恩寵の章

第73話 神様からの贈り物

 新年前になんとか2柱の女神様に捧げるドレスが完成した。


 ドレスは白の絹を使った。

 スリット入りマーメイド型ドレスにレースと布花の飾り付き。


 大地の女神様用のドレスは、赤やピンクの暖色系の布花を飾ってある。

 月の女神様のドレスの布花には青系の寒色。


 布花は左胸の上、前襟部分から肩のあたりにかけてひと塊。

 それと差し色のように着脱式の袖を袖口の部分に付けてある。


 それと透明な樹脂の中に花を封じ込め、透けて見えるお花のミュール。

 中の花の色もドレスに合わせて暖色と寒色に分けてある。


 このミュールが目立つようにドレスにはセクシーなスリットが片側にだけ入っている。


 スリットの部分と裾に金魚の四つ尾のようにひらひらした形の美しく繊細なレースとオーガンジーで飾ってある。


 ここのレースの縫い付けをお母様が引き受けて下さった。


 亜空間収納から、あらかじめ作っていた花冠も出して貰う。


 * *


 リナルドに魔法陣を構築して貰った。


 大きい板か布地を用意して欲しいと言われたので、執事に頼んで大きい板を持って来て貰った。


 謎の果実の汁で板に魔法陣を描いていた。


 汁が乾いた後にドレスを二着トルソーごと設置して、ミュールは箱に入れ、花冠はトレーに乗せた。

 一式揃った所でお祈りをした。


 魔法陣が光り輝いたら、シュッと捧げ物達が消えた。


 驚き!


 リナルドにあとは明日の朝を待てと言われた。ドキドキする。

 


 * * *



 朝、起きた。


 新年…だ、あけましておめでとうございます。

 連日縫い物をして疲れていたので、「ご来光」的な物も見るのを諦めて寝ていたわ。


 窓から朝日が差している。 ……晴れてる。



 祭壇を見た。


 魔法陣の板の上に、「贈り物だ! 何か複数ある!」

 見つけた瞬間、私は思わず一人で叫んで、ベッドから出て駆け寄った。


 リナルドもぴょんとベッドから飛び出て来た。

 


 まずなんといっても目立つのは! なんと、アンティークミシンがある! 台付き!


 せっせと手縫いしてた苦労を見て慈悲をかけてくださったのだろう。

 なんてありがたい! お洋服作りが捗る。


 しかも組み立て済みとパーツごとに分けている、組み立て前の状態のミシンも大きな箱に入っていた。

 設計図と説明書まで付いて。

 更にこのミシン設計図と説明書だけは10セットもある。


「これは、見本にして量産しても良いよって事?」


 リナルドに訊いた。


『うん、そうみたい』

「お優しい!!」


 神様からいただいたミシンを一旦ばらすという行為はしにくいけど、その気持ちを予想してか、最初からバラしてるパーツ状態を下さっている。


 足踏み式のミシン。

 電動ではなくアンティーク系なのは世界感を考えると納得ではある。



 さらに謎の蓋付きの壺が複数あった。5個の壺。そして箱。


 そのうちの一つ、黒い壺の蓋を開けてみた。

 この、黒い液体は……まさか!


 心臓が早鐘を打つ。


 リナルドが箱を指差してこれ開けてって言うので震える手で開けた。


 あ! 銀のスプーンが5個箱に入っている!


 スプーンをひと匙黒い液体に入れて、持ち上げて、ペロリ。舐めてみた。


「これは……醤油!!」


 イエ────イ!!


「神様ありがとうございます! これがずっと欲しかったんです!」


 魚醤じゃなくて大豆で作った醤油の味がする。

 感無量! じわりと涙が出てきた。



『ティア、泣く程? 涙出てる』

「涙も出るわよ。今まで味噌の上澄み液で代用していたのよ、涙ぐましい」


 では、隣は何かな?涙を拭って白い壺の蓋を開けてみた。 

 壺の中に白い種がみっしり。

 さらに隣の黒い壺には黒い種がやはりみっしり入ってる。


「……何かの種?」


『それはね、ティアの記憶の中にある…、えーっと、植物の瓢箪ってあるよね』

「うん、これどちらも瓢箪の種なの?」


『外見は瓢箪に似てるんだけど、白い方の種を植えると、砂糖が入ってる実がなって、黒い方の種はチョコレートが入った状態で実る』


「ええっ! テンサイやカカオの実じゃないの!?」

『カカオとか気候が難しいから』


「え、それを考慮してってことは、ライリーでも育つ不思議植物?」

『そうだよ、ただ、ティアが住んでる領地限定だけど』

「私が住んでる領地限定? 種をよその領地にあげても増やせないって事?」


『うん、ティアが将来子供を産んでその子がよその領地に行くならそこでは実る。

ティア自身が移動しても実るけど』


「お父様やお母様のそばから離れたくない」


 推しのそばから離れたくない。


『だよねえ、知ってる』


 にしても砂糖とチョコですって!


「……子供を養子にくれって言われそう……。あげないけど!」


『でも女の子なら育ったら高確率で嫁に行くのでは』

「まあ、本人が行きたいなら……、まともな嫁ぎ先なら良いけど」


 他の壺は、と青い色の壺を見てみる。


『それはね、お酒、原材料がお米のお酒、ティアはまだ子供だから料理に使えば良いよ』


「お米のお酒!」

『ティアの両親は大人だから、そのまま飲んでも美味しいと思う』

「私の分、料理酒にしたらもったいなくない?」

『肉体が子供だから仕方ないのでは』


 確かに。


『その壺から他の容器に入れ替えて、洗って水を入れて魔力を注いで祭壇前に置いておくと、翌朝また何か入ってるよ』


「何かって何!?」


『魔力を注ぐ人によって違うらしい。ちなみにお酒は大人しか作れない』

「奇跡の壺だ! お父様とお母様に協力していただきましょう」


 神様が下さったリアル奇跡の壺!


「醤油と米のお酒……神が私に和食を作れと言っている?」

『好きな物を作れば良いよ』


 醤油、砂糖、チョコ、お酒と来て、最後の白い壺はと、開けてみた。

 液体! 凄い甘い香り!


「バニラエッセンスが入ってるよ」


 聞いてからばっと、蓋を閉める。


「神が私にお菓子を作れと言っている!」

『作ればいいと思うよ』

「ハンドミキサー完成が待ち遠しい」


 あ! お父様とお母様に報告しなきゃ!

 私が寝巻きのまま部屋を飛び出そうとすると、『ティア! 着替えは!?』

 と、リナルドが止めて来た。


 忘れてた!!

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