第62話 春を想う

 殿下とご一緒した晩餐には人気の高いピザや串焼きをお出しした。


 先日の狩りで鳥系の食べられる魔物肉とかも沢山いただいたので、それを使ったのだけど、ピザが楽しみだったらしい側近さん達の反応が可愛かったな。


 晩餐の席では、殿下からお茶会に参加された方々のお母様の新しいドレス等への反応も聞けた。


 殿下はお茶会に参加してないから聞いた話と言う事だけど、やはりとても美しくて評判が良かったそうだ。


 流石私のお母様である。



 殿下達が王都に帰る際には、お土産に保存食のお魚の燻製も側近さん達と食べられる分を差し上げた。

 何しろ壊血病対策を引き受けて下さったのだし、少しでもモチベを上げて貰おう。


 軽く炙って食べると美味しいとも伝えている。

 親しい者達と過ごす時の、ほんのひととき分ではあるけれど、冬の楽しみになれば良いなと思う。


 * *


 翌日の朝食には料理人に言って、ファイバス、ご飯と野菜炒めと味噌汁を出して貰った。

 先日ピザというハイカロリーな物を食べたので調整である。


 でも朝を控えめにしたらまたハイカロリーな物が食べたくなってしまった。


 厨房にお願いして昼にはカツレツを作って貰う。


 私は一体何をしているのか……。調整とは。


 また揚げ物である。

 

 でもサクサクジューシーで美味しかった。


 うちは揚げ物をわりとするので、使い終わって取って置いた油を蝋燭にして再利用してる。

 お庭キャンプの時とかにお外で使ったりする。


 市井の市場とかでも主婦達が獣油を捨てずに取って置いた物を、その場で蝋燭にする、蝋燭作り屋さんとかを利用している訳だし。


 贅沢に油を使ってしまっているし、再利用出来るものはしようという方針。


 鶏小屋の床に敷いているおが屑やファイバスの籾殻も鶏糞と混ざって畑の良い肥料になるので使っている。



 ──ところで……。

 冬で外が寒いからと室内に引きこもってばかりではアレかしら。


 神様への捧げ物の縫い物仕事もあるから仕方ないけど、うーん、魔木の樹液のあれで、やや弾力を持たせる事が可能なら、バドミントンみたいなスポーツ用の遊具が作れないかな。


 牛の腸という天然繊維でナチュラルガットを作るのでも良いけど、天候に左右されるとか聞いた事があるような。


 とにかく、庭や野原で遊べる道具が欲しい訳である。

 私の場合は点の取り合いより、のほほんとラリーをしたいだけなのだけど。


 軽く遊びながら運動にもなって、カロリーが多少なりとも消費出来れば良い。

 気休め程度でも良い。


 ──ああ、野原と言えば、春になったらピクニックにも行きたいな。


 でも遊んでばかりではいられない、大事な公共事業の事も考えないと。治水とか。


 つらつらと考えて時を過ごす。



 * * *


 お城のサロンでお茶の時間。


 お父様とお母様にも紅茶のお供にブッセを食べて貰う。

 先日のローズヒップ狩りにはお二人がいなかったので。


 マロンクリーム、レーズンクリーム、イチゴクリームの三種の味。


「あら、可愛いお菓子ね」お母様が丸いブッセを見て柔らかく微笑んだ。

 お父様が先にブッセをつまんで口に入れる。


「うん……、面白い食感だ。私はマロンクリームのやつが特に好きだな」

「……どれも美味しくて……一番を決めるのは難しいわね」


 高評価に私も思わずにっこり。


「春になったら……花畑でピクニックとか、野苺狩りとかしたいですね」


 などと上機嫌で口に出したら、テーブル上で苺を食べていたリナルドが、


『まかせて、春になったら良い場所を教えるから』


 と、請け負ってくれた。


 楽しみ!


 小さい弟も春には少しくらいお外に出してあげられるのでは?

 景色の良い所で日向ぼっこさせてあげたい。



「ティアったら、もう春の事を考えているの。

でもそうね、確かにライリーの大地が浄化されて自然も美しくなったし、ピクニックも良いかもしれないわね」



 お母様も気が早い私に半分呆れつつも、いずれ来る春を思えば悪くは無いと思っているようだ。


「そうだな、時間を作って出かけられるようにしよう」



 お父様も賛成してくれた。



「ところで木工職人に新しい物を作って欲しいのですが」

「また何か作りたいのか」



 お父様は今度は一体何を作らされるんだと、私の顔を見る。


「えーと、砂糖を使ったお菓子や、揚げ物とかもよく食べますし、運動も多少はしようかなと。その遊具です。お父様とか騎士達は朝から鍛錬とかしてますから大丈夫でしょうが、最近縫い物ばかりの私としては……」


「何だ、遊具か。そうは見えないが……太ったのか?」



 お父様が私の体を上から下まで見てくる。



「代謝がいいのか不思議と太ってませんけど、そうならないようにですよ。

揚げ物やお菓子を作るようになってからはメイド達も体型を気にしていたようですし」



 部屋で控えているメイドが、ハッとした顔で反応してる。



 でもお菓子と言えばハンドミキサーも欲しいのだった。



「太らないようにと言いつつも、お菓子作りの道具も作りたいので、今度設計図を描きますね」


 バドミントンの方は木工職人にお願いして、ハンドミキサーの方はお父様の知り合いの、手先の器用なドワーフさんか、セイマイキでお世話になった天才錬金術師あたりにお願いしよう。

 どちらかスケジュールに余裕がある方に。



「商品化するのなら、また収入が増えそうだな」


「商品化して収入を増やしていきましょう。そしてまとまったお金が出来たら治水工事もやりましょう」


「治水か、確かにせっかく領地が蘇っても災害が起こると台無しになりかねないし、人命に関わるからな」



 治水は大事だって前世で昔のえらい人も言ってた。

 ただ、ライリーは瘴気のせいでろくに税収が無くて、そっち系はあまり出来てなかった。

 これからは作物の実りも良くなるし、なんとかなるでしょう。


 頑張って領地をよくするぞ。


 ……ハッ!!


 思い出した。


 スパリゾートも作りたいのだった……! やりたい事が多い! 


 頑張って予算を増やすぞ!

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