第42話 耳飾りと夏の花火
ワイバーンで現場に到着すると、毎度のように遊牧民のゲルのようなテントと巫女さんと神官達。
そして先んじて来ていた私を手伝ってくれるライリーのメイド一人と騎士達が並んで待機していた。
夏の日差しがキツイ中、申し訳ない、お疲れ様です。
またお着替えタイムなのでお父様に耳飾りを出して貰った。
「耳飾りを付けても良いかしら?」
「素材、材質はなんですか?」
「魔魚の鱗と金属と魔石ですけど」
「魔物系はダメです、神聖な儀式ですので」巫女さんは容赦無かった。
私が歌ってるプチリサイタルみたいな物だけど却下らしい。
諦めて、おやつの時間にでも付けよう。
歌を歌うと今回も奇跡で畑も蘇るし、なんと近くに有る白樺の林まで復活した。
観衆から歓声が上がる。 びっくりした。 大地の女神様の恩寵?
それにしても白樺素敵! 見た目が大好き! 幹が白いのが綺麗! 語彙力は死んだ!
お父様に蘇った白樺の林にここをキャンプ地にしたいとお願いして、設営をした。
私は一旦女騎士風衣装に着替えた。動きやすいので。
ここは近くに川もあって、ロケーション最高じゃない?
夏の緑は濃く、鮮やか。
綺麗な川で牛乳や野菜などを冷やす風景に憧れがあった私は、川でトマトやきゅうりや瓶入り牛乳などを籠に入れて冷やしてみた。
のどか! 癒しの田舎風景! TVやアニメで見た事ある!
ここは魔の森とかじゃ無いから、魔魚も居ないし、安全なはず。
とりあえず野菜は冷やしておいて、ランチタイム。
カマドを作ってバーベキューよ。
肉の焼ける香ばしい香りが周囲に漂う。
浄化の儀式は終わったのに何故か領民がほとんど残ってて帰らない。
復活した白樺の林が美しいから散策してるのかな。
殿下の為の防犯用目隠し衝立の布のずっと向こうにいるとしても風下にいたら香りは届いてしまう。
ここで騎士達が平民達の方に近付いて
「今から領主様の計らいでパンを配る、欲しい者は並べ」
と、声を張りあげて言った。
ホットドッグの出番である。
わーっ! と領民が喜んだ声が聞こえて来た。
お弁当持ち込みで儀式見に来た人ほとんどいないからね。
たまに硬そうなパンとか干し肉噛んでる人がいるみたいだけど。
パンも美味しいし、挟まってる腸詰めも美味しいと評判みたい。
これで我々もバーベキューに集中出来る。
「やはり美味しいな」
「スパイスが実に良い仕事をしているようだ」
殿下もお父様も美味しそうに食べている。
夏とはいえ目の前で火を着けてバーベキューはテンションが上がりますね。
クーラーの杖はもちろん側で稼働中です。
竜騎士のワイバーンは草食のようで草を食べている。
お肉と塩むすびを食べて腹八分くらいになった。
そこで私は着替えて来ますねと、テントに移動した。
メイドが脱いだ服を畳んでくれる。インナーは予備が複数あるから脱いだのは片付ける。
白いワンピースとサンダルに着替え、髪型はハーフアップにした。
儀式の時は耳飾りを禁止されたから今ようやく着ける。
耳元で虹色と銀色が煌めく。
白い服なら虹色と喧嘩しない。
着替えた私は殿下やお父様の元に戻った。
殿下が私の耳飾りに気がついたみたいで輝くような瞳でじっと見てる。
やや頬を赤らめて言う。
「あの時の魚の鱗、耳飾りにしたのだな……」
「はい、美しい物をありがとうございました」
「とても綺麗だ、似合ってる」
よし、ギルバート殿下はちゃんと女の子を褒められる男であった。
でも照れる……! ありがたいけど照れる!
顔が火照るので、お父様に言って念願のアレを亜空間収納から取り出して貰った。
ここで満を持してデザートのアイス登場!
私は敷物の上に移動して、食べ終わったお皿を下げて貰って、低いテーブルの上にうっすら黄色っぽく見えるアイス入りの器をトレイごと並べていった。
「何だこれは?」
殿下が初めて見るって顔をしている。
「アイスクリーム、甘いデザートです」
私はこう食べるというかの如く器に盛ったアイスをスプーンですくう。
ぱくり。 口に入れた時の幸福感!
