第60話 野生のローズヒップ

 とある冬の日。


 その日私は妖精のリナルドと林にローズヒップを収穫に行く事にした。

 外は頬に当たる風も冷たいけれど、エアコンのような杖もある事だし、お父様の許可も出た。


 エルフのアシェルさんと、騎士数人とメイドのアリーシャが同行者。

 リナルドは私の肩に乗っている。


 私はアシェルさんの馬の前に乗せて貰って、リナルドのナビで林に着いた。


 記録の宝珠で撮影もして、後から場所も分かるように記録。


 「わあ、あれがローズヒップですか! 赤いですねー。赤い実があんなに沢山」

 アリーシャが木に実るローズヒップを見て目を丸くしてる。

 どうも初見らしい。 


 リナルドが私の肩から飛び立って、林の中を飛び回っている、枝から枝へ飛び移る。

 流石モモンガ系妖精、自然の中で生き生きしてる。

 楽しそうなので、しばらくそっとしておこう。


 さて、こちらはローズヒップ収穫だ。


 家庭でローズヒップを食用やハーブティにする場合、実の中には種とかなり細かい白毛がぎっしり詰まっているから、これを取り除く必要がある。


 この細かい毛が、まれに下痢を引き起こす事があると言われているので。


 ただ、この作業は必要無いという説もある。

 どちらを信じればいいのか、治験をして調べるしか無いのか。

 でも飲み過ぎてお腹を下したら可哀想だとも思う。

 

 前世の記憶を脳内で辿る。


 偽果とも呼ばれる果実の部分を、かるく潰した状態で新鮮なうちに乾燥させ、中の種子部と小毛の部位もそのままに使い、メディカルハーブとして使う。


 「効能は美肌、風邪、ストレス、疲労、冷え対策、血管の若返り効果、抗酸化作用、抗腫瘍作用等」

 

 私は収穫を手伝ってくれる皆に効能を説明しながら収穫していった。


 壊血病の事のみを抜いて。

 

 これにまつわる功績は、人に譲りたいので。

 

 ひととおり収穫が終わり、はあ、と深く息を吐いた。

 吐く息は白い。


 リナルドが私の肩に戻って来た。


 収穫の場所をエアコン杖で暖めて大丈夫か分からなかったので、離れてから使用する。

 収穫したローズヒップはアシェルさんの亜空間収納にお任せした。

 

「お茶を飲んで軽く休憩してから、城に戻りましょう。お茶のお供にはブッセを用意してあるの」


「ブッセ?」

「ひと口サイズのサクふわお菓子よ」

「新しいお菓子、嬉しいです」皆期待しているようだ。


 アシェルさんに収納してもらっていたブッセや、お茶の道具を出して貰う。


 お菓子を作る為には、やはり、ハンドミキサーを開発すべきだと思った。

 疲れる、料理人が大変だもの。

 手本に少しかき混ぜて見せるだけでしんどい。


 女神様の服を縫い終わってからの課題。


「まだ収穫したばかりのローズヒップは加工してないので普通に紅茶に生姜を入れて飲むわね」


 

 お母様も今頃王都で王妃様主催のお茶会ね。


 淡い紫色のドレスや、魔魚のイヤーフック、指輪の評判はどうかな?


 お母様の新しいドレスは白い花と葉の刺繍レースが、縦に連なって、つる性の花のように紫のドレスを飾っている。


 とても美しくエレガントな仕上がりになったと、自分では思っている。


 お父様も「私の妻が美し過ぎる」と、ドレスを試着したお母様を見て惚れ直していたから、大丈夫だとは思うけど……。

 

 ドレス姿の美しいお母様の姿を思い浮かべてお茶を飲んでいると、新しいお菓子のコメントを貰った。


「本当にサクッとしてるし、ふわっともしてて、面白い食感で美味しいですね」

「マロンクリームとレーズンクリームの二種があるんですね、どちらも美味しいです」

「見た目も可愛くて良いですね」


 皆、口々に新作のお菓子を褒めてくれた。

 それに、周囲の穏やかな笑顔を見ても、成功だと確信出来た。


 ちなみにリナルドには葡萄の実をあげる。


 この妖精はこういう実を好んで食べるようなのだ。

 嗜好品として。


 基本的には魔力が有れば食事の必要は無いのだけど、皆が食べている時に何も無いと寂しいだろうと思って、何かあげている。


 食べている姿も愛らしくて癒されるから、騎士達も葡萄をちぎっては、我も我もとリナルドに渡して、嬉しそうにしている。


 イケメン騎士達よ、その大きい体で、小動物系妖精にメロメロで、可愛いじゃないの。

 ふふふ。


 微笑ましいし、絵になるので記録の宝珠で撮影もする。

 乙女ゲームならスチルにしても良い感じ。


 温かい紅茶とブッセでお外ティータイム。

 晴れてて良かったなあ、と、気持ちの良い青い空を見上げて思った。

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