第83話 騎士のマント

 〜 ライリーの騎士、騎士のヴォルニー視点 〜



「あれ、どういう状況だったんだ?」

「あれとは?」


 夕食の時間に食堂にて食事を待っていたら、騎士の同僚であるローウェが話しかけて来た。


「お嬢様がヴォルニーのマントの中に入っているのを見たんだ。凄く、凄く! 可愛かった!」


「寒かったから暖を取る為にお嬢様から入って来られたのだ。

籠を持っていたし、花を運ぶ為に、温風を出す杖は置いて来たのだろう」


「いいな、明日の朝の庭園近くの見回りは俺がやる」

「そんなにマントの中に入って欲しいのか」

「お前だって誇らしげに微笑んでいたじゃないか、見たぞ」

「そ、そんな所まで見ていたのか……」



 顔が知らずのうちに緩んでしまっていたか、うかつ。


「いくらなんでも成人したら入らないだろうから、お嬢様が小さいうちしかチャンスが無い。

猫のように甘えるお嬢様、めちゃくちゃ可愛いだろう」



 確かに、お嬢様が凄く可愛いらしかったのは事実。



「そう言えば、猫は暖を取る為に人間の膝に乗って来るよな」



 騎士仲間と雑談をしていたら、メイドのサラが食事を運んで来た。



「お待たせしました、今夜のお食事のカツレツとコーンスープとファイバスです。

ローウェ様の魔力を注いだ壺に入っていたソースに手を加えた物がカツにかかっていますよ」



「おお! それは楽しみだ!」



 揚げたてで湯気の立つカツレツには、刻んだキャベツとトマトと揚げた芋が添えてある。

 主食はファイバス。

 パンに変更も出来るが、ファイバスの方が腹持ちが良いので気に入っている。


 ローウェは嬉しさを隠せないようだ、めちゃくちゃ笑顔になってる。

 とはいえ、私も楽しみにしていた。



「厨房から美味しそうな香りがしていたから、待ち侘びていた、いざ……」



 私はそう言って、フォークを手にしてカツレツに突き刺した。


 サク……。


「「…………」」もぐもぐもぐもぐ。


「外はサクっと、中からはじわりと肉汁が……。そして味わい深いこのソース! 美味い!」



 ローウェが興奮気味に感想を口にした。


 私もお嬢様や厨房の料理人の耳に届くかもしれないので、感想を口にする。



「……うん。塩でカツレツを食べた時も美味かったが、コレも、また一段と美味いな、胡麻の風味も良い」


「お昼のおやつのシフォンケーキもふわふわでとても美味しい物でしたね!

貴重な素材を使われていたのに私達メイドまで食べさせて下さったんですよ。

あの白いクリームもふわりと柔らかくて、美味しくて、良い香りで……あのクリームだけでもたくさん食べたいくらいで」



 突然メイドのサラが昼のおやつのケーキの感想を矢継ぎ早に言って来た。

 あの味がよほど気に入ったのだろう。



「サラ、そんなに沢山話しかけたら、騎士様がお食事に集中出来ないでしょう?」


「あ、申し訳ありません、騎士様。つい、あの甘味の感動を誰かにお伝えしたくて」


「良いよ、君の気持ちは分かる。あの甘味も甘すぎず、とても上品で美味しい味だった」



 一応私からもフォローをしておく。

 騎士たるもの、女性に優しく、紳士たれ。



「エリー。じゃあ、あなたがお喋りに付き合ってよ」


「いいわよ、サラ。私達も後でこのカツレツを夕食にいただけるらしいから、その時にでもお話ししましょ」


「楽しみだわ、ここのお食事、何故か貴族の皆様と同じ物を食べさせて下さる」

「初回だからでしょう。素材は使うと減るから特別な調味料を使った物は出せなくなるって」

「まあ、このお城、規模にたいして人が少ないものね。今だけでもありがたいわ」



 サラは頬に両手を当て、うっとりとケーキの味を思い出しているようだ。



「サラー! キャベツのおかわりをテーブルに持って行ってくれー!」

「はい! ただいま参ります!」



 厨房から声が聞こえると、サラは慌てて厨房にキャベツを取りに行って、戻って来た。

 籠に入った山盛りキャベツがおかわり自由と言って、テーブルに置かれた。



「厨房の料理人さん達には味を覚えてもらったら、いずれ似た素材で再現を頑張って欲しいとお嬢様が言ってらしたわ。だから珍しい調味料を売ってる商人がいたら教えて欲しいとか」



 エリーもお茶を注ぎながらそんな事を言っている。


 メイド達は自分達の食事休憩中に話をするつもりだったようだが、うっかりこの場で盛り上がってしまっている。


 女性はお喋り好きが多いからな。



「俺達も知り合いの結婚式や葬式で休みを貰って他所の土地に行く時は珍しい調味料を探してみよう。

なあ、ヴォルニー」


 まあ、賑やかなのは嫌いじゃないし、構わないから、会話に混ざる。



「そうだな、神様の下さった調味料はいずれ尽きるから、私も珍しい食材を見かけたら買っておいて、お嬢様に報告をしよう」



 お嬢様の喜びは、我々の喜びである。



「そう言えば俺がお嬢様に貢いだでかい蛇も美味しかっただろう! 感謝してくれて良いぞ!」


「はいはい、ありがとう。そう言えば、蛇なのに何故か鶏肉みたいだったな、タレが凄く美味かった」

「ショウユ系の照り焼き味だったよな」 

「美味いはずだよ」


 などと雑談をしながら楽しく食事を終えた。


 その後、先に風呂に行っていた騎士達と入れ替わりで食堂を出て、風呂に向かう。


 温かい風呂にゆったりと浸かりながら、今日も良い一日だったと思った。

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