第56話 冬山の魔物狩り

 冬の魔物減らしの狩りの日が来た。


 私もこの日までに自衛も兼ねて、近くの森で土系の攻撃魔法の練習もしていた。

 石の礫や弾丸を魔物にぶつけて狩っていた。

 冬ごもり用の食料になった。


 新しいクリーム色コートとアイスブルーのドレス、虹色銀色鱗のイヤーフック装備で私は王都へ来た。


 氷の妖精さんみたいで愛らしいと、お父様とアシェルさんに言われた。

 照れる。


 狩場、現地への同行者は、エルフのアシェルさんとライリーの若い騎士が3人とメイドのアリーシャ。


 彼らと共に転移陣で王都まで行き、それから馬車で狩場の山の麓に来た。

 ライリーの騎士からも一人、狩りに参加する。ローウェである。

 私に獲物もくれるらしい。


 茶髪の騎士ナリオと黒髪眼帯の騎士ヘルムートは私の護衛なので、館で待機組。


 ざわざわと多くの人が集まっている。

 貴族と令嬢と騎士や従僕達。 華やかな集団である。


「必ず君の為に立派な獲物を狩ってくる」とか、「お待ちしてます」

「怪我などなさらないように、お祈り申し上げております」

 とかいう貴族の令息と令嬢がそこかしこにいる。


 てか、寒い。もう冬なので、吐く息も白い。


 殿下を見つけた。

 本日殿下は黒い衣装を着ていた。 黒騎士みたい。

 銀髪に黒が映える。


 やはり黒を着てる男の人はかっこよくて良いよね、殿下はまだかなりお若いけれど。


「殿下、お守りのハンカチは持って来ましたか?」



 側近が殿下に声をかけている。



「汚したり落としたりするのがもったいないから、置いて来た」

「はあ!?」


 側近が呆れた声を上げた。

 説教をされてる殿下が私の存在に気が付いて、ここにいるぞ! と言うように手を振った。



「セレスティアナ嬢、今日はよく来てくれたな。暖かい館で待っていてくれ」



 ギルバート王子殿下が側近達と共に早足で歩いて来て、声をかけてくれた。

 流石に多くの貴族の目の前で呼び捨てにされると困るから、名前の次に嬢がついててよかった。



「お招きありがとうございます。これは、御守り代わりに持って行って下さい。

でも私のなので、後で返して下さいね」



 私は自分用のお守りに持って来ていた小さな巾着袋を渡した。

 どうせ館でぬくぬく待ってるだけだから、山に入る殿下に渡した方が良いよね。



「ありがとう。必ず返す」



 ややして、男性陣の出発の時間。

 女性陣からお見送りされて護衛騎士と共に山に入る令息達。


 令嬢達は待機用の館に移動する。


 なんか知らないけど、こちらをじろじろ見る視線を感じる。

 私がまだ若く幼いせいかな。

 社交界デビューもまだの小娘が場違いなのかも。


 他の令嬢達はデビュタントも終えた年齢の方が多いものね。


 まあ、呼ばれたので来ただけだし、気にしない事にしよう。

 うちの同行した騎士がカッコイイから、見てるだけの可能性も有る。


 部屋の暖炉の前のテーブルに、用意されたお茶や食事の味をみてみる。


「これが、王都の貴族が口にする料理?」


 私が興味深いと言う感じで聞くと、


「だいたいこんな感じですね」

「ええ、ライリーの食事の方が美味しいです」


 同行者の騎士二人が答えてくれた。


 アシェルさんが、ライリーで使われてる私がブレンドした調味料を出して、ステーキ肉の全てにふりかけた。



「これでよし」



 容赦無い味変である。

 これを作った料理人が見たらガッカリするかもしれないけれど、まあ、この場に居ないからセーフかな。



「うん、ぐっと美味しくなりました」



 茶髪の騎士ナリオも容赦無い。味に厳しい。

 だが、スープはせめて、そのまま飲もう。


 パンはうちから亜空間収納に入れたのを持って来ているから、それを出しておく。

 うん、柔らかくて美味しいもんね。


 王都のパンは亜空間収納に入れる。 記念品か?


 暖炉のある部屋でまったり談笑しつつ待っていたら、時が過ぎていった。

 そろそろ頃合いだと、バルコニーに出ると、色んな色の信号弾、狼煙が上がって来た。


 皆、目当ての令息の信号弾狼煙の色を確認して外に出る準備をする。

 ざわざわとした声と、「化粧直しを!」みたいな侍女かメイドの指示が聞こえる。



「紫と白に青! 殿下の狼煙、確認致しました!」



 騎士の声に私も目視で確認した。


「怪我も無く無事に仕留められたかしら、お出迎え致しましょう」



 広場に移動したら、色んな魔物が狩られ、令嬢の前に置かれている。


 今回の狩りの参加者にはアイテムボックス的な魔法陣の描いてある、風呂敷のような布を王家から貸し出されているから、それに獲物を収納したり出したり出来る。


 どうやって運ぶのかと思ってた。肩に担いで来たりしたらワイルド過ぎる。


 私の前に殿下が狩って来た中で一番の大きな獲物はサーベルタイガーみたいな魔物、鬣も立派な雄。

 それに狼系、猪系、鳥系もあった。


 やったね、鳥系もちゃんとあるから焼き鳥が出来る!

