第66話 プレゼント選び
転移陣を出て、城下街へ来た。
聖者の星祭りが近いせいか、いつもより活気に溢れているように見える。
前世で見た、クリスマス前の少し浮かれた街の様子を思い出した。
そこでナリオが、
「そういえば妖精はどうした?」
と、聞いて来た。お忍びなので敬語禁止令発動中。
「まるで巣の中にいるかのようにポシェットの中で寝てる」
ポシェットを開いて中で寝てるリナルドを見せるとナリオは「可愛い……」と声を潜めて言った。
分かる。寝てる小動物可愛いよね。
「これから宝石を扱うお店に行くから、このまま寝かせておこう」
「ああ、分かった」
ナリオは護衛として一応剣は装備していて、騎士のようではあるが、鎧や紋章の類は付けていないので、休日の騎士様がどっかのお嬢さんを案内してる風を装っている。
エルフのアシェルさんも騎士っぽくも見える、綺麗めな服を着ている。
宝石店に行くし、ドレスコードで弾かれたくないから。
ちなみにエルフの武器の弓などは亜空間収納の中。
鞄としてトランクを一つ持っている。
街を歩きながら美形エルフとイケメン騎士連れてるこのお嬢さん何なんだよって視線を感じる。
なかなかの店構えの宝石店に着いた、いざ、入店。
店の人が一瞬目を見張ったけど、身なりはそれなりなので追い出されはしなかった。
とりあえず、青い石を探そうと周囲を見渡す。
「いらっしゃいませ、何をお求めでしょうか?」
「青い石を見たいの」
今は子供の外見なので、一応意識して話す。
「青ですか、こちらにサファイアやアクアマリン、アイオライト、ラピスラズリなどがございます」
「……このサファイアのペンダント、買います」
「無茶苦茶決断早いね」
ナリオが驚いている。
「この石が自分を買えと言っている気がして」
目を惹くのよ。
「こちらですね、すぐにお包みします」
「あ、それと緑色の石と紫も見たいので」
お父様とお母様用。
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
エメラルド、ペリドット、ジェダイトなどがあった。
「このエメラルドを買います」
「早!」
またナリオが驚いている。
最後に紫の石でアレキサンドライトと色んな色味のアメジスト達。
「このアレキサンドライトを買います」
「驚きの速さ」
ナリオがそんな即決で大丈夫か? って顔して見て来るけど、大丈夫よ。
アシェルさんが鞄から預けていたお金で支払いを済ませて店を出た。
超高級店ほどでは無いけど結構お金を使ってしまった!
店の人もこの子供何者? でも売れるからまあいいや! みたいな雰囲気だった。
しかし、流石本物の宝石。
しっかり稼いで取り戻さないと!(令嬢なのに中身が小市民)
店の前はそれなりに人通りがあるので、美形集団の我々はえらく目立つ。
しかも美少女が二人のイケメン侍らせているように見える。
しかも片方はエルフ。……かなり見られている。
「すぐ移動しましょう」
私はそう言って、乗合馬車を呼び止める。
「私、乗合馬車は初めて」
ウキウキ気分の私に、アシェルさんが視線を向けた。
「アリア、乗合馬車に乗れたのが嬉しいのかい?」
保護者っぽい優しい笑みを浮かべてる。
「うん!」
私は満面の笑みで答えた。
乗り合い馬車は漫画で見た事あったけど、自分が乗れる日が来るとは感無量である。
「そういや聞いたか?」「何を?」
肉体労働系のおじさん達が話をしているのが聞こえる。
「この国の第三王子様が病人を集めているって」「病人なんか集めてどうすんだよ」
「なんでも壊血病の人間を集めて治療してくれるんだと」
「そいつは……治療費がめちゃ高くつくのでは?」「なんと無料だ」
「なんだそれ、信じられねえ。あやしい魔法の実験体にでもされるのか?」
「違いますよ! それ、まじめに治療してくれてるんですよ。
そのうち多くの船乗りにとっての救世主になりますからね!」
他人の会話なのに思わず口を出した。
「なんだ、えらく可愛い嬢ちゃん、王子様の事を知っているのか?」
「医療計画に関わっている人が知り合いにいるだけですけど」
お忍び中ゆえに詳しくは言えない。
「それが本当ならたいしたもんだな」「違いない」
がははと笑って、どうもこのおっさん達、私の言う事も、殿下の事も、信じてないみたい。
今に見てなさい、結果は出るから。
「噂が広がっているという事はちゃんと仕事頑張ってくれてるんだろうね」
「うん」
私はナリオの言葉に力強く頷いた。
ほどなくして目的地に着いたので、馬車から降りた。
中古の服を売っているお店。
先に子供服のコーナーを見て、良い感じのラテカラーの服を見つけた。
あとは扱いやすい色の服も、二着自分用に購入。自分用が合計3着、控えめ。
どうせ子供はすぐサイズアウトするって言う貧乏性が抜けない。
それから、ふと思い付いた事があって、大人の女性用の服を探す。
