第54話 花いっぱいの食卓

 城の手前の広い野原でのびのびとワイバーンを休ませてから、私達はライリーの城に帰城した。


 お母様にもすぐさま報告に向かう。

 「神様に贈り物、お供えをすれば今回はお返しが貰えるらしいです」と話すと、荒唐無稽すぎて、やはり困惑させるばかりであった。


 お返しという現物が来てから改めてお話すればいいか。と考える私は、

 異世界転生なんて不思議な現象の只中にいるので何か麻痺してるのかもしれない。


 異世界転生小説で最初に神様と会話する人達もいるなら、こちらも一回くらい贈り物のやり取りがあっても良いのでは? みたいな。


 ──と、無理矢理でも今は自分を納得させる。なるようになる。多分。


 一応殿下と側近さん達には妖精の冗談かもしれないので誰にも言わないで欲しいと、こっそりとお願いして、了承してもらっていた。


 殿下も神妙な顔で頷いてくれた。


 この話を知っているのは殿下とその側近5人と私とお父様と、さっき報告したお母様だけ。


 とりあえず遅い朝食をすませる。

 空を飛ぶワイバーンに今更ながら気を使ってナッツだけ口にして飛んで来た。

 最後くらいはと、多少気を使った。


 最後の儀式に参加して下さった殿下とブランシュ嬢のために、急いで華やかな食卓を用意しようと思う。


 ケーキや一部の料理などは亜空間収納に作り置きが有るので、そこまでお待たせしなくて済むと思う。


 見た目が可愛くてビタミンCも取れる。

 食べられるお花のエディブルフラワーで飾ったレアチーズケーキや、

 サラダを用意しよう。


 以前いただいた植物辞典でも勉強した、こちらでもあちらと同じ植物が沢山あったから、エルフの

アシェルさんに色々集めて貰っていた。

 花を集めるエルフって絵になると思う。


 アシェルさんに集めて貰った色とりどりのお花。

 これを贅沢に沢山使う。


 金魚草、カラフルでサラダに良い。 肉厚で、少し苦味が有る。

 (炒めて食べても良い)


 マリーゴールドは真ん中は苦味があるから、花弁を使う。

 いわゆる矢車草というか青いコーンフラワー、目にも良いと聞く。

 ナスタチウムはふわりと甘い香りでピリリとワサビのような味。


 紫が鮮やかなマロウ。 甘い香りで実際に甘い。 レモン汁を絞るとピンク色になる。

 (ハーブティーにも良い)


 ボリジ、紫色で星のような形。滋養強壮効果がある。

 カレンデュラ、確か風邪に効く。


 見た目の可愛いビオラ、青や赤紫、濃いピンクと淡いピンクのサイネリア。

 本当に色々集めて下さったのね、と、アシェルさんに感謝。


 花だけではなんなので、お野菜のベビーリーフもエディブルフラワーに混ぜてサラダを作った。

 当然ドレッシングも付ける。

 これで栄養も沢山取れるはず。


 ベーコンと玉ねぎとエディブルフラワーのキッシュも作る。

 これも見た目が可愛い。


 勿論、お肉もある。

 チキンソテーにローストビーフなどを用意してこれらにも花を飾ってテーブルに並べる。

 これでもかというほど花いっぱいにした。


 * * *


 