美味し────! 冷た────い! 甘ーい! 最高──っ!!
「では失礼して……」
いつもの赤茶髪の毒見の人が殿下の前にあるアイスの皿に手を伸ばした。
「なんで毎回エイデンが毒見役なんだ? 代わってくれていいぞ?」
殿下の他の側近が言う。
「いや、ブライアン、今回は初めて見る物だし、私が」
と、全く譲らない。
「仕方ないな」
残念そうに引き下がる側近のブライアンさん。
人前で見苦しく争う訳にはいくまい。
誇り高き騎士だもの。
「こ、これは……っ! 流石セレスティアナ様!
毎回意味が分からない程、美味しい物を出して来ますね……!」
やや興奮気味に褒められた。
「エイデン? 意味が分からないとは?」
殿下は訝しんだ。
「甘くて冷たくて、美味しくて、なのに口の中であっという間にスッ……と、溶けてしまうのです」
「美味しいのは分かった、よこせ」
側近のエイデンさんからアイスを取り返して早速食べる殿下。
「…………っ!!」
「どうしました殿下?」
アイスを口にしてフリーズした殿下に父様が声をかけた。
「……美味すぎた、そして溶けた」
うん、アイスは溶けるのよ殿下。
そしてお父様がアイスを一口ぱくりと食べた。
「では、私も」
「いかがですか?」
「やはり……うちの娘は天才だった」
と、言った。
天才なのは地球人のどなたかだけど、口に合って良かった。
殿下の側近達やうちの騎士達と竜騎士、メイドにも振る舞った。
配れるのはこの数で限界だった。
だいたい美味しすぎると言われた。
やはり夏はアイスだよね〜〜。
しばしアイスを満喫してから私は川の側に行き、岩場に緑色のハンカチを敷き、腰掛けて冷やしてる野菜を眺める。
殿下もついて来て、私の隣りに座ろうとしたら、側近が凄い速さで紺色のハンカチを敷いて来て、それに腰掛けた。
今ならばマイナスイオンが出てそう。
夏の陽射しを受けて煌めく川を眺めてそう思った。
不意に目の前に影が落ちたと思ったら殿下の側近が私に話かけて来た。
「ついてきた民がじっと野菜を見てますが、良いのですか?」
食われそうって事?
「まだお腹が空いてるならあげてもいいわ。
私はこの風景がひととき見れただけでも、目的は果たせたような物だもの」
「せっかく冷やしてるようだが、あげてもいいのか?」
殿下まで心配してくれたようで声をかけて来た。
「かまいませんよ」
私はアイスも食べたし満足。
「じゃあ領民が盗みを働く前に、食べたければ食すがいいと、言ってやった方がいいのでは?」
「……確かに、でも全員分は無いのですよね」
量が足らない。
「よく見たら……頬がこけて痩せていかにも乳の出が悪そうな乳飲み子を抱えた母親までいるようだが、ああいう女性に優先的にあげたらどうだ?」
「ん〜……母乳出さないといけない人は体を冷やす野菜より温かい物の方が良いので悩ましいですね」
殿下が知らなかったそんなのって顔してるけど男の子だもの、それで普通では?
でも子供を抱える母親を気遣う優しさはいいと思います!
「さっき腸詰めを挟んだパンを配ったので良いのでは?」
名前を知らない殿下の側近騎士その1が言った。
「リアン殿、あれは足りなくて野菜をじっと見てるのでは」
さっきの発言の人リアンさんて言うのか。
「もしかしてあまり見ない風景を楽しんでるだけでは?
瘴気の影響下にあった状態の川で食べ物を冷やす事はあまり無かったのかも」
ライリーの騎士のレザークが言う。
私と似た楽しみ方をしてる民がいるって事? 良い趣味では?