中古と言えど普通にコンディションが良いのが沢山有る。
品揃えの良いお店で良かった。
「それはアリアには大きいのでは?」
ナリオもこの場ではお嬢様とか、呼ぶ訳には行かないので[アリア]呼びである。
今日はアリア2Pカラーバージョン。お父様色。
「これはー、メイドのお姉さん達の分」
「どうしてメイドに? 誰かに代理購入を頼まれてた?」ナリオがきょとんとした顔をする。
「何も誰にも頼まれてないけど、メイドさん達も知り合いの結婚式に呼ばれたり、恋人とデートする時とか、実家に帰る時とか、着替えの選択肢が増えると嬉しいかと思って」
私がそう補足説明を続けたら、ナリオは一瞬、眩しい物を見たかのように目を細め、華やかに笑って言った。
「アリアは優しいね」
「まだ他の人には秘密にしておいてね。聖者のお祭りの日に使用人達へのプレゼントに、貸し衣装を始めるっていう計画よ。付け襟も増やして貸すの」
私は今自分が身に着けている襟を摘んで見せた。
城内メイド限定よ、今の所は。城外に貸し衣装屋とかは、まだこの時代には早い気がする。
車もバイクも無いし、人に頼む配達も高くつくから、ちゃんと返却に行く人は少なそう。
「お兄ちゃんも選んであげて?」
と、ナリオをお兄ちゃん呼ばわりしてみた。
ぜひ男ウケするのを選んでやって欲しい。
「……っ!」
口元を押さえて、お兄ちゃん呼びに驚いているようだ。
頬が上気してなんか、嬉しそうなの。
ふふふ。可愛いじゃない。
そしでアシェルさんにも目配せしてみると、私にも?と自分を指さすので、私はこくりと頷いた。
かつて貴族物のラノベ等でゲットした情報。
実際の所はよく分からないし、雇用側から懐事情を詳しく聞けないから想像なんだけど、メイドさんはあまり普段の着替えを持って無くて、デートの時やお祭りの時、仲間内で服を貸しあっていた。
下手すればデート服とかではなく、仕事の際のお仕着せ、メイド服という、制服が無い場合にはもっと困っていた。
お賃金も別に高級取りではなく、お金はあんまり無いのに、貴族の家であまり見窄らしい服は着られないので苦労したとかそういうのも見た訳で。
制服の概念がまだあんまり無い世界は敵味方判別の為にお揃いの軍服は有っても、普通メイド同士は殺し合わないから雇用側の上の人は気にする事もあまりなかったとか。
うちは仲間内と言っても経費節約で人員も多くは無いから、せめて中古であっても貸し衣装を用意してみようかという、試み。
逆に新品だと汚したらどうしようって気を使うかもだけど、中古だと気軽に着れるのでは?
私なんかも前世、フリマアプリで買った中古の服は、新品と違って汚しても惜しく無いって気軽に着れたものだもの。
まあ、でも、来年からもう少し人員を増やして貰おう、何しろ殿下とかが急に泊まりに来る。
そして男性陣が選んだ服を見て、ふーん、こういう系が男ウケか〜やっぱり清楚な感じか〜。
へー、ナリオはアッシュピンクとか好きなんだ、良いよね、落ち着いたくすみ色のピンクって。
私もくすみカラー好き。
アシェルさんの選んだ服を見る。
カーキにモスグリーンに主に緑系の上品な服を選んでる、あーエルフ感有る!!
みたいな感心の仕方をした。
面白いので、今度は違う騎士も連れて来て選ばせてみよう。
「ところで、男性の執事とかの服はいいのかい?」
アシェルさんが聞いて来た。
「男は地味で良い」
「えっ」
アシェルさんに驚かれた。いかん、素が出た。
「あ、でも着替えは多い方がいいね、清潔感は大事。ちょっと選んでみる」
前世からあまりチャラい男とかはこう、苦手なので、男の服は派手よりシンプルがいいんじゃない? って思ってたけど、ここはファンタジーな雰囲気の世界。
騎士服や冒険者風の衣装とかは普通にときめくんだけど、平民の男性の普段着はイマイチよく分からなくて、うっかりスルーする所だった。
道ゆく人の服を思い出せ、自分。
「こういうのはどうかな?」
アシェルさんが提案して来た無難そうな服に「いいね」と言って許可を出す。
「これとか」
ナリオも男性用の服もちゃんと選んで見せてくれる。
「うん」
……私ったら、女性を飾る事には熱心なのに……。
今度はお父様のお洋服も作ろうね、私。
とりま、女神様用の服を縫い終わってからだけど。
時間が……足らない。
おかしいな、子供の時間ってもっとゆっくり……あ、私、子供なのに仕事しすぎじゃん?
まあ、倒れないレベルで、頑張ろう。
ライリーの大きなお城の部屋は余ってるから、使用人達用の貸し衣装部屋を作って、これらを使用人用のクリスマスプレゼント……。
──間違った!!
聖者の星祭り用プレゼントにしたいって、お父様とお母様に相談してみよう。
さっき思い付いた事なので、実はまだ要求は通っていないのだった。
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