第85話 凍った湖

「スケートですか? 凍った湖で?」


 確かに最近めっちゃ寒くなってて、先日は雪も降ったし、湖も凍るかも。


 てか、あったのね! この世界にも、スケートというレジャーが!

 サロンでお茶の時間に聞いたお父様の言葉に、私は驚いた。


 そういえば前世の世界でもスケートの歴史はかなり古くからあって、

 昔、スケートのブレード(刃)には、動物の骨が使われていたとかなんとか。


 豚や馬のすね部分が主原料で、それを紐で靴に縛り付けていたんだったかな。

 うちのブレードは骨と鉄、どちら製かな。



「ああ、スケートの靴や道具は倉庫に有る、視察のついでに湖に寄ってみるか?」

「行きます!」


 あれでしょ!?

 これ乙女ゲームなら、スケートが下手なら手を取って引っ張ってくれるイベントが発生するやつでしょう!?


 パラメータが重要な乙女ゲームだと運動パラが無いと運動属性キャラの好感度は駄々下りだけども。



「あなた、スケートなど、ティアが転んで怪我でもしたら大変ではありませんか?」

「俺、いや、私がちゃんと支えながら教えるつもりなんだが」

「お母様! 私は光魔法の使い手ですから、いざとなれば自分に治癒魔法をかけられます!」

「まあ、その、私や騎士などスケートの得意な者にずっと掴まっていればそうそう転ばないと思う……」


「全く、ジークったら、昔を思い出したのかの様に少年のような顔をして……」

「う……」


 お父様の顔がやや赤くなっている……。

 ……おや? そこはかとなく甘い雰囲気を感じる。


「仕方ありませんね。ティアは令嬢で女の子なんですから、無理はせずに、怪我をしないように厚着をして行きなさい」


 お母様はしょうがない人達ね。という風に承諾して下さったから準備をしよう。


「厚着します! もこもこに」



 そう言って私はお茶請けのラスクを食べた。


 うーん、ペンギンのシルエットのようになれば良いのかな。

 しかしそれでまともに滑れるだろうか?

 ……まあ、なるようになるよね。


 珍しくデートスポットのような所に行けるとあれば、行くしか無い。

 デート相手がいなくても別に良い。

 推しカプを想像して妄想にふけるのも楽しいものよ。

 前世では乙女ゲームのヒーロー×主人公ちゃんが大好きで、薄い本も描いた事がある。


 湖が凍った時だけの季節限定イベント楽しみだな。



「そうか、じゃあ同行の騎士を選んで……」

「ローウェが視察に同行したいと言っていましたよ」


「そうなのか? まあ他にもスケートの上手い希望者を選ぶだろうが、Sランクの大蛇を狩ったのはあの者だったしな、良いだろう」


 あの蛇は私に貢いでくれたのだから、ささやかなご褒美が有っても良いよね。


「ローウェはお出かけが好きみたいなので、喜ぶと思いますよ」



 * *


 お話は終わったので、自室に戻った。

 暖炉の火は部屋を暖めている。

  

 窓の外はいつの間にか、また雪が降っていた。

 

 ……お外、寒そう。


 当日の服は、えーと、どうしようかな。

 クリーム色のコートに、スカートの下にズボンというか、男性用みたいなパンツ穿く?

 厚手のレギンスやタイツの代わりに。

 

 寒さ対策は首元が暖かいならわりと何とかなる。

 毛糸でスヌードでも編んでいればよかったな。 

 被るタイプだとマフラーより安心感が有るんだよね……。

 

 遠足に行く気分というのか、準備期間はわくわくするな。

 前世ではお菓子を買いに行ったり……。


 最後の遠足では、何故か選ぶ余地も無く、学校指定のお菓子を配られた事もあったんだけど、苺味のチョコのファンになったりしたな。

 

 お菓子を自分で選べ無かったのは、残念だったけど、知らなかった美味しいお菓子を知れたという、良い面もあった。


 あの苺チョコのチョイスは先生だったのかな?

 誰が選ぶんだろう? 校長?

 

 まあ、今それを考えてもどうしようも無いけれど。 


 せめて私も高確率で喜んでもらえるよう、湖のそばでのキャンプ飯はカレーにしようかな?

 寒い所でカレーを食べれば温まるだろうし。

 おやつは……食事のカレーが辛いなら、逆に甘い系が良いかな?



「あ、ねえ、リナルド? あのいただいたカレールーは辛口?」


 私の肩の上で眠そうに、うつら、うつらとしてたリナルドに話しかけた。



『ん〜、辛口と中辛が混ざってるよ、色が微妙に違う』

「なるほど、子供でも大人でもイケるようになってるのね」


 前世だとうちではなんとなく、もしかしたら味に深みが出るのでは?と、中辛と辛口のルーをブレンドして使っていたんだけど、もしや同メーカーのでやるのではなく、他メーカーのを混ぜるべきだったのかな?


 まあ……いいか。


 ちゃんとお母さんの作ってくれたカレーは、美味しかったから。


 前世の家族を思い出したら、ちょっと涙が出た。

 上を向けば、きっと涙も止まってくれるだろうと、私はしばらく上を向いていた。


 リナルドはそっと私の肩から降りて、自分の寝床に入って眠った。

 見ないふりを、してくれているんだと思う。

 泣いているのを見られるのは、恥ずかしいから。

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