 それにサーベルタイガー系の立派な鬣!


「こんな大物も狩って来るなんて、凄いですね。ギルバート殿下、沢山ありがとうございます!」

「どうだ、気に入ったか?」



 殿下はドヤ顔で得意げである。可愛い。



「ええ、この立派で長いふさふさの鬣、こういう素材が欲しかったので嬉しいです!」



 これは本心、作りたい物が有る。


 殿下の後にしれっと殿下の側近とライリーの騎士ローウェが鳥系魔物、大蛇系魔物と狼系魔物、猪系、イタチ系魔物等を私の前に魔法の布から取り出し、どんどん積んで行く。


 獲物は山になった。 お肉パーティーができる。


 殿下の護衛騎士の方まで私に獲物を貢いでいいのか?

 でっかい熊系魔物と鳥系魔物と狐系魔物とかを下さった。

 かなりの強者とお見受けする。


 他所を見ると角の有る兎の魔物を発見。

 ファンタジー系でよく見るやたらと殺意の高い兎系の魔物こっちにもいた。

 見た目は可愛い。毛皮は白くて綺麗だと思う。


 殿下もあれは毛皮が白くて綺麗だが、見た目が可愛くてスルーしてしまったと言った。

 なるほど、確かに。見た目が可愛いと魔物と分かってても、気にしてしまうよね。


 Aランクの魔物がサーベルタイガー系と大蛇系とでかい熊系だった。


 このAランク魔物を狩った者達が王家から魔物を減らした功績を讃えられ、賞金の金貨と記念品を貰う。

 記念品は勲章と盾のようだった。


 ちなみに男性一位は3人が同率一位となってしまった。


 ギルバート殿下と殿下の側近のブライアンとライリーの黒髪の騎士ローウェの3人である。


 一番立派で多くの獲物を貢がれた令嬢が今回のクイーンなんだけど……。

 やばい、クイーンになってしまった。


 貢がれたAランクの魔物が3体とか混ざってるせいで、ステージ上で讃えられてしまった。


 皆様拍手までして下さる。

 館でのんびり茶を飲み、食事していただけなのに申し訳ない。


 壇上から見るに、あからさまに「チッ」って顔してる令嬢もいた。

 もうほんとにすみません。


 でも王家から綺麗な宝石の装飾付きの豪華な短剣と、金貨の入った袋を貰ったのでヨシ!



「キラー・ビーの群れだ!」


 誰かが叫んだ!


 解散の時間に予期せぬ魔物の襲撃。

 しかも虫系! 空を飛んで来る!


「毒針を撃ち出すから気を付けろ!」

「あの毒針に刺さったら死ぬ!」

「女王蜂を狙え!」



 悲鳴と怒号が飛びかう。



 アシェルさんも弓でキラー・ビーを次々と何体も仕留めるも数が多い!


 騎士の魔法の炎が女王蜂と思われる一際大きい個体の羽ばたきと魔力の乗った風圧に逸らされる。

 小癪な真似を。


 私は魔力を練り上げ、高めている最中に、逃げようとして足がもつれ倒れた令嬢を見つけた。

 私が助け起こそうと駆け寄ると、


「危ない!」


 殿下の声が聞こえたと思ったら、駆け寄って両手を広げ、私を背に庇った殿下が女王蜂のゆうに20cmはある大きな毒針に突き刺された!


 その衝撃のままに私の方に倒れてくるのを両手で受け止め、ガクリと座り込んだ。

 

