ギルだけで良い」

「ギル君てまんまじゃないですか」


「じゃあどうするんだ」

「じゃあ、私が褐色肌の銀髪にして、名前でなく、お兄ちゃんと呼びます」

「お、お兄ちゃん!?」

「嫌なんですか?」


「いや、なんだろう。妹になられても困るような、でも響きは悪くないような」

「もうルギ君でいいじゃないですか?」



 モーリス様、ネーミングが安直か。 まあそれでも良いけど。



「では、モーリス様はどう呼べば良いですか?」

「若で良いですよ、護衛騎士もそう呼ぶので」



 大商人の息子でも通用する感じかな。



「若ですね。私はアリアと呼んで下さい」

「分かりました」


 侯爵家の若様は笑顔で承諾した。


「銀髪に褐色肌にするのか?」


 殿下がそわっとした雰囲気で訊いて来た。


「兄妹設定消えたのでこの大地色系の髪と瞳のままで行きます」

「そ、そうか」



 殿下がちょっとガッカリした顔になった。


 汗だくにはなりたくないので、エアリアルステッキの小型の改良型を一応持って行く。


「「それは?」」



 殿下とモーリス様が目ざとく聞いて来た。



「エアリアルステッキミニです。冷風と温風が出ます。

暖かい地域と聞いて涼しい風が送れるように持って来ました」


 起動してサーッと冷風を出してみせた。


「涼しい……。なんと便利な。それはどこの魔道具屋で買える物ですか?」

「売り物ではなく、うちで作った物です」

「ライリーにはそんな魔道具を作れる優秀な職人がいるのですね。当家からも依頼は可能でしょうか?」


「……作ったのは私ですので、カリーの香辛料やフルーツの交易が叶うなら頑張って作りますよ。

多少お時間いただきますが」



 交渉の材料になる物は積極的に使おう。商人のように。



「なんと、貴女が製作者だったとは、驚きました。殿下の側近の杖も同じ石……なるほど。

頑張って父上に交易の承諾を貰います」



 殿下の(秘密道具)にも気が付いたらしい。


「はい、是非に」


 マジで頼みましたよ。やたらもったいぶられてるけど。



 * *


 活気のある市場に到着すると、潮風と香辛料とフルーツの香りなんかが漂って来る。

 テントのお店が立ち並び、日除けの布は強い陽射しの下、必須だなと感じた。


 カラフルで瑞々しい野菜や果物からは生命の息吹が感じられる。

 市場散策はこれだから最高。


 そして行き交う人々を見ると、やはり褐色肌の人がほとんど。

 雑貨屋を見ると特産品や古物から何が人気でどういう物が大事にされているか、ある程度推し量れる。

 私は記録の宝珠を握って、賑わう市場の撮影をする。


「ここでも買い込んで行こうと思うの。帰ったらすぐに試せるし」

 今回も魔法の袋を擬態するためアシェルさんが鞄に入れてくれる。


 これだろ? と思わしきカレー用のスパイス達をロックオンした私。



「ここから、ここまでのカリーのスパイスを下さい、5袋ずつ」

「やたら可愛いらしいお嬢ちゃんだが、いい所のお嬢様かい? そんなにお金持ってるのかい?」

「あるよ。お兄ちゃんが持ってるの」



 子供が大金を持ってたらスリとか寄って来るかもしれないので、騎士のヴォルニーが財布を代わりに出してくれる。



「「お兄ちゃん……」」


 殿下とモーリス様の声がハモる。


「うちに住み込みで働いてるお兄ちゃんだもん」



 同じ城にいるんだもん。

 ヴォルニーはお兄ちゃん呼びが嬉しかったのか、ニコニコしてる。


 商品はアシェルさんが全ての袋を鞄に入れてくれる。



「お、エルフのお兄さんはマジックバッグ持ちかい、良いねえ」

「冒険者なので」

「たいしたもんだ」



 いつもの事だけど、エルフは美形だし、めちゃくちゃ注目されてる。



「あちらに果物屋があるな。俺も姉への土産も必要だし買って行こう」



 殿下もシエンナ姫の為にお買い物するのね。仲良くしてるみたいで良かった。



「ここからここまで、全部」



 殿下が私と似たようなセリフで凄い爆買いしてる。

 あちらも亜空間収納風呂敷みたいなの持ってるからね。

 側近が支払いをして、どんどん風呂敷みたいな布の魔法陣に突っ込んで行く。



「ワハハ! 今日はもう店じまいで飲みに行くかな! 君に神の御加護があらん事を!」



 恰幅の良い店主のおじさんもご機嫌だ。さもありなん。



「じゃあ私はあちらの店舗でフルーツを買って来るね」



 殿下の爆買いでこの店舗は品薄になったから。



「あ、ちょっと待て、アリア」

「反対側のすぐ近くの見える所だよ」


 待ち時間がロスタイムなのでこちらも近くで買わせて貰う。

 

「おや、お嬢ちゃん可愛いねえ。白い肌だし、旅の人かい?」

「はい、ここへは初めて来ました。活気のある市場で素敵ですね」

「ありがとよ、楽しんでおくれ。何か買うかい?」


 もちろん買うとも!


「ここから、ここまでのフルーツを下さい。えと、このマンゴールは全て、他のフルーツは10個ずつ」

「今何て? マンゴールは全てって言ったかい?」



 店主のおばさんが目を丸くする。



「はい、そう言いました」

「持てるのかい? 荷台持ち?」

「持てます。支払いを」


 アシェルさんが鞄から大きな袋を沢山出したら、

「あ、もしや魔法の鞄持ちかい、なるほどね」と、納得した。


 ヴォルニーが財布を出して、アシェルさんが魔法の鞄を偽装して、袋に入れたフルーツを次々にしまう。


 店のおばさんもお金を受け取り、勘定すると満面の笑み。



「ありがとうね! またご贔屓に!」

「二人とも、良い買いっぷりですね」



 モーリス様が笑ってる。


「うふふ、旅先って財布の紐が緩みがちなのよね」

「ははは、現地で買うと安いしな。買っておかないとうちの女衆に何を言われるか分からないし」


「この市場の先にレストランがあって、近くに船着場があります。軽く食事をしてから遊覧船に乗りませんか」



「若」は口調がほぼ変わらないな。まあ地元だし、知られていて平民のフリが今更な可能性がある。

 店の人も誰も突っ込まず、気が付かないフリをしてるのかも。


「船か、悪くないな」

「私もそれで良いよ」


 護衛騎士達も了解とばかりに頷いた。

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