第84話 豪華すぎる返礼品

 雑貨商がライリーのお城に到着したので、私は注文していた空魔石、糸、インク等を受け取った。

 お母様は茶葉、お父様は紙というか、レターセット、騎士達は額縁をそれぞれ受け取っていた。


 乳母やメイド達も編み棒や毛糸など希望していたので、それも複数購入。

 なんだろ、何を編むのかな?

 好きな人や家族に何か暖かい物を作ったりするのかな?



 こちらからはシャンプー、リンス、石鹸などを卸す。

 人気商品らしい、花街とかでも。

 あー! なるほどね!

 病気は怖いし、清潔は大事なので特に石鹸はしっかり使って欲しい。



 * * *


 さて、空魔石の補充も出来た事だし、エアコン杖、もとい、エアリアルステッキだけど、お父様とお母様が共用していたのを思い出したので追加で作る。


 部屋が扉一枚で続きになってるらしいので、特に問題が無かったみたいだけど、申し訳ないのでもう3個くらい、作っておく。


 ……何かさー、こういう物、魔道具を作る時は魔法使いの工房みたいなのが欲しいと思う。


 天井からはドライフラワーが沢山吊られてて、棚には所狭しと謎の薬品や綺麗な鉱石か何かあって、あと、魔女の大釜みたいなのが有るやつ。


 とりあえず今回はドライヤー機能も考えて小型を作る。

 もう1個はいつもお世話になってるアシェルさん用にも。


 小型で短い方がイチイの木も節約出来るしね。



 * *


 お昼のおやつとして、五平餅を作る。

 せっかくいただいた醤油がありますからね。


 五平餅に必要なのは、米ファイバス、塩、剥き胡桃、味噌、醤油、砂糖、お酒、水。

 胡桃は別に無くても良い、お好みで。


 ファイバスはやや柔らかめに炊く。


 水をつけたすりこぎ棒でファイバスの粒が消える程度に潰しながら粘りのある状態にする。


 ファイバスがつかないよう、手のひらに油を塗り、串に巻きつけるように、ファイバスをまとめて平らな楕円形に整える。小判みたいな形。


 胡桃味噌を作る。

 胡桃はすり鉢でよくすりつぶし、塩、味噌、醤油、砂糖を加えて混ぜたら、酒、水を加えてすり、混ぜる。


 鍋に移して火にかけ、木べらで練りながら……煮詰めた。トロリとするまで。


 よし、ここで一旦作業を終える。


 厨房を長時間占拠しないように下拵えを終えた後は、庭でエアコン杖、エアリアルステッキを立てて使用しつつ、裏庭のBBQ用のレンガのかまどで焼きの作業をする。


 プチお庭キャンプ風。


 作り方を覚えてもらう為、付き添いに料理人が一人付いて来てくれてる。

 他はメイドのアリーシャが側に控えていて、リナルドは丸いテーブルセットのテーブルの上で胡桃を齧りつつ、料理をする私を見守っている。


 かまどの網の上に餅を乗せ、炭火で薄く色づくまで焼いたら、胡桃味噌を2回に分けて塗りながら焼く。


 わー……。


 ……とても香ばしい香りがしてくる。

 黒髪騎士のローウェが私を見つけて駆け寄って来た。

 嗅覚が良いな。反応がすごく早い。



「お嬢様、そう言えば、今朝のお供えのお花は良かったんですか?」



 食いしん坊な騎士だと思っていたのに、意外にも目の前の食べ物ではなくお花の話題を振ってきた。



「そう。まだ先日のお花が元気で綺麗だったから」

「そうでしたか」



 何故かしゅんとしている。



「元気無いの? このゴヘ……胡桃ミソモチを食べさせてあげるから元気出して」



 もうすぐ焼けるからね。

 やばいわ、五平餅とか名称浮くわ。


「本当ですか!? ありがとうございます! あ、先日のカツレツのソースをかけたものも大変美味でした! 前回までは塩でしたよね」


「ええ、ウスターソースはローウェの魔力と祈りの成果よ。あれをカツレツ用ソースに仕上げたの」

「他の騎士達も美味い美味いって食ってましたよ」



 食べ物の話題で元気になったようだ。ニコニコしている。



「お父様やお母様やアシェルさんにも美味しいって好評だったの」

「それは何よりです」



 約束された勝利のような気はした。だってとんかつは美味しいものね!