「井戸には浄化石が入っていますが流石に川まで手が回りませんでしたし、有り得る話ですな」
ライリーの眼帯の渋カッコいい騎士ヘルムートがレザークの言葉を補足した。
「先の祈りの力で実ったばかりの冷やしてない野菜を俺が買い上げて振るまえば解決するか?」
「殿下、先程の畑の物はまだ農民が収穫の最中で終わってませんよ」
リアンと言う騎士が冷静に突っ込んだ。
「ギルバート様、まだ肉があるので、日が暮れても帰らないようなら、それを振る舞いましょう」
お父様がいつの間にかそばに来てそう言った。
元は80人くらいいた気がする観客?が未だ60人は残っているように見える。
お肉にファイバス、塩おむすびストックを付けようか?
お父様の夜食用に収納に結構な数を突っ込んである。
その辺のつるっとした大きい葉っぱを川で洗えば器に出来るし。
葉っぱの器って風情が有る。 元日本人の血が騒ぐ。
足りない分は炊くか。大きい釜も有るし。
うちの城の騎士ならお米の炊き方は覚えているから手伝ってもらおう。
申し訳ないけど。
そして思い出した、トマトは焼けばいいんじゃない?って。
焼いてから例の女性にあげるようにお願いした。あ、牛乳もホットミルクにしてあげて。
てか、何故まだ領民は帰らないのか? 暇なのかな……大丈夫? お家で家族が待ってない?
何かまだイベントがあると思っているの?
「滅多に見られない王子様とか竜騎士を見に来てるのかしら」
なら気持ちは分かる。
ここには超かっこいいお父様もいるし。
そう言うと、
「どう考えても奇跡を起こす其方を見に来てる」
と返された。
生活に娯楽が少なくて珍しい物を見たくなるのかもしれない。
林の中で白樺を眺めたり、つるっとした葉っぱを集めていたら、リナルドが少し先に甘酸っぱいコケモモが有ると教えてくれた。
そしてコケモモ発見! でかした!
赤くて丸い果実がめっちゃ可愛い、少し根っこごと貰って城に持って帰って移植しよう。
* * *
そしてやはり夕方になっても領民が家に帰らない。
テントも無いのに。 あのまま無防備に過ごしたら虫刺されとか心配。
野外ですよ。
葉っぱにのせたおにぎりとお肉の串焼きを振る舞う。皆喜んでいた。
神職の巫女さん達はお肉は食べないけどおにぎりは食べていた。
清貧を尊んでいるようだ。
領民にはいつかお祭りでアイスも出してあげたいね。
流石に量が足りず今回は分けられなかった、ごめん。
食べ物分けてあげるだけでイベントに見えるのかな。
「せめて花火でも上げられたら……」
『光魔法で、空に花を咲かせたらいいんじゃない?』
私の呟きにリナルドが反応した。
そうか、別に火薬でなくても私には魔法がある。
イメージするのは前世の日本で見た花火。
パーンとかドン! とか言う炸裂音は無いけど、夜の帳が下りても帰らずにとどまっていた領民の為に、私は光魔法の花火を上げた。
リナルドが謎の草笛でヒューっという打ち上げ音を出して演出してくれた。
器用な妖精である。
夜空に光の花が咲くと、わ──っと歓声が上がる。
瘴気のせいで長く娯楽が少なかった領民の為に美しい物を見せてあげたかった。
夏のプチ花火大会よ。
午前中は浄化で魔力を使ったし、余力を使うので五発くらいが精一杯。
二発目を打った後、私の隣にいた殿下が言ってくれた。
「その、とても綺麗だな」
「ありがとうございます」
夜空に咲く花火を見て言ってくれたと思って、私は上を見たまま笑顔でそう言った。
ふとその後、もしかして耳飾りの虹色を真横で見てるのかなと彼の方を見た。
殿下の瞳には私が映っていた。
……花火を見て下さい。
お願いします。
恥ずかしいので。
私は五発目の花火をうってから疲れて倒れた。
魔力切れ。
地面に頭がぶつかる前にさっと抱き止めてくれたのは、隣にいて花火だか私だかを見ていた殿下だったみたい。
すみません、張り切りすぎてご迷惑をおかけしました。
おやすみなさい……。
朝までテントで爆睡しました。
ちなみに花火を見た後で領民達はランタンと月明かりを頼りにようやく帰宅したらしい。
帰り間際に騎士が領民に何故儀式後も家に帰らずにとどまっていたのか聞いてみたら、あまりにも尊い存在がおられたのでなるべく近くに、お側にいたかった。との事。
……土産話は出来ただろうと思う。
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