第40話 エレガントに
今回も浄化の儀式をつつがなく終えた。
嵐の影響か、足元が泥まみれになっていながらも畑に奇跡を見に来た平民達が多くいた。
私は巡礼者のようについて来る領民の為に、妖精リナルド推薦の空き地に足を止めて、土魔法で穴を開け、
更に硬化して風呂場を作った。
露天風呂である。
無論男湯と女湯は分けて壁も作った。
排水先の浄化槽には後に浄化スライムを投入して貰う。
なんて便利な魔法生物か。
ちなみにお風呂はちゃんと領主のお父様の許可を得て作った。
ただ温泉が湧いている訳では無いので、石を焼く方法でお湯を作るように言った。
焼き石風呂。
焼いて熱々になった石を水の中にドボンしてお湯にする方法である。
これなら魔力の無い平民でも使えるという配慮。
今は夏なので水風呂でも構わないだろうけど、寒くなるとお湯でないとね。
でも水の補充だけは水の魔石頼りでしてもらう。
水の魔石を埋め込まれた水瓶を持った乙女の石像を作った。
その石像の瓶から水をザーッと浴槽に出す。 排水が浄化槽に行く、浄化槽からまた水瓶に循環する。
そういう構造にした。
大地の女神様が私の創造魔法に力を貸してくれてるらしい。
リナルドがそう言うからそうなんだろう。
ありがたい話である。
まるで聖者にする様に「足を洗わせて下さい」などと農民に言われたけれど、足元が汚れているのは私ではなくて、徒歩で来た君達なので。丁重にお断りして自分を洗いなさいと言っておいた。
病気にならないように清潔を心がけて欲しい。
今度ここの風呂場に石鹸を寄付しよう。
城に戻ったら、お母様や弟の顔を見てから一息つく。
はー、弟可愛い、私が人差し指を近づけると小さな手でぎゅっと握ってくれる。
癒される。
弟を愛でながらお母様に今日の報告をしていると明日は殿下とダンスの練習をしなさいと言われた。
すっかり忘れていた。そういう物がありましたね。
* * *
厨房で赤紫蘇のジュースを作る。
鮮やかな赤色が綺麗なので好きなのだ。
葉の部分を摘み取り、3回ほど水を替えて綺麗に洗う。
ザルにあげて水気をきり、茎があれば取り除く。
鍋に水を入れて沸かし葉を入れて中火で20分煮る。
ザルでこす。
鍋に戻して温め、砂糖、レモン汁を加えて砂糖が溶けるまで弱火で煮る。
レモン汁を入れた時にすごく鮮やかな赤色の液体になるのが綺麗。
粗熱がとれたら氷室で数時間冷やしておく。
後日、暑い時に飲もうと思う。
* * *
翌日の朝の8時半くらい。
まずお手本にお父様とお母様の華麗なダンスを見せて貰う。
記録の宝珠を握りしめてしかと見る!
クーラー杖のおかげで部屋は涼しくしてある。
お父様が軍服っぽい正装しててめちゃくちゃかっこいい!
ナチュラルターンやスピンターンなどの動きでお母様のグリーンのドレスが華麗に翻る。
動きにキレがあるのに優雅にして華麗!
団扇かペンライトがあれば振って応援したい。
特にお父様が力強くお母様の腰を抱き支えて、お母様が上体をぐっと反らしてジャン! ってなる所好き。
語彙力と表現力が無いけどとにかく素敵。
両親のダンスを見てるだけで幸せなのに私も練習せねばならない。
私は水色のドレスを着ていて、群青色に銀糸の刺繍入りの上着を着て正装をした殿下の手をとる。
めちゃくちゃ近いじゃない、照れるわ、どうにか気を紛らわす為に違う事を考えたい。
前世で見たダンス漫画やアニメを思い出そう。
彼等はとても真剣だった。
片手で腰を支えて貰い、もう片方の手はしっかりと上方で繋いで上半身を反らしたままくるっとターンする時も、辛くとも微笑は崩さない! 的な指導がお母様から入る。
あくまでエレガントに!
てか、クーラー杖でお部屋冷やしていても汗かくわ、普通に。
夏とダンスなめるな。
練習着で良かったのでは?