 ふと、思い出したかのようにローウェは言葉を続けた。



「農地視察の際は是非、このローウェにお声掛け下さい」

「そう? 一応お父様に言っておくけど、最終的にジャンケンになってもガッカリしないでね」

「か、勝たねば……」



 何やらやる気を出している。冬でも遠出が好きな人なのかもしれない。



「あ、焼けたみたい。ほら、特別にお父様より先に食べさせてあげる。あ、熱いかも、ふーふーして食べて」

「ありがとうございます!」


 言われた通りにふーふーして、焼きたて五平餅を食べるローウェ。



「……美味しいです!」



 はふはふしてる。

 やはり熱いみたいだけど、味に問題は無さそう。



「私も食べよう……っと」串に手を伸ばして、いざ、実食! 美味い!

「美味しい……」


 五平餅美味しい。


 ゴクリ。 生唾を飲む音が聞こえた。

 アリーシャと見守る料理人からのようだった。



「二人もどうぞ?」

「「えっ、でもまだ辺境伯も奥様もお食べになって無いのに」」



 アリーシャと料理人が遠慮してる。



「両親ともこの場にいないもの。ほら、今がチャンスよ。

これを食べ終えたら残りをお父様とお母様の所に持って行くわ」


「他の騎士様達の分は、いかがいたしましょう」

「今見て覚えたなら、同じようにして後で焼いてあげて。

胡桃味噌のタレと炊いたファイバスは残っているから」



 私の許可が出たので二人とも五平餅を美味しくいただいた。


 お父様とお母様の元へ、五平餅を渡す為、私とアリーシャはティールームに来た。

 お父様とお母様が五平餅に舌鼓を打っていたら、家令がノックの後に入室し、箱を持って声をかけて来た。



「お嬢様、お手紙とお届け物です」

「あら? どなたから?」

「聖下からです」

「ええ!?」



 青い箱の中身はサファイアを砕いて吹きつけたかのような、キラキラした美しい布のリボンだった。

 透け感の有る青い生地に、グリッターが付いてるような。

 どうやって細かい石をこんなに綺麗に布に引っ付けたのだろうか? 

 魔法と接着剤?


「お手紙を読んで見たら、想像以上に美味しかったパンのお礼らしいのだけど、

本当にサファイアを砕いて吹きつけてある……らしいです」



 なんなの? 高貴な方々の間で宝石を粉々にするのが流行っているの?



「サ、サファイアを砕いた?」

「ギルバート殿下はラピスラズリの宝石染めでしたわね。

王都の上流階級ではそういうものが流行っているのでしょうか?」


 両親とも、そう言って呆然としている。


 私もびっくりした!


 パンのお礼に何故サファイアを砕いた布が来るなんて、予想外過ぎでしょう!



「ど、どうすれば。パン一斤の返礼にしては豪華過ぎるでしょう」

「かと言って、贈り物を突き返す訳にもいくまい」

「そうですわねぇ……」


「お父様、これは追加のパンを贈るしかないでしょうか?」

「パ……パンで良いのか?」

「だって、パンのお礼と書いてあるのですよ。次は高価なお礼は要らないと手紙を付けて……」



 結局パンと絵付き蝋燭を贈る事にした。

 今度のパンは塩パンとクロワッサンとかどうかな?と、ほぼヤケクソになって計画を立てた。


 プレゼントの基本は自分が貰って嬉しい物だと言うし……ね。


 聖下が下さったキラキラとしたリボンは、とても綺麗。

 嬉しいか、嬉しくないかで言えば、正直言って嬉しい。


 空想の中の、妖精の羽根みたいに綺麗なんだもの。

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