第46話 王城の女
〜シエンナ王女視点〜
王城が何やら慌ただしいと思ったら、弟のギルバートがライリーの城から一時的に戻って来た。
依頼品の涼しい風を送ってくれる杖が完成したらしい。
サロンでお茶を飲んでいた私達家族は色めきたった。
執事が運んで来てくれた物をそれぞれが受け取る。
「この杖、部屋で使う場合には立てる台座が欲しいわね、細工師を呼んで作らせましょう」
お母様が嬉しそうに杖を手にして眺めている。
「氷の魔石を炎の魔石に入れ替えたら温風も出るよう改良されています」
ギルバートの説明に驚いた。
「それは凄い! 視察の時、すごく重宝しそうだ、暑さ寒さで辛くならない」
アーバインお兄様も嬉しそう。
「うむ、これは良い物を貰った」
王たるお父様も満足気だわ。
ライリーの令嬢は天才錬金術師でもあるのかしら?
「けれどてっきり来年の夏前、春くらいに出来あがると思っていたのに仕事が早くて驚いたわ」
私は魔法の杖を眺めながら感心する。
「まだ浄化の儀式も全地域終わって無いでしょうに、無理をさせたかしら」
お母様がギルバートをチラリと見てそう言った。
「本人は寝れば回復するから大丈夫だと、それと、現場の準備があるそうで、待機中です。
それと、姉上は誕生日が近い事もあるので、こちらも」
ギルバートが軽く手をあげると執事が恭しく綺麗な装飾の付いた箱を差し出して来た。
中に入っていたのは美しいアクセサリーだった。
「ライリーの母子、シルヴィア様、セレスティアナ嬢、それと母上、姉上ともお揃いの虹色と銀色の魔魚の鱗のアクセサリー、イヤーフックとブレスレットです」
と、ギルバートが追加でそう説明してくれた。
「ライリー側はイヤーフックと指輪の組み合わせだそうです」
ギルバートはお茶を飲みつつ、さらに補足した。
私達側の指輪のサイズを知らないからと、なるほど。
「まあ、素敵、とても綺麗だわ、誕生日でもない私にまで下さるなんて、お礼状を出さなくては」
お母様も嬉しそうにアクセサリーを身に着けて、執事に鏡を要求している。
「虹色も銀色もキラキラしててとても綺麗、あなたの狩った獲物の鱗でもあるわね、ありがとうギル」
私は弟にもお礼を言った。
「喜んでいただけたなら幸いです」
いたってクールに返事をするギルバート。
別に嫌って無いのに正室のお母様の子じゃないからか、固いのよね。
まあ、これでもライリーの令嬢と交流して明るくなった方だから…とりあえずは、よしとしましょう。
* * *
私は依頼品と贈り物に大満足で自室に戻り、豪奢でゆったりとしたソファに腰掛ける。
婚約者が贈ってくれた足の短い犬が足元にじゃれついてくるので頭を撫でてあげた。
ティーテーブルには贈り物を並べてある。
「まあ、素敵ですね」
侍女もそう言ってキラキラした瞳でアクセサリーを見ている。
「虹色の方は婚姻色を出している雄の魚の鱗なのですって」
ギルバートに聞いていた豆知識を教えた。
「まあ、それは是非とも婚約者や恋人に贈って貰いたい物ですね、ロマンを感じます」
「ふふ、髪飾りあたりをこの素材で作って欲しいと婚約者のルーク様におねだりしてみようかしら」
「シエンナ姫様がそうされるなら、婚約者に虹色婚姻色のアクセサリーを贈って貰う事が流行るかもしれませんね」
「なるほど、ありうる話ね」
流行を生み出せるじゃない。
ブレスレットの飾りには虹色の鱗で蝶を作ってある。
腕にはめて窓からの陽光に晒すと、本当にうっとりするほど綺麗。
何しろ、長年瘴気に蝕まれた大地を浄化した聖女のような力を持つ、ライリーの天使だとか宝石などと言われる令嬢からの贈り物だ。
そのような尊い存在とお揃いの素材のアクセなら堂々と身に着ける事が出来る。
まあ、流石にデザインは変えてあると弟に聞いたけど、こちらの方が豪華仕様らしい。
「せっかくなので、私の秋の誕生パーティーでお披露目しましょう」
この鱗は弟の狩りの獲物だし、弟とライリーの令嬢二人からの贈り物と言っても差し支えないでしょう。
「よろしいと思いますわ」
侍女も頷いた。
私は誕生パーティーでワインレッドのドレスを着る予定。
髪の色も炎の精霊の加護を賜っていて、オレンジがかった赤だし。
ドレスの襟元は白く豪華なレースで飾られている。
うん、合わない事は無いでしょう、ブレスレットにも同種の虹色が入るから、バランスも取れるはず。
パーティーには当然私の婚約者の公爵令息のルークも来るし、このアクセを身に着けていたら貴い浄化能力者たる令嬢と仲良しみたいに見えるかも。
私にまた箔が付いてしまうわね!
せいぜい嫁いだ後も大事にして欲しいわ。
魔法の杖も本当にありがたいわ。
夏はせっかく綺麗なドレスを着ても暑くて少し動くと汗をかいてしまい、汗染みが────!! って心配しないといけないし、これで不安、不快要素も軽減出来るでしょう。
寒い土地から嫁いで来たお母様も暑さには弱くて毎年夏にはぐったりしている。
きっとこの魔法の杖で元気になって下さるわ。
私は机の上に置いている杖を撫でた。
ああ、本当に天使だわ、セレスティアナ嬢。
冬の魔物狩り大会あたりで本人にお会い出来るかしら。
私が魔物を狩って彼女にお礼として貢ぎたいくらいだわ。
お茶の時間にサロンで家族に会って聞いたけれど、ライリーは石鹸、シャンプー、リンス、ポンプ、ひき肉器にファイバスを美味しく食べる為のセイマイキとやらを作っていて、他領から予算集めもしていたようだし、以後、何か資金が必要な事業があるなら王家からも出すって言ってらしたわ。
お母様がライリーにお礼のお手紙を書くらしいし、
「私からもセレスティアナ嬢に、お礼のお手紙を出しましょう、道具の準備をしてちょうだい」
ティーテーブルから文机の方に移動すると侍女に視線で指示を出して、私はセレスティアナ嬢の姿を思い出す。
「かしこまりました、王女殿下」
侍女が文机にペンとインクを用意し、便箋を何種類か持って来て聞いて来た。
「どれに致しますか?」
彼女は記録の宝珠の情報だと、美しい新緑のような瞳をしているし、便箋は…
「薄緑があるからそれにしようかしら」
「はい、ではこちらを」
薄緑色の便箋と封筒を使う事にした。
久しぶりに面倒でもなく、ウキウキした気分でお手紙を書くわ。
* * *
後に知った事だけど、お母様がライリー辺境伯夫人宛に出した手紙。
出したのはお礼のお手紙だけでなく、お茶会への招待状も送ったらしい。
まあ、あの氷の精霊のように美しい方が王城に来られるのかしら、目が幸せになりそう。
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