第69話 一計を案じる

 突然現れた、いや、待機していた聖下の存在に驚いた。

 白い祭服を着たお供の聖職者をずらりと控えさせて私の眼前に立っておられる。



「いや、噂に違わぬ美しさだ。

プラチナブロンドに内から光を放つかの様に煌めき、澄んだ新緑の瞳……」



 聖下が陶然とした眼差しを私に向けて、そう言った。



「え? 姿変え機能して無い?」



 私は驚いて手首の魔道具をコートの上から手のひらで押さえ、隣にいるアシェルさんを見た。



「いや、ちゃんと機能してる、茶髪に茶色の瞳だ」

「ああ、私には看破というスキルがあってね、真実の色が見えているんだ、驚かせて申し訳ない」


 アシェルさんの言葉に被せるように言った聖下が説明してくれた。

 なるほど、看破かー。 流石聖職者のトップ!


「聖下が何故私の出迎えなどを?」


 当然の疑問を投げる。


「いや、ここに来れば会いたかった人に会えると予感がしてね、導かれるまま来たのだよ。

ライリーの大地の浄化、素晴らしい偉業を成した令嬢だ、一目でもと」


「恐れいります。神様の御慈悲を賜りまして……」



 殿下も聖下の存在感に圧倒されているのか、口を挟めず静観している。

 びっくりさせられた分、せっかく権威ある人に会えたのだし、仕事を頼んでやろうと思った。



「聖下、わざわざ挨拶して下さったご好意に甘えて、一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」



 わりとあつかましくも強引ではあるが、通してみせる。



「お願いですか?」


 聖下の様子は興味深いと言う風で、不快そうな感じは無い。


「私は今、ギルバート殿下の進めている、壊血病の医療計画に手を貸していただけないかと思っております」

「手を貸すと言うと?」


「簡単な事です。

病人を集めて変な事をしているのでは?と、世間では勘違いする者がおります。

殿下の行いは正しく病に苦しむ人を救う為の尊い行為であるのにもかかわらずです」


「ふむ」


「聖下の教話の後にでも、あの医療計画に偽りは無く、正しく救済のものであると説明をしていただきたいのです。

聖職者の権威ある言葉なれば、信じる者も多いでしょう」


「なるほど、人の集まる場所での教話の後に少し話せばいいだけと」


「左様でございます」

「看破のスキルで言葉の偽りも見抜けるのでしたら、ご随意にどうぞ」


 私は聖下に「当方、偽り無し!」という風に目を合わせる。


「……なるほど、セレスティアナ嬢のその言葉に偽りは無い」


 そう言って聖下は次に殿下の方を見る。意味を悟った殿下は胸を張って断言した。


「偽りなく、壊血病から人を救う為の行為である」と。


「良いでしょう、私からも話をしておきます。病に苦しむ人々の救済なれば、我々も望む所です」



 快く引き受けて下さった! 流石聖職者! 内容は人助けだものね!


 信者の集会で説教の後に少し雑談を付け加えるだけの簡単なお仕事です!

 

「ありがとうございます。

人助けの為であるのに殿下にあらぬ疑いがかかっているのを知った時には、肝を冷やしました」



 私のせいで評判を落とすなど、許されない。



「お優しい事だ」

「過分なお言葉でございます。あ、そうですわ、引き受けて下さったせめてものお礼に、ささやかですが」


 アシェルさんに頼んで鞄と見せかけた亜空間収納から食パンを1斤丸ごと、紙に包んだ物を聖下のお付きの人に渡して貰う。


「それは……」


「パンです。ふわふわでもっちりしておりますよ。

軽く温めてからだと、なお一層、美味しくお召し上がりいただけます」



 私は微笑みつつ、商品パッケージの説明を読み上げるような説明をした。



「ありがとうございます」



 聖下はパンと聞いて、一瞬目を丸くして驚いた後に、おかしそうに笑ってお礼を言った。


 ライリーでの浄化の儀式でも、清貧を尊ぶ巫女さん達はお肉は受け取らずとも、おにぎりやパンなら受け取った。


 こっちの聖職者もパンくらいなら渡しても平気だろうと思った。

 あんまり凄いの渡しても賄賂みたいだし。

 パンくらいなら微笑ましいよね、だってさっき笑ってらしたし。


 話は終った。



「祭りの最中ですのに、貴重なお時間をありがとうございました」



 私はお礼を言って、去る事にする。殿下もさっきからお待たせしている。



「良い夜を」



 聖下のありがたい言葉をいただき、我々の聖者の星祭りはこれからだ!


 これから祭りの屋台を見に行くぞ! と、決意を新たにしたのだった。

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