第47話 王都でお買い物

 冬の魔物狩りの為、服の生地を買いに王都へ。


 濃紺のワンピースドレスに付け襟と付け袖、銀糸入りの白いショール、ポシェット。

 魔魚の鱗イヤーフックも装備した。

 珍しく変装無しで王都に来るから緊張する。


 付き添いは亜空間収納スキル持ちのエルフのアシェルさん。

 ライリーの騎士もジャンケンで勝ったらしいローウェが一人同行。


 転移陣のある教会の敷地内で殿下達が待っていてくれた。

 整列なんてされると皆顔が良いせいでホスト感ある。眩しい……。

 高級生地店に馬車で移動する。


 私はアシェルさんや殿下と同じ馬車に乗り込む。

 妖精のリナルドは私のポシェットの中で気配を消している。

 お店の人にきゃーっ! ネズミー! とか言われないようにする為である。


 私の今回の護衛の騎士は殿下の側近と馬で移動。

 例の転移陣は竜や馬ごと移動出来る大きさがある。


 何も打ち合わせして無いのに殿下も偶然濃紺の衣装を着ていた。

 アスコットタイの留め具に付いた宝石はペリドットが煌めいている。


 まさか私の瞳の色に合わせて緑色の宝石を選んだとか無いわよね? 

 だとしたら照れるけど…自意識過剰かも、単に色が好きなだけだよね、うん。



「シックな色合いも似合う物だな」


 殿下がイタリア人の男性みたいに褒めてくる。照れる。



「殿下もお似合いです」

「名前で呼ぶように」


 うっ……。そうか、外だものね、殿下は仰々しいか。

 でもやっぱり照れる。男の子の名前呼びは。


「ギ、ギル様」

「それで良い」


 ギル様はニヤリと笑った。

 ……もしや、からかってない?


 馬車内では杖やアクセサリーとか、王家の方達に贈った物は全て喜んで貰えた等の話をしてくれた。

 手紙も使者が届けてくれてたけど、直接言葉でも伝えて下さった。


 そういえばお母様が王妃様のお茶会に誘われたけど、せっかくだし、お母様のドレス生地も探そうかな。


 高級生地屋前に到着。大きいお店だわ。

 馬車から降りる時に殿下が手を取って下さった。

 わあ、王子様みたい! ……って、王子様だったわ。 照れる。


 店内に入ると沢山の生地が並んでいる。布地問屋、好き。


 中身オタクなせいか紙屋さんも布屋さんも好きなのよね。心躍る空間。


 クリーム色のコート生地と、襟元に使うファー等を選んだ。

 ドレスは、うーん、上品なブルーグレーにしよう。それと綺麗なレース。

 店員さんと殿下に希望の生地を言う。

 

 殿下も良いんじゃないか?と言うのでお買い上げ。


 さらに身なりで上客に見えたのか店員さんのセールストークが始まる。


「こちらの生地は水を弾くように錬金術師が加工をしておりまして、野外活動の多い騎士様のマントを作って贈るのにも人気で」


 待って! 撥水加工って事!? 水着素材に使えるかな? 欲しい!

 来年の夏はプールを作って泳ぐんだ!

 お父様とお母様の未だ衰える事を知らない肉体美を水着で堪能させていただく所存!


「これは支払い別で買います、群青と紫と白と緑色の生地を。こちらの上品な淡い紫色の生地も」


 それとお母様のドレス用に追加。


 殿下が生地に目をやりながら聞いて来た。


「この水を弾く生地でマントかコートを作るのか?」

「いいえ、これは冬の行事と関係ない物に使う予定なので自分でお支払いします」


 支払い別とか、私、すごい庶民的な事を言ってしまった。


「構わない、こちらも私が支払う」


 殿下はまた私に課金をしようとしている!

 いや、彼は経済を回そうとしているのだ、そうに違いない。



「でもこれは、本当にいいのですよ、実験的な物を作るので」

「構わない、男に恥をかかせないでくれ、支払いはこちらがする」



 恥をかくと言われてしまえば、もう引き下がるしか無い。

 じゃあ、あんまり回せ無い人の分まで、経済を回してください。


 買った生地は全てアシェルさんが収納してくれた。毎回すみません。

 ありがとうございます。


 買い物を終えて店の外に出たら、せっかくだからと殿下に誘われた。



「まだ色付き初めだが、近くの紅葉を見に行くか?」


 当然、季節を味わう為に、紅葉スポットへ移動。


 以前にお父様と紅葉デートしてどんぐりを拾った場所だ。

 懐かしい、記録の宝珠を持って来てて良かった。


 秋空には鱗雲が浮かんでいる。


 王都の紅葉スポットはまだ青葉が多いけれど、所々に赤と黄色に色付いた葉っぱがとても綺麗。

 ライリーの森は私の歌で成長を早められて紅葉も早かったのかな?

