第59話 手紙

  〜 ギルバート殿下視点 〜


 手紙を携えた銀髪の侍女が部屋を訪れた。


 子爵令嬢のブランシュ嬢だ。

 何やら嬉しげである。


「ギルバート殿下、ライリーからお手紙です」


 俺に渡された手紙はセレスティアナからだったので、内心の喜びを極力隠すように、真面目な顔を作った。


 狩りの獲物の礼だろうかと思って、側近からペーパーナイフを受け取り、手紙を開いた。


 内容は確かに、狩りの時に庇って貰った件と獲物のお礼もあったが、壊血病の治療、予防、解決策に良いものがあるから治験する組織を作って欲しい旨が書いてあった。


 自分は名誉はいらないし、目立ちたくないので代わりに俺が主だって働いて欲しいなどと……。


 俺は頭を抱えた。

 まるで人の、セレスティアナの手柄を譲って貰うような内容だ。


 狩場で俺に命を救われたという事の対価にしてもだ、壊血病の解決策があるなら勲章ものの功績となる気がするんだが。


「手紙で返して良い内容かこれ?」

「殿下、嬉しいお知らせでは無かったのですか?」

 侍女が上品に首を傾げた。


「……名誉欲の無い女だとは思ってはいたが、これ程とは。

 直接話してみる必要がありそうだ。転移陣を使ってライリーに訪問したいと、先触れを出す準備をしてくれ」


「はい、ライリー辺境伯夫人に言伝でもかまいませんか?

 ただ今、王妃様のお茶会にてこちらに来ておられますので」


 ああ、憧れのライリー夫人が王城に来られているからブランシュ嬢は嬉しげなのか。


「そうだったな、夫人はこちらに来られていたのだった。では急ぎ、手紙にライリーへの訪問の希望を書くので渡して貰うとしよう」


「ではお手紙の準備を致します」

 侍女は速やかに支度にかかった。


 側に控えていた側近がなんなんですか?と視線で訴えて来ているが、わりと重大な内容な気がする。


「とにかく我々は近々ライリーにお供出来るんですね? 嬉しいです」

 などと、呑気に側近が喜んでいる所へ、違う金髪の侍女が時間差でブライアンに手紙を届けに来た。


 俺は緊急訪問の件で手紙を書こうとしたが、

「お、その封蝋はライリーからか?」と、聞くと、気になった。


 手紙を開いたブライアンの言葉に耳を傾ける。


「そのようだ、アーマード・ベア等をセレスティアナ様に贈ったので、それの礼状だな」

「あー、そうか、俺も何か狩って貢げば令嬢から手紙を貰えたのか」


 赤茶髪の側近エイデンが悔しがっている。

 お前も彼女からの手紙が欲しいのか。ファンか?


「私は殿下のお供でライリー滞在の際にはいつも、美味しい物を振る舞って頂いたのでお礼にと、殿下のお気に入りの令嬢をクイーンにして差し上げたくてだな」


「クマはともかく鳥系魔物も貢ぎ物にあったし、あちらに行くと鶏肉料理が出そうだな」

「そうだな、唐揚げも串焼きも良いな」

「俺、ピザが良い」


 途端に食欲に支配されたかのような呑気な会話が聞こえる。


 気を取り直し、ライリー夫人にセレスティアナ宛の手紙を託すため書状を書いた。


 ふと、ブライアンの手にある手紙と封筒は両方とも白で、自分宛は薄い黄色であるなと、気が付いた。


 何か意味が有るのだろうか?

 セレスティアナから貰った手紙を大事に宝箱に入れようとして、金貨を目にした。


 お守りにと貰って返さなくて良いと言われた金貨は、綺麗に洗われ、磨かれてキラキラの金色だった。


 金……黄色?と、考えると、なんとなく手紙の色に腑に落ちた。


 暖かみのある黄色の手紙は、彼女の真心なのだろうと思った。

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