第64話 欲しいものが多くて困る

 今夜もサロンで神様に贈るドレスをひと針ひと針縫いながら思案にふける。

 さっきまで私の為に本を朗読していた騎士達は休憩してお茶を飲んでいる最中。


「あ!」

「お嬢様、どうしたんですか?」



 騎士ナリオがこちらを振り返って言った。



「今年の冬はもう自分で魔法も使えるので聖者の星祭りに行ってもいいのかしら」

「さあ、それは辺境伯に聞いてみませんと、行くなら喜んでお供しますよ」


 いち早くナリオが同行の希望する旨を言った後に、


「いや、それなら俺が」「いや、私が」


 騎士達がこぞって祭りに同行しようと声をあげる。


「ありがとう、まだ許可を貰って無いから、落ち着いて」


 騎士達を制止しつつも、要するに身を守る事が出来れば良いのでは? と、私は考えた。


 屋台! お祭り! お忍び! 

 まず、乙女ゲーでもアニメや漫画でもお祭りイベントは重要ですよ。

 デート相手に今はこれが精一杯とか言っておもちゃの指輪を買って貰うやつとか。


 まあ、デート相手とかいませんけど!


 お祭りに付き物の花火とかが有るのかも分からないけど!


 この世界では銃や火薬を使ってる様子が無いから……花火は無いかな?


 でも火薬を広めたら戦争で怖い事になるのは分かるから広めるなら魔法の光で花を咲かせる方ね。

 視覚的に綺麗なだけなのでこちらなら害は無いはず。

 多分。


 作業を一旦休憩にして、夜の執務室へ向かう。

 サロンにも来ないし、お父様はまだお仕事をしてるんだと思う。

 


 * *


「まだ屋台を諦めて無かったのか」


 お父様は書類から顔を上げ、私を見てそう言った。


 屋台ラブすぎて申し訳ない、祭りはやはり良いものですよ。

 皆楽しそうで独特の雰囲気が良いと思うので。


「お忍びで行きたいのです、城は貴族が怖いからなるべく近寄りたくないのですが」


 じっと見つめる私の懇願する視線に……負けて下さった。



「……仕方がないな、護衛は連れて行くのだぞ」


 やった──っ!! わりとあっさり要求が通った。

 キラー・ビーの女王を倒して評価が上がったのかな?


「またお忍びかい?じゃあSランクの私が今回も同行しよう」



 毎度突然扉付近から現れるエルフ!!


「アシェルさん! 今回もお世話になります! 今回は姿変えの魔道具で違う色を試してみたいのです」


「違う色?」

「お母様の配色です、青銀の髪にブルーグレーの瞳」


 私はニッコリ笑って言った。


「何故、その色を?」


 お父様が不思議そうな顔をする。


「お母様の色って神秘的で綺麗じゃないですか! 

たまには気分を変えて髪色と目の色変えるのも良いと思うのです! お祭りですし!」



 お祭りとあらば、コスプレっぽい事をしたくなったのである。

 オタク心。


 だって前世はコスプレ出来る容姿は持ってなくて人の服を作ったりドール服を作ったりしてたんだけど、今世は顔が良いのだもの!


 少しくらい見栄えの良さを利用して遊んでも良いのでは?


「まあ、確かにシルヴィアの姿は氷の精霊の女王のように美しいから冬の星祭りには似合うだろうが」



 お父様はまだ、困惑気味な顔のままだ。



「でも、ティア、その姿で屋台の串焼きを食べるつもりなのかい?」



 アシェルさんが笑いながら聞いて来た。


 はっ! そう言えば!


「ああ〜」

「深く考えずに色を変えようとしたんだな」



 お父様が苦笑いする。

 屋台を取るか、お母様のコスプレもどきを優先するか。



「教会や王城内の会場ならともかく、城下街の方に高貴な雰囲気の姿は浮くと思うぞ」

「茶髪で行きます……」


「青銀の髪にブルーグレーの色は、新年のお祭りの時にライリーの城内で披露すれば良い。

シルヴィアの隣に並ぶと色がお揃いで可愛いと思う。ティアはそのままでも、とても可愛いけどな」



 可愛いいただきました! ありがとうございます!

 ところで……



「新年のお祭りとかあったんですか」

「経費削減、節約の為にして無かっただけだ」



 お父様にそうあっさり言われた。

 そうか、何か変だなって思ったわ、新年のお祭りが無いの。



「じゃあお母様の色は新年のお祝いの時にします」

「ああ、それが良い」


 お父様が甘やかに笑った。

 イケメン! ファンサありがとうございます!


「ところで色を真似される本人の許可はいらないのかな?」


 アシェルさんが私の横に並んで問うて来た。



「え、お母様は怒るか、嫌な気分になりますか? 私と言う実の娘がやるのでも?」

「いや、本人じゃない私には分からないけど」



 ごもっともな意見ね、アシェルさん。

 じゃあ、本人に聞いてみましょう。

 こいつアホかなって思われる可能性は確かに有る。


 

 * * *


 結果として翌朝の朝食時にお母様の許可は出た、何か笑ってたけど。笑う所かしら?

 はて? 私がアホ過ぎて笑えたのかな?



 * *


 部屋に戻ってから、以前殿下に誘われてお祭りに行けなかった過去が有るので、一応お忍びで当日夜何時に教会の転移陣を使う旨を手紙に書いて連絡をしておこうと、文机の前に座った。


 便箋とインクを用意。


 待ち合わせじゃ無いけど、殿下も忙しいでしょうから、顔見せに一瞬くらい来るかもと思いつつ、羽根ペンを動かす。


 来てくれたら、壊血病の件でもお世話になるし、新しいお守りとケーキでも贈らせていただこう。


 アシェルさんが同行してくれるし、亜空間収納に物を入れて貰えるから、もし、来れなくてもケーキとかも荷物にはならないし。


 ……12月末にあるお祭りって、なんとなく前世感覚ではクリスマス。


 クリスマスマーケットではホットワインを飲んだり、綺麗な絵のキャンドルホルダーを買うのが好きだったな。

 あの鮮やかなキャンドルホルダーが並ぶ姿は本当に綺麗でワクワクしたものだ。


 クリスマスの飲み物といえば、ホットワイン。

 ワインのカップは返却するとお金が戻ってくるデポジット制ってなかなか良いと思う。

 お土産として持って帰ることもできるのも嬉しい。


 使い捨ての紙コップと違い、ゴミにならないし、記念品にもなる。


 手紙を書いて、遊び心でサインの横にデフォルメの猫ちゃんの顔を描いた。

 ……猫好きなので。


 手紙を書いたらひと仕事終わった感が有る。


 あ、でもバドミントンとハンドミキサーの設計図と計画書も用意して提出しないと。


 やる事が多くて分裂したい。

 分身の術とかあれば良いのに。


 とりあえずハンドミキサー優先すべきね。

 何故ケーキを作る前に制作しなかったの私! 段取りが悪い!


 なんとなく祭壇に目をやる。

 ふかふかした苔の緑色がとても綺麗で可愛い。


 冬は空気が乾燥するから苔がちょっと心配。 今は元気だけど。


 水を補充する。

 ……やはり、霧吹きが欲しい。

 まだ作れて無いけど化粧水を作った場合も、やはり霧吹きは欲しいと思うかも。


 この世界、使いたい道具が足りなさ過ぎるな。

 作りたい物メモに霧吹きを追加しよ。

 

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