第79話 そういえば欲しかった

 静かな冬の夜。


 サロンでは暖炉の火が赤々と燃えて、薪がはぜ、部屋を暖めている。

 ゆったりとソファに腰掛けて、大人達は談笑をしている。


 メイドの方を見ると、準備が整ったようなので、私は声をかけた。


「お父様、お母様、鮎の燻製と一緒に、お酒はいかがですか?」


 メイド達が炙ったお魚の燻製とチーズの燻製とお酒の用意をしてくれた。


 せっかくブランデーやウイスキーを神様からいただいたので、両親に美味しく味わっていただきたい。

 お米のお酒もあったけど、あれは前回飲んで貰ったので、また今度。


「いいな、貰おうか」

「いただくわ」


「ウイスキーと、ブランデー、お好きな方をどうぞ。一口だけそのまま飲んでみて、強いなと思ったら氷か水で割って下さい」


 お父様はウイスキー、お母様はブランデーを選んだ。


「……強いな、だが美味い」

「よろしければこの氷をどうぞ」


 メイドが両親の前に氷入りの容器を差し出す。


「そうだな……、うん、氷入りも良い感じだ、美味い」

「……あら、美味しい。とりあえず、氷入りも試してみるわね」

「シルヴィア、こちらのウイスキーはどうだ?」


 お父様が自分の杯をお母様の目の前にかざす。


「では、交換してみましょうか」


 お母様が柔らかく微笑む。


「そうだな、騎士達も飲みたいだろうし、仕事を頼むドワーフ用にも多めに残しておきたいし」


 それぞれ一杯ずつくらいはいいのに……。

 でも、もしかしたら、これは……イチャイチャの一部なのでは?

 両親は仲良くゴブレットに入ったお酒を、交換して飲んでいる。


「まあ、ウイスキーの方が酒精が強いみたい」

「ブランデーはフルーティだな」


「おかわりいいですよ。ブランデーはライムやオレンジと合わせて飲んでみても美味しいかもしれません」



 私はそう提案しつつ、目の前にライムとオレンジも用意した。

 お父様の亜空間収納から、あらかじめ出してもらっていたの。


「では、ライムを試してみましょう」


「どうぞ、奥様」


 メイドがブランデーにライムを追加してゴブレットを差し出す。


「より、フルーティになって、美味しいわ」


「騎士の皆もどうぞ、神酒の方はあまり量は出せないけれど、ワインなら好きに飲んでおかわりしてね」


 限定のお酒は少しでごめんねと謝りつつ、薦める。

 


「私達の分まで申し訳ありません、大事に飲ませていただきます」


 好奇心に負けて辞退する騎士はいない。

 何しろ神様がくれたお酒だもんね。


「ヴォルニー、半分飲んで俺のウイスキーと交換しないか?」

「良いぞ、私はブランデーを選べばいいんだな」


「待って、一杯ずつくらいは飲んで良いのよ?」


 あまりに遠慮するので私から注いであげた。


 サロンの扉が開いて、ヒヤリとした冷気が流れ込む。



「こんばんは、皆さん」



 挨拶と共に入って来たアシェルさんに、お父様が声をかけた。


「アシェル、遅かったな」

「ポーションの調合をしていたんだ」

「こんばんは、アシェルさん、お酒と燻製があるよ」


「じゃあ、貴重な神酒だけど、果実で作られた酒を一杯。いただくよ」

「はい、どうぞ」



 私はブランデーと燻製セットを差し出した。


「……うん、これは美味しいね」


 やはり。 エルフのお墨付き。


「うーん……効くー」


 ローウェがウイスキーを飲んでおっさんみたいな事言ってる。


「強いお酒ですね、でも美味しい」

「これは美味しい。このウイスキー、ドワーフも大喜びの味でしょうな」

「この炙った魚の燻製と合いますね……」

「鮎の燻製が美味しすぎる、頭まで食べられる」

「このチーズは燻されたことで、濃厚さと風味が増しているのか」


 暖炉前で燻製と蒸留酒を楽しむ大人達。


 流石神様の下さったお酒、好評みたい。


「ワインならおかわり沢山ありますよ、赤でも白でも」


 皆、神酒を遠慮して少しだけにとどめるので、買ったワインを薦める。


「じゃあ、白ワインをいただこう」


 お父様の声にメイドが素早く反応して用意してくれる。


「本当、軽く炙ると、薫りがたって美味しいですね」


 私も燻製の鮎を食べ、感想を言った後に、前から考えていた事も伝える。


「お父様、春になったら他領の川から食べられる、生きたままのお魚を分けて貰う訳にはいかないでしょうか?」


 いつか川でガサガサもしたいなー。


「生きたままの魚を食べたいのか?」


 お父様、待って! 踊り食いとかじゃ無いです!


「違います、ライリーの川の生物が瘴気でアレな感じになってるので、生きたままのお魚を分けて貰って、放流したいのです」


「あー、そう言えば、川で魚影を見た者はいるか?」


 お父様がぐるりと周囲を見渡す。

 すると優雅にソファに腰掛けている騎士達も思案顔で答える。


「お嬢様が綺麗になった川で野菜を冷やしているのは見ましたが、そういえば、見てないような」


「水草や苔は復活していましたよ」

 騎士達もお魚を見た覚えが無いようである。


「魚と言っても……少し分けて貰ったとして……焼け石に水では」


 お父様は他領に「お魚分けて下さい」とか言うのが恥ずかしいのかもしれない。

 借りを作る事になってしまうし。でも、まだ諦めきれない。


「少しずつでも卵を産んで増えてくれたら、あまり収入の無い民も川に魚がいて、釣れたら食べられますし、助かると思うのです」


「考えては、おこう」

「お願いします」


 春が来たら、どうにかなるといいな。




 * * *


 4日目 朝のログインボーナス 壺ガチャ結果


 私      鉛筆と消しゴム (文房具)


 お父様    お酒      (米の酒)

 お母様    ブランデー


 ヘルムート   醤油

 ヴォルニー   味醂


 壺の中に黒い巾着袋が有ると思ったら、中にはぎっしり鉛筆と長方形の白い固形消しゴムが入っていた!

 

 地味に消しゴムが無くて辛かったので助かります! 

 これでバクチみたいな一発描きから解放される。

 絵を消すのにパンとか前世で見た記憶があるけど、やっぱり消しゴムがいい。


 お洋服やアクセのデザイン画とかも描きやすくなるので、本当に嬉しい。

 仮にゴムの木を見つけたとして、某有名メーカーの様に綺麗に消せる消しゴムを作れるようになるには、

 かなりの時間がかかりそうだし。


 醤油とブランデーの追加もあって良かった!

 料理に使える分が増えた!


 味醂も使いたい時に、あ、無かった! って、よくなるので、助かります!

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