「殿下ぁっ!!」



 誰かの悲鳴のような声が響く。


 毒針は的確に殿下の左胸、心臓部分に突き刺さっていた。

 全てが……スローモーションに見えた。


 顔を上げて敵を確認。

 眼前のキラー・ビーの女王が第二射を、新たな毒針を体内から出しているのが見えた。



『穿て! ストーンバレット!』



 私は眼前上空の敵の群れに右手を突き出し、練り上げた魔力を叩きつけるように攻撃魔法を放った。


 散弾銃のような石の弾丸が女王含むキラー・ビー達の体を容赦なく貫通する。


 死体となったそれらは、ことごとく地面に落ちた。



「殿下っ! お守りは! 身に着けて下さいとあれほど!」



 赤茶髪の側近が殿下に駆け寄る。

 私が殿下に庇われたのは一瞬の事で、王都の護衛騎士すら他のキラー・ビーと応戦中だった為に反応が遅れた。


 ライリーの騎士も同様だった。


「さて、狩りも終わったから帰るぞ」


 と気を緩めていたせいもあったかもしれない。


「だ、大事ない……。お守りは、持っている」


 殿下が倒れて、もたれていた上体を起こそうとした時、


「お守り刺繍のハンカチは、汚したり、落としたくないから置いて来たと言ったではありませんか!」



 側近が血相を変えて胸元の毒針を手袋越しに素早く体から抜く。



「!? 毒針の先端が無い! まだ体に残って!?」



 慌てて殿下の服の胸元を破る勢いで開く。



「刺繍入りハンカチは置いて来たが、今日借りたお守りが、守ってくれたらしい」


 殿下が自分からするりとお守り袋の巾着を胸元から引っ張り出し、中を見る。


「この……金貨が」


 それは出発前に私が渡した、以前殿下から貰って使わずに取っていた金ピカの金貨だった。


 よくある胸元にたまたまあった、ポケットの中のコインや、形見の懐中時計に守られた展開まんまじゃん!



「もー! びっくりさせないで下さいよ! 寿命が十年は縮みましたよ!」



 私は心配したせいか、軽くキレてしまった。



「すまない、俺の寿命を十年やる」

「バカ言わないで下さい! 私の寿命を二十年あげます!」


「あまり男らしい事を言うなよ、セレスティアナ。こっちが格好つかない」



 殿下は苦笑いをしながら言うけど、私はまだ怒ってるぞ。



「何で、魔法を使わず自分の体を盾にするんですか」

「咄嗟の事で、すまない、修行が足りなかった。そちらは怪我は無いか?」


 言いながら殿下はスッと立ち上がり、私に手を伸ばした。

 その手を取って立ち上がってから、すぐに手を離し、数歩下がって距離を取る。



「私は尻餅をついて服が若干汚れた程度なので、大丈夫です」

 


 アリーシャが慌てて私に駆け寄って、コートやドレスの砂を落とす。

 殿下の方も側近が身だしなみを整えてる。


 こけて動けなくなっていた所を、私が庇おうとした黒髪の令嬢の方は恐怖で震えている所を、家の者が見つけてお礼を言って、抱き抱えて行った。

 腰が抜けていたようだ。


 そんな様子を見やって、殿下がばつが悪そうに言った。



「私も尻餅程度だ。新しいコートもドレスも綺麗なのに、すまなかった」



 そんな事はどうでもいい。



「…………お守りの刺繍ハンカチをくれるような令嬢がいたのなら、私なんか庇ってる場合じゃないですよ」

「別に貰っていない」


「え?」


「買っただけだ」


 そんな切ない事ある? 超モテそうな顔してるのに。



「ギルバート殿下は、結構健気なんですよ」


 赤茶髪の側近さんがなんかフォローしようとしてるけど、健気って?



「ちょっと、黙ってろ」



 殿下が顔を赤くして側近を軽く睨む。


「殿下──っ! お守りが必要なら、私のを受け取って下さったら良かったのに!」


 なんか知らない金髪巻毛令嬢が突然出て来た。

 この金髪巻毛令嬢は殿下が好きみたいね? 私を睨んで邪魔です! ってオーラを出してる。


「エイミル男爵令嬢、必要ない。お守りなら持っている。今回ちょっと置いて来てしまっただけだ」


「私のお守りなら効果があるはずです! 愛の力で!」


 お守りの刺繍ハンカチは受け取り拒否をしていただけでやはり、くれようとしてくれるお嬢さんはいる訳だ。 

 安心……した? ……胸がざわりとする。

 それにしても……愛と来たか、これは退散しようかな。



「いや、最高級のお守りを本当に持っているんだ、今回もうっかり衝撃で倒れただけで無傷だ」



「服が破れてしまっています」


 男爵令嬢が無遠慮に殿下に触ろうとすると、殿下の側近が「毒の影響が服に残っているかもしれません、触らないで下さい」と言って男爵令嬢を制した。


「急いで館の室内に移動してその服を脱いで着替えて下さい」


 側近がそう言葉を続け、殿下を連れ出した。


「あ、お守り! 金貨は洗ってから返すからな!」



 振り返って殿下が叫んだ。



「あげますよ! 元は殿下がくれた物ですし!」

「え!? じゃあ新品で返す!」


「別に汚れたからとか、毒が怖いとかじゃ無いですから!」

「後で返せと、渡す時に言ったではないか」


「生きて無事に帰れの意味ですよ! 無事ならいいんです!」


 私は胸を押さえて後ろを向き、アシェルさんやライリーの騎士のいる方に向かって歩き出した。

 心臓はまだドキドキと、早鐘をうっていた。

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