いや、別にレオタードとか持って無かったわ。
しばらく練習して解放された。なんとか殿下の足は踏まずに済んだ。
ぜーはー。
殿下は鍛えているせいか私よりは息は乱していない。さすが。
側近が渡すタオルで汗を拭っている。
お、お風呂……。
水に飛び込みたい。
私もアリーシャが渡してくれたタオルで汗を拭う。
いつか土魔法を駆使してプールを作ってやるからね。
水着の素材が欲しい、助けて天才錬金術師。
水着に必要なのは土でなく布なので人の力を借りたい。
絵の具の方は自然の石を原料にして作られた岩絵具なんかも変化させたのでなんとかなった。
二時間くらい練習して解散。
* * *
お風呂に入る。
ライリーのお城は大きいのでお風呂は複数ある。
客用貴賓室の備え付けと、貴族男性用、貴族女性用、騎士用の大きいお風呂、使用人用。
領主夫妻の部屋の隣に可愛い猫足のバスタブも有る。
本日、お父様は領主夫妻用の風呂、私とお母様が貴族女性用の風呂、殿下が洗髪台の有る貴族男性用の風呂に入って汗を流す。
お母様の大迫力のたわわ美ボディが眼前にある。
本当にありがとうございます。
森の泉でエルフの水浴びを偶然見てしまったくらいの感動がある。
だってお母様は妖精の女王のように美しいから……。
すべすべで柔らかそうな肢体、眼福です。 二児の母には見えない。
私もああいうたわわスタイルになりたいな〜。
お背中流させていただきます! と、言いたい所だったけど、メイドが
洗うみたい。それはそうですね……。
いつもは人と一緒にお風呂とか恥ずかしいけど今日は汗だくで待ってられないので一緒に入ってる。
お母様が洗髪台で先に髪を洗って貰う姿を湯船からぼーっと眺める。
青銀の髪が美しい。
殿下も洗髪台を使って髪を洗って貰ってるんだろうな。 うちの執事に。
* * *
お風呂から上がって自室で髪を乾かしてから、磨き上げられた殿下とティータイムにサロンで遭遇。
はい、ここは風呂上がり美少年カフェ開催地となりました。
ワーオ!
この褐色美少年は17歳を過ぎたあたりからセクシーが炸裂して凄い事になると思うのだが……まだ幼さがある、若い。
それでも現時点でもめちゃくちゃ容姿パラメータ高いわ。
殿下の銀髪の輝きが増してますね。いい香りもする。
私の髪もシャンプーとリンスの力で輝いてるけど。
氷入りの赤紫蘇のジュースを飲む。 先日作ったやつ。
赤くて綺麗、そして美味しい。 お茶請けはふわふわパンケーキ。
美味しい苺ジャムと蜂蜜が添えて有る。好きな方をかけろ方式。
殿下は少し悩んで苺ジャムを選んだ。
……可愛いじゃん。
「こんなふわふわなパンケーキは初めてだ。この透明度の高いグラスも見事だ、サイダーの時も驚いたが、鮮やかな赤が…綺麗だな。両方とても美味しい」
殿下はグラスを持ち上げて光を受けて煌めく赤い紫蘇ジュースを眺めながら言った。
夏が終わる前に紫蘇ジュースをお出し出来て良かったと思った。
「ところで……冬に貴族がやる魔物減らしの狩りがあるんだが、それは女性を伴って参加するのだ」
「え?女性も魔物を狩るんですか?」
「そうではなく、男性が狩った獲物を女性に捧げる催しだ」
貴族男性は意中の相手に強さや有能さをアピールして、女性は沢山良い獲物を貰った者がドヤ顔するイベントらしい。
「つまり、私にも参加して欲しいという事ですか?」
「他の令嬢に獲物を捧げて誤解されたくはないし、さりとて陛下が出ろと言うし」
「なるほど、他の女性に気を持たせたく無いから、私がカモフラージュの盾になればよろしいのですね」
「……まあ、そのようなものだ」
殿下の笑みがぎこちない。
やや歯切れが悪い物言いだが、獲物が貰えるなら悪くはないと判断した。
「分かりました、無理ない程度に頑張って下さい。 命大事に」
「あ、ああ、まだ8歳の其方に本来はあんな場所は早すぎるとは思うが、すまない、宜しく頼む」
開催地はセングーという王都の外の土地にある山らしい。
「うちの騎士も連れて行っていいのですか?」
一応聞いてみた。
「それはもちろん」
焼き鳥したいからできれば鳥系が良いな、まあ、貰えるならなんでもいいけど。
これはまだ先の冬の事だし。
「ところで次の浄化場所が少し遠いので泊まりがけになるのですが、野山でキャンプと王族が泊まれるレベルの宿じゃ無い所に無理やり泊まるのどちらが良いですか?」
ワイバーンに乗ってすら遠いので休憩の為に現地で泊まりになる事は伝えてはいたけど、最終確認をしておく。
「野山でキャンプ」
殿下はノータイムで答えた。
なら、お風呂は私が土魔法で作れば良いかな。
「分かりました。やはりキャンプの方がワクワクしますか?」
「そうだな、宿の食事は期待出来ないが其方の振る舞ってくれるキャンプの食事なら肉を焼いただけでも美味しいだろうからな」
調味料が違うのだよ! スパイスを独自でミックスして作っているから。
前世で食べてた赤いキャップの肉にかけるだけで劇的に美味しくなるアレにはまだ届かないけど!
まあロケーション効果と、一緒にいるイケメンと美女の視覚効果もあるかな。
「ライリーの護衛騎士は先に現場に配置しておりますが、気をつけて下さいね」
「私の側近も竜騎士を増員して同乗してくる、心配はいらない」
野山お泊まりキャンプ、次こそ嵐で流れたバーベキュー……焼肉をしよう。
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