第57話 雑談と反省会

 〜 ギルバート王子視点 〜


 冬の夜。

 外は寒いが豪奢な自室は暖炉の火によって、十分に暖められていた。


 パチパチと火花が小さく爆ぜる音がする。

 今夜は側近の男達とお茶を飲みつつ、雑談と反省会をしている。


 俺は魔物狩りの日の失態を思い出す。


 あの瞬間金貨が熱を持ったのか、胸が熱くなって、毒針が刺さったと勘違いした。



「まあ、死んだと思った訳で、うっかり目を閉じたんだ」

「せっかくセレスティアナ嬢が勇ましく投石の魔法のようなものでクイーン・ビーを倒してましたのに」


 毒見役を率先してやるエイデンはいつも通り、俺のお茶とお茶請けを先に口にして、確認後に俺の手前に置き直しながらそう言った。



「流石は国の堅牢なる護り手、勇猛なる辺境伯の御息女ですな」


 黒くて大きなAランクの魔物のアーマード・ベアをセレスティアナに貢いだ力自慢のブライアンは、楽しげに彼女を称えた。


 ライリーでいつぞや出てきた、油で揚げたジャガイモに塩をふりかけた物を真似して作らせたものを、皆でつまんでいる。


 一応、手は汚れないようにフォークは使っている。

 クッキーなども置いてあるが、今は男だらけなので塩気のある物の方が今日は人気だ。



「獲物を一番貢がれたクイーンに選ばれたセレスティアナ嬢がクイーン・ビーを倒すと言う、いや、見ものでしたな」



 チャールズもしっかりその瞬間を見たらしい。


「最後の瞬間まで反撃の為にも、目は開けておくべきですよ。殿下はもっと生に執着心を持って下さい」



 エイデンはいつも小言が多い。


 銀髪の側近のセスなど、大抵見た目通りに涼やかで無口で静かだ。 見習って欲しい。

 今夜はフライドポテトを黙々と食べている。



「目を見開いた死体が目の前に倒れていたらセレスティアナが怖いだろう、せめて死に顔くらいは美しくと」



 そう言った後で、ふと、思った。



「何で自分で刺繍のお守り作れるのに、持って来たお守りが俺があげた金貨だったんだろうか」



 ──謎である。



「平民が子供にお使いなどをさせる時は、もしもの時の為に、財布以外のお守り袋や靴の中にお金を隠し持たせると言う話はありますよ。迷子になったあげく、お金も無しでは飢え死にしかねませんし」



 平民とも付き合いが有る、気さくな性格の深く赤い髪色をした側近のチャールズは言う。

 髪の色味がライリーの辺境伯に似ていて少し羨ましい。



「しかし、平民じゃ無いしな」



 とは言うものの、お金で苦労したようだし、そう言う事もあるのか?



「平民のふりをして市場に来る令嬢ですし、こちらも似たような事はしていますが」


 エイデンが俺を横目で見て、やれやれ感を出して薄く笑う。


「違いない」


 はははと、楽しげに笑う側近達。


 セスだけは静かにポテトを食っているが。

 ──まあ確かに、平民のふりをたまにしてるけどな! お忍びでな!



「俺が渡した金貨を冬支度に使わずに、貯蓄に回したのだろうか」

「お金は使ったけど、自分の財布から出して、殿下からいただいた金貨を大事に取っておいたとか……」



 金髪の美形騎士リアンがロマン溢れる事を言う。

 俺の側近の中で一番女性にモテる男だ。



「そ、そんな可愛らしい事を、セレスティアナが?」

「見た目通りに可愛らしい事をしていても、おかしくはないでしょう?」



 やたらと女性にモテるリアンが言うと、そんな気もしてくる。



「……まあ、ありえない事も無いかもしれないな」



 だと良いな、と思うと顔が熱くなる。


 だが、妄想で一瞬嬉しくなった後に、やらかした事を思い出し、顔を覆って愚痴ってしまう。



「けれど何回か格好いい所を見せたら、護衛騎士にして欲しいと言うつもりが、無様を晒してしまった」



 死んだと思って倒れ込むとは、無傷だったのに!



「すぐさま騎士になりたいと、辺境伯に打診しておかなくて良かったですね」



 ブライアンも苦笑いだ。


「城に無事に帰り着くまでが、狩りですね」



 重く分厚い魔物図鑑を開いて情報の確認をするリアン。

 キラービーの項目を探しているのだろう。


「帰り支度でごった返す中、皆浮き足立って、冬に現れる事など滅多にないキラー・ビーの襲撃に戸惑いました」 



 苦々しい顔でエイデンが言った。



「そうですね、何故冬なのにキラー・ビーが出たのでしょうか?」



 魔物図鑑を確認したリアンによるとやはり冬は基本的に冬眠中と記述があったようだ。



「誰かが冬眠中の蜂の巣をつついたとか?」チャールズがそう言うと、

「自殺行為では?」



 ブライアンは腕組みをして眉を顰めた。


「謎は残るが、とにかく最後まで油断をしないように」


 エイデンもキラー・ビーの数が多く、俺を護りきれずに歯がゆい思いをしたようだ。


 皆、それぞれ冬にほぼ活動しないはずのキラービーが群れで襲って来た疑問を口にしつつ、次こそ油断しないようにと真面目な顔で結束する。


「ところで話は変わるが、いつも大抵はセレスティアナの肩に乗ってるリスみたいな妖精があの日いなかったが、何故か知ってるか?」


 俺が壁に飾った刺繍を目にして、ふと思い出した事を問うと、


「魔物と間違えられて狩られないように置いて来たらしいですよ。

魔力を持っていますし、あの場は知らない貴族も多いので」


 チャールズが事もなげに言う。


「チャールズ、何でお前が知ってるんだ?」


 俺が問うと、チャールズは人好きのする笑顔で答えた。


「帰る前にライリーの騎士のローウェ殿と、少し話をしたんです」

 


「あの大蛇系の魔物を仕留めた黒髪の騎士殿ですか」



 リアンが魔物図鑑を脇に置き、優雅に紅茶の香りを楽しみつつ言った。



「こちらがまだ知らない美味しいものの情報とか持っているので、たまに話を聞かせて貰ってる」

「チャールズ、いつの間にそんな抜けがけを」



 ブライアンがチャールズをじと目で見てる。



「抜けがけって、男性ですよ、皆、話したいなら話せば良いではないですか」


「それで、どんな料理があるんだって?」


 エイデンが促すと、一同、チャールズの方を見る。


 皆、ライリーの美食情報には興味津々だった。


 話は盛り上がって、夜は更けていった。

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