第71話 騎士の肖像画

「ただいま帰りました」


 王都で流星群を見た後にライリーに帰った。

 姿変えの魔道具を停止させ、元の色に戻す。


 城内の祭りはまだ続いていて、男の人達はまったりと飲んでいた。

 お酒とつまみが有れば、朝までずっと飲めるのかもしれない。


 お母様は弟と一緒に早めに自室に戻ってるようだったけど、お父様を見つけた。


「お帰り、ティア」

 私はソファに座って寛いでいるお父様の元へ行き、膝をかけ、ソファに登った。

 

 そしてお父様の頬にちゅっとキスをした。

 するとお父様はやや、くすぐったそうに笑った。


 ……笑顔が可愛い。大人の男前だけど可愛い!


 昼にプレゼントを貰った後に、こちらはキスも貰っていたのに、舞い上がってお返しのキスをしていなかった事を思い出したのである!


 なんたる不覚。


「お父様、流星群を見ましたか?」


「ああ、レザークが風の精霊が騒いでるから屋上に移動しようと言ってくれたからな。綺麗だったよ」


「ああ、なるほど、屋上から」よかった、こちらの人達もちゃんと見れてて。


「王都の賑わいはどうだった?」


「賑やかでしたよ。宝珠に記録してあります。見ますか?」

「そうだな、せっかくだし、用意させよう」

 お母様には明日のお茶の時間にでもまた見せるという事で決まった。


 壁に白い布を用意して映し出す。

 祭りを楽しむ王都の人達や屋台。 串焼きを食べる殿下や騎士達。


 美しい夜空に流星群。


 そして……


「ラ、ラピスラズリを砕いて染めた布地!?」



 お父様もあのプレゼントには驚いた。


「流石王家の王子殿下、やる事が凄いですな」

 黒髪眼帯騎士のヘルムートさんがバリトンの声で言った。 渋い、かっこいい。


 アシェルさんが亜空間収納から実物の布地を出した。


「ほら、これだよ」

「鮮やかな瑠璃色だな……見事だ」


 お父様がほう……と、ため息を漏らす。


「この美しく高貴さを感じる瑠璃色は、私よりもお母様に似合いそうです」

「いや、しかし、ティアへの贈り物な訳だし、自分のドレスを作った方が殿下もお喜びになると思うぞ?」


「そうですねえ……とりあえずまだ女神様のドレスを縫い終わって無いので、収納しておいて下さい」



 お父様は素直に亜空間収納に入れてくれた。

 これでうっかり虫に食われる危険は消える。



「アリーシャ、私の部屋から画材を持って来てくれる? 紙も」


 おもむろに指示を出す私。


「はい、お嬢様」


 食べ終わったお皿を下げて貰って、スペースを作る。

 アリーシャの持って来てくれた画材を机の上に広げた。


「こんな所でお絵かきか?」


 お父様が疑問を投げて来る。

 今はサロンにいるので、まあ、ちょっとおかしいですけど。


「未婚の騎士がそこに揃っているので。ほら、ヴォルニー、正面に座って」


「え、今、以前に言っていた肖像画を?」 



 金髪のイケメン騎士のヴォルニーが驚いた顔をする。



「そうよ、あまり時間はかけられない絵になってしまうけど、許してね」



 いきなり始まる似顔絵描き大会。


 重ね塗り可能な絵の具だから多分どうにかなる。

 でもやはり、シャーペンと消しゴムが欲しいな。



「お嬢様が描いて下さるなら、どんなでも嬉しいですよ」



 ……何しろどんぐりでも喜んでくれる人達だからね。



「ん? ティア、異様に絵が上手いな」



 お父様が驚いている。

 お父様は私の部屋にある祭壇の絵を見ていないのよね。


「お嬢様は天才なんですよ」


 アリーシャがやたら誇らし気に言う。


「凄いな……お嬢様は絵もお上手だったんですね」


 目の前のヴォルニーも驚いている。


「えへへ」


 笑って誤魔化してるけど、確かにこの年齢にしては異様に上手いと思う。


「……婚約者と別れてライリーの城に勤めてる我々の為に、お嬢様はお優しいです」



 ヴォルニーは感動しているようだ。


「つまり、お見合い用の肖像画を描いてもらっていると?」


 お父様が隣でお酒を飲み、私のお絵描きを見守りつつ問うた。


「気にしなくても良いと言ったのですが、お嬢様はお優しいので」


 ヴォルニーは穏やかに微笑んでいる。


 そんなこんなで、なんとか騎士5人分の肖像画を描き終える。


 前世のイベント会場でスケッチブックに頼まれたキャラを描いてた時を思い出した。

 人様の推しを描かせていただいたなあ……。




「「ありがとうございます! 家宝にして自室の壁に飾ります!」」


 受け取った騎士達が嬉しそうなのは良いけど……違う!


「違うでしょう! うちに勤めると言ったら安定を求める女性に縁切りされたから、新しい出会いの為に、姿絵をお見合い相手の家に送るのよ!」


「そんな事をして、大事な絵が戻って来なかったら、どうするんですか」

「要返却って書いておけば」


「信用出来ないです……」

「故意じゃなくとも事故とかで紛失するかしれません」

「そこらの画家に描き直して貰っても、お嬢様から描いて貰った大事な絵は戻りませんし」


 ええ……? んもー!!


「だから何の為に書いたと思ってるの。自室に自分の肖像画とか、ナルシストみたいよ。やめなさい」



 君達、もしかして子供が幼稚園か小学校で描いて来た絵を壁に貼る保護者気分になっているの?


「しかし……せっかくお嬢様に描いていただいたのに」



 なおも抵抗する騎士達。


「どうしても見合い相手の家に送りたく無いなら、実家の両親の元にでも贈ればよかろう」


 お父様が実家の両親も絵があれば息子達の顔がいつでも見れて嬉しいだろうと言うと、騎士達は承諾した。


 実家なら大事に飾ってくれるだろうけどね。


「でもお見合い用は……」


「他所の、人の多いパーティーに呼ばれて出ればモテるので大丈夫ですよ」


 ローウェがそんな事をあっさりと言ってのける。


 んもー! イケメンは余裕ね!!

 ライリーの大地が復活したし、その気になればいつでも彼女作れますって事ね。

 それならそうと、はよ言って!


「そうなの。じゃあこれは、私から星祭りの日の贈り物という事にしますからね」


 諦めて、そういう事にする。


「「はい!ありがとうございます!!」」


 騎士達の声がハモる。


「ティアはそろそろ寝なさい、疲れただろう」

「はい」



 お父様の言葉に返事をして、お風呂に入って寝る事にした。


 


 はあ……、今日はイベント目白押しだったな。



 お風呂から上がるともうぐったり。


 私はリナルドと一緒にベッドの中で丸くなると、すぐに眠ってしまった。

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