 軽くお風呂に入って着替えた殿下や、ブランシュ嬢達も食堂に揃った。

 今回はエルフのアシェルさんもいるので、顔面偏差値がいつにも増して高い。



「まあ、なんて華やかで綺麗な食卓なんでしょう」



 ブランシュ嬢も花いっぱいの食卓に目を丸くして驚いていた。

 キラキラの映え食卓である。


「まるで妖精の食卓のようだが、この花達は食べられるのか?」

「はい、食べられるお花ですよ、庭園に無い花はアシェルさんが集めてくれました」


「うちのティアの為にすまないな、アシェル、ありがとう」



 お父様もお礼を言ってくれた。


 アシェルさんは「楽しかったよ」と、言って柔らかく微笑んでいる。


「本当に綺麗ね」


 お母様も花いっぱいの食卓に見惚れている。


 完全に女性受け全開の食卓に殿下も不思議そうにしてたけど、食べてみると、「うん、美味しい」と言っていた。


 メインの後にデザート。

 花で飾ったレアチーズケーキを出した。


「このチーズケーキは以前お土産に貰って食べたのとは違うようだが、こちらも凄く美味しいな」

「本当に可愛らしい上に、凄く美味しいですわ」



 殿下も令嬢も皆、目を輝かせて満足そうに言ってくれた。


 味的にはレアチーズケーキが一番人気だった。

 スイーツは強い。ローストビーフに勝つなんて。


 お茶会やお祝いの場にお花を使うのは、凄く見栄えがいいからウケそうだ、とか話は弾んだ。


 窓の外では、いつの間にか、まるで白い煙のような霧雨が音もなく降っていた。

 静かに、大地の色を濃くしていった。


 雨が降ったのが、ライリーの城に戻った後で良かった。


 この食事の後に、殿下とブランシュ嬢は王都へ帰る。


 ブランシュ嬢は食事の場でも、連れて来た庭師の事を本当に感謝している事や、実はお母様の事を昔お茶会で見てファンになった事などを伝えてくれた。


 それで、この儀式の手伝いでライリーの城に来て、お母様にお会い出来て嬉しいとか。


 ──ああ、お母様のファンだったか! と、私は安心した。

 好きなのがお父様の方だと心配しなきゃならないので。


 まあ、お母様は妖精の女王か女神のように美しいので分かります。

 いつもお父様とお母様を見てるだけで美し過ぎて、夢見心地になれるのだ。


 遅い朝食が終わって、雨もほんのひとときで、いつの間にか上がっていた。


 ほどなくして、殿下達は王城へ帰還した。



 * * *


 自室にて、紙にデザイン画を描く。

 神様に贈る服と靴のデザインだ。


 私はエディブルフラワーを見て思いついた事がある。


 神様に贈る服に新素材の樹液で作った靴も付けようと。

 ミュールの踵の部分に花を使う。


 透明な樹脂の中に花を封じ込めたお花のミュールである。


 前世でもボールペンの中にハーバリウムとかが入ってるのを見た事あるけど、ああいう中のお花が透けて見えてるの、凄く可愛かったし。


 先に靴の踵の型を取るのに、土魔法で土を使って形成。 硬く固める。

 その後、太陽光と魔力のミックスでモールドを形成、太陽光で固める方は、硬度を柔らかく調整できるそうだ。


 シリコンみたいな柔らかさにも出来て非常に便利。


 型は太陽光で柔らかく作ったけど、実際の靴の踵は硬く強度のある月光と魔力で固める。


 女神二柱分、大地の女神に暖色の花の靴。

 月の女神に寒色の花で、それぞれひと組みずつ、お花の靴の踵部分を作る。


 お花のミュールに合わせて、ドレスも布花で飾る事にする。

 色を付けた樹液を固めて花芯部分を作る。


 基本は白い絹のドレスだ。

 ドレスの形はマーメイド。


 花はうるさくならない程度に左胸の上、前襟部分から肩のあたりにかけてひと塊。

 それと着脱式の袖の袖口の部分に付けた。

 なるべく邪魔にならない所に、差し色のように。


 加えて頭に飾るお花の冠は瑞々しい生花で作る。

 神様が使う花冠なら、生花でも枯れないのでは無いだろうか?

 ドレスが仕上がるまでお父様の亜空間収納に大事にしまっておいて貰う。


 大地の女神様用の服のお花の装飾も靴同様に赤やピンクの暖色の花をメインに使い、月の女神様の服に使うものを寒色にした。

 青系。


 白の絹にオーガンジーを重ねる。

 オーガンジーの裾には美しく繊細なレースを繋ぐ。

 まるで花嫁のドレスのように優美になるはず。


 ドレスは縫い上がるのに時間がかかるから、地道に丁寧に縫っていく事にする。


 冬の間の手仕事になりそう。

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