第50話 焚き火と昔語り
「お父様、しゃがんで下さい!」
露天風呂を堪能した私は、お父様の側にてててと、駆け寄った。
「ん?」
なんだ? と思う顔しつつもお父様はしゃがんでくれた。
「……どうです? 湯上がりすべすべツルツルのたまご肌ですよ!」
すりすりっとお父様の頬に頬擦りする私。
「なるほど、ティアの肌はいつもすべすべだが、いつもよりしっとりしてるようだ」
えへへ。温泉効果!
ふと、視線を感じた、殿下と子爵令嬢がこちらを見てる。
甘えん坊な所を見られてしまった! ま、いいか。
「お嬢様、お食事はどこでとられますか? 室内と外」
騎士が近寄って聞いて来た。
「外です、紅葉を見ながら食べましょう。こんな所までは滅多に来れないし」
儀式とお風呂で慌ただしくて昼食を抜いたから夕食は早めに取る。
神職の人はお肉を食べようとしないので、塩味のおむすびとお漬物のお弁当と鍋に入れた豆のスープを持たせてあげる。
温泉地といえば、お食事も大事ですね。
遊山箱。
温泉地で美味しい食べ物を詰め込む遊山箱と言われる重箱をいつか作りたいな。
見栄えが良いと思う。
前世の観光地でも人気だった。
小さいサイズのオシャレな遊山箱に和菓子を詰めた物も大変映えだった。
漆塗りの箱ってどこかに無いのかしら?
今回はそんな物は無いので、普通に景色を見ながらバーベキュー。
夕焼け色が紅葉が視界に広がる。サンセットバーベキューだ。
廃墟と私の歌で生い茂った植物の組み合わせが人類の滅んだ後の風景のようで幻想的。
いや、人類滅んでないけど。
しばらく立ち入り禁止で封印放置されてただけですけど。
さて、大人気のピザも三種用意してある。
浄化の儀式は現地までの移動に時間がかかるから、既に焼いて持って来てあり、すぐに食べられる。
亜空間収納からピザを次々に取り出すと、焼き立てのままなので、瞬間、香ばしい香りが漂う。
私の好きな照り焼きチキン味とチーズとトマトのマルゲリータ、コーンとベーコンとチーズの黄金の組み合わせの三種類。
そして新鮮野菜の野菜スティックにディップソース付き。
皆、嬉しそうに、美味しそうに食べている。
フライドポテトも出すと大人気。殿下の警護があるのでお酒を出せなくてごめんね。
飲み物は林檎や葡萄のジュース、フルーツは干したいちじく。桃。いちご。
誠に甘露である。
串焼きのお肉を焼く為の火を見ていたら、お父様の冒険者時代のお話を聞きたくなっておねだりしてみた。
「昔、冒険者時代に食べてた物?」
「はい」
「そうだな、狩った魔物の肉の他は…脂肉とキャベツを煮込んで汁ごと食べた。牡蠣と玉葱を葡萄酒で煮た物とか干したいちじく、葡萄、クルミ、アーモンド、空豆に、りんご、キャベツ、硬いパン等」
「興味深いです」
「旅先で市場に行くと利き酒屋がいて、色んな所の葡萄酒を飲んだ、美味い物も…不味い物も」
お父様は昔語りをしながら目の前にある網の上の串焼きを掴んでひっくり返す。
何故領主のお父様が自ら肉を焼いているのかと言えば私のリクエストだからだ。
火はジリジリと串焼きのお肉を焼いていく。
お父様の手の甲って血管や骨が浮かび上がっていて、セクシーだから好き。
しかも鍛えてあってゴツゴツしてて男らしく、逞しい。
更に指も長く、爪も短く揃えてあり、清潔感も有る。
多くの女性は手フェチなので、後世にも残さなければと、度々記録の宝珠を左手に握り込む。
このセクシーな手を撮影したくてわざわざ肉を焼いて貰っているのだ。
しっかりと撮影しなければ! 使命感に燃える。
「不味いお酒もわざわざ買って飲んだんですか?」
肉に振りかけると、劇的に美味しくなるスパイスを右手でお父様に手渡しつつ聞く。
「駆け出しの時は不味くても安いとつい手が出る事もある。
強くなると報酬も稼げるので、だいたい美味しいのを飲んだ」
焚き火の炎を映すお父様の琥珀色の瞳も美しい……。
横顔も端正な男前顔で超かっこいいので、視覚に宝珠に刻み込む。
お母様と小さい弟よ、また留守番で申し訳ありません。
記録の宝珠はちゃんと使っております。
パチパチと火の爆ぜる音と、お父様のイケボで昔話を聞きながら、贅沢にスパイスを使った焼き立てのお肉や好きな味のピザ、フライドポテト、野菜スティックも食べる。
私の選んだ飲み物は林檎ジュース。
時に干したいちじく、いちご、桃も食べる。
いちごは瑞々しい、そして桃が甘くて美味しい。
贅沢な時間だった。
正面側に座ってる殿下や子爵令嬢も目を輝かせてお父様のお話を聞いていた。
ピザを食べた子爵令嬢は「語彙力が無くなるほど美味しいですわ」と、言っていた。
語彙力消失ピザか。
口に合ったようで良かった。
集まった領民には神職の方達と同じ様に腹持ちの良い塩むすびと漬け物お弁当と串焼きを振る舞った。
大変喜んだ。温泉に入って紅葉見ながらお弁当だもんね。
温泉に入るから濡れた体を拭く布まであげたからね。
思わぬ記念品になってしまった。
宴のような食事が終わって空がだいぶん暗くなる。
一軒だけ綺麗にした宿泊する宿の中に移動する。
「夜は外の廃墟が怖いから一緒に寝て下さい」
「怖いなら仕方ないな」
私はお父様の服の裾を掴みながら甘えた。
お父様は優しく微笑んで頭を撫でてくれたし、夜の廃墟が怖いという理由でお父様に添い寝して貰う事にした!
秋になったから多少ひっついても大丈夫でしょう!
今は怖く無いけど、深夜は怖いかもしれないので。
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