第38話 やはり肉か

 殿下がわりと早くにライリーに戻って来られた。

 時刻は朝の10時くらい。


 側近がチーズケーキの毒見ならぬ味見役を奪い合ったとか、

シエンナ姫様がクーラーの杖を自分も欲しいからと国王におねだりして宝物庫から材料のイチイの木や宝珠や魔石とか揃えて、「これで来年の夏までに可能なら作って欲しいと頼まれた」とか、

うんざりした顔で私にお願いして来た。


 無理なら断ってくれて良いと言われたけど、材料まで揃えて下さったので、断る理由も無かった。


 国王陛下と王妃様の分も元々領地浄化ツアー後の魔力に余裕出来た時に作ろうとは思っていた。

 なんなら第一王子も現物見て羨ましそうにしてたらしいので作ろうとは思う。

 第二王子のみ外国に留学中だから保留。


 とりあえずお昼前に食堂に移動したら殿下と側近までついてきたせいで、食堂が…メンツが豪華過ぎるイケメンカフェみたいに見えて来た。


 どうする? 至る所に花とか飾るべき?

 ここってメイドさんまで来るんだよ。

 どうする? チェキ撮って貰う? 記録の宝珠で。


 正直課金しても良いレベルのイケメンが並んでいるのだ。

 でも貴族の令嬢が騎士の服の隙間に金をねじ込む訳にはいかない。

 何の賄賂だと思われてしまう。


 てか、待って、冷静になって、まだ領地の一部がやや復活してるだけで、お