 色の付き方がだいぶん違う。


 歩くと足元の葉っぱがカサリと音を立てる。


 落ち葉を見ると焼き芋を作りたくなる。

 甘ーいさつまいもって素敵よね。

 どこかにあるなら焼き芋屋さんは秋冬になったらライリーの城まで売りつけに来て欲しい。

 買うから。


 紅葉デートの客狙いか、敷物の上でアクセサリーなんかも売っている人もいる。


 完全な秋色の風景だと黒髪赤目のガイ君の姿の方が似合っているかもなどと思いつつも、サラサラの銀髪、蒼い目、褐色肌の殿下の姿とまだ青い木々と色付いた木々のミックスされた風景を記録する。


 結局どちらも美しい……素材の勝利。


 何やら乙女ゲームヒーローのやや幼い時のスチルっぽく見えて来た。


「主人公ちゃん」と幼なじみ設定で一時期、なんらかの理由で離れ離れになって、高校で再会する系の回想中のワンシーン的な。


 あー、乙女ゲームやりたい。

 今センチメンタルなオルゴール曲のBGMでもかかってて隣にピンクか茶色の髪色のボブカットの女の子でもいればもう完璧よ。


 いないけど。


 そして通行人から無駄に視線を集めてる。美形集団なので仕方ない。

 私がただの通行人でも見るから気持ちは分かる。

 可愛い〜とか、かっこいい〜とか言う声が聞こえて来る。


 たまにあの耳飾り可愛い〜どこで売ってるんだろ的な声も聞こえた。

 その時殿下の方を盗み見たけど、穏やかに笑っていたようだった。


 殿下と麗しいエルフと騎士ばかりを喜んで撮影してると、殿下に自分も映れとばかりに宝珠を奪われて、私にそこを歩けとか、映画監督のように指示を出されたりした。


 さっきまで自分が同じ事をやらせてたので、文句は言えない。


 ライリーの騎士のローウェが私の耳元で囁いた。


「あそこにどんぐりが落ちてますよ」

「欲しければ、拾いなさい」


 けど、私がそれを渡して、またどんぐりを大事に保存する男が増えるのもどうかと思うので、そっけなく言ったらしゅんとしちゃった。


 大きい成人男性が子犬のような顔をしないで欲しい、頭撫でたくなるから。


 程よく疲れたので軽食をとりにいく。ランチタイム。


 近くのカフェに入ると、美味しそうな香りが鼻腔をくすぐった。

 前回はカヌレをお父様と食べたなあと、思い出しつつ、今回は、紅茶とパンプキンパイをいただいた。

 優しい味が素敵。美味しかった。


 カフェ内部でも周りの人がチラチラとこっちを見てる。

 何者なんだ、あの集団!?って、感じよね、すみません。

 第三王子のギル様は世間にまだあまり知られていないみたい。


 大騒ぎにならず、良かった。


 お店から出ると、貧しい身なりの小さい女の子が近寄って来て、お願いされた。


「お花を買って下さい」


 見ると籠いっぱいに小さい花束が入っている。


 少女は目をうるうるさせている。


 チワワのようだ。

 これは……売り切らないと親方に怒られる気配を察知。


「その籠の中身全部を買うといくらになるの?」

「え? 全部ですか? ……えっと、銀貨3枚です」


 まさか全部と言われるとは思わなかったらしく、少女が慌てて答えた。


「全ていただくわ」


 気品のある令嬢プレイをする私。令嬢だけど。


「支払いは俺が」


 すかさず課金チャンスを逃がさない殿下。何故そこまで…。

 さっきから奢られてばかりなんですが。



「あの、これは私が」

「良いから、女性に花を贈るのは男の役割だ」


 イタリア人男性か? てか、側近とかギャラリーが多いからアレなんだけど、これデートっぽいな!?

 乙女ゲームの妄想してる場合か。

 いやいや、やはりこんなギャラリー沢山のデートなどあってたまるか。


 しかしこれがゲームなら、私の生活スケジュールは料理のコマンドばかり選んでいたのでは……?

 部活に入っていたなら料理部といったいったところか。

 昨日はプリン作ってた。

 器用さか気配りのパラメータが上がりそう。


 デートだなんて意識すると猛烈に恥ずかしいので、アシェルさんに買ったお花を収納して貰ってから、彼の長身を盾にして背後に隠れた。



「何をしてるんだ?」


 ちょと殿下、今、突っ込まないで欲しい。


「背後を取る練習」


 我ながら苦しい言い訳である。

 アシェルさんが肩を震わせ笑いを堪えている。


「令嬢のする練習ではないと思うのだが」


 追求が激しい!


「殿下、照れ隠しですよ」


 殿下の側近んんんんんんーっ! 余計な事を言うんじゃあない!

 赤茶髪の殿下の側近の脇腹あたりに力の入って無いパンチをポカポカと繰り出す私。


「ははは! 全く痛くはありませんが、お許し下さい、セレスティアナ様」


 ノーダメージの顔で笑っている、確かエイデンとか言う男。


「腹いせにお土産のプリンの毒見は、エイデン殿以外を要求します!」


 私は殿下に向かってキッとした顔で言った。


「ん? お土産を用意してくれているのか?」


 殿下は嬉しそうだ。


「そーですー」


 もはや品格をかなぐり捨てた私はヤケクソ気味に言う。


 赤茶髪の側近、エイデン氏はそんな! という絶望顔をしている。

 他の殿下の側近さん達は嬉しそうにニヤニヤと笑っている。


 買い物もランチも終わり、殿下達と別れ際に教会の側でアシェルさんから、プリン入りの大きめピクニックバスケットを亜空間収納から出して貰い、殿下の側近に渡す。


 赤茶髪のエイデン氏以外に!

 大人の男性がまたしゅんとしちゃった。


「まあ、プリンは側近さん達全員の人数分あるし、殿下の分は2個ありますけどね!」


 と、内容を解説してあげた。


「「セレスティアナ様! なんと慈悲深い!」」


 殿下の側近さん達の声がハモった。

 殿下はまた一旦王城に帰ってしばらくしてからまたライリーに来て、浄化の儀式のお手伝いに来てくれるらしい。


 行ったり来たりで忙しそう。

 プリンでも食べて頑張って欲しい。

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