第72話 隙あらば膝に乗る猫のように
カリカリ……。
妖精のリナルドはテーブルの上で愛らしく胡桃を食べている。
サロンでお父様とお茶を飲みつつお母様を待っていた時の事。
「はっ!」
「ティア、どうかしたのか?」
お父様が一体何だ?という視線と質問を投げて来る。
「昨夜はもしかしたらウィルがお母様と寝、ねんねしたのでしょうか?」
「そうだな」
「あー! それなら私がお父様の寝床に潜り込めば良かった」
「ん? 寒かったのか?」
そうじゃないけど、それを理由に甘えたかった!
「私がお父様の湯たんぽになるのです!」
すっくとソファから立ち上がり、お父様のお膝に移動する。
「カイロにもなれます」
お膝にちょこんと座って言う私。
「あはは。こんなに見た目が可愛い湯たんぽやカイロは見た事がないな」
そう言って、きゅっと抱きしめてくれた。
えへへ! ……満足!
「あら、ティアったら、またお父様に甘えているのね」
お母様が弟のウィルと一緒にサロンに入って来た。
ウィルは執事が抱えている。
お母様は私の事をしょうがない子ね、って言う風ではあるけれど、顔を見ると優しげな微笑みを湛えている。
しかしこのままではお父様がお茶を飲むのに邪魔なので、私はお膝から降りてソファに座り直した。
* *
お母様に先日の王都側の星祭りの映像を見せた。
「ラピスラズリの生地……ああ、確かシエンナ王女の嫁ぎ先の公爵領はラピスラズリの鉱山を持っていらしたわね」
お母様は優雅に紅茶を飲みながら、そんな情報を下さった。
ちなみにおやつはシュークリーム。
「と、いう事はあの生地は姉君か公爵令息あたりに売り込まれたのでしょうか?」
私はそれだったら良いなと思って言った。
「ありうる話だな」
「身内価格で購入出来ていたら良いのですけど」
私は殿下のお小遣いが心配だった。
「ティアかシルヴィアがあの生地を使ったドレスを着て、パーティーにでも出れば宣伝になるから、破格で買えててもおかしくはないな」
「流石に、あれは私ではなくティアに贈られた物ですし」
「でも、お母様、私はまだ社交界デビューもしていないのですよ」
「まあ、どのタイミングで着るかは悩む所でしょうが、ティアが着てあげるべきでしょう」
「私もそう思うが、売り手側の公爵領の狙いが生地やラピスラズリの宣伝だとすると、早い方が良いとは思うな」
「いいえ、これは殿下からティアへの贈り物ですからね」
お母様は譲らない様子。
青バラモチーフでお母様にあの生地でドレスを作ったらさぞかし美しいでしょうに。
「いただくのがもう少し早ければ、女神様のドレスに使えたような……」
などと考えてしまった。
生地があまりにも豪華だったので……私にはもったいない。
「そういえば、女神様にお供えするというドレスは、どのくらい縫えたのかしら?」
「新年のお祝い前のタイミングでお供え出来るかもしれません。前日あたりに」
すると神様からのご褒美が、お年玉みたいに新年にいただけるのでは!?
と私は思った。
「私にも手伝える事があるかしら?」
お母様が手伝って下さるの!? お優しい!
「外注にすると手抜きだと思われないか心配だったのですが、お母様なら、身内だし、良いかもしれない気がしてきました」
「確かに身内だし、良いかもしれないな」お父様も納得したっぽい。
リナルドも頷いているから、セーフみたい。
「とりあえず、それならお母様はレースを取り付ける作業をお願いしてもいいでしょうか?」
「ええ、いいわよ」
これで作業も少し楽になる。
ほっとして、お茶を飲み、おやつのシュークリームを頬張る私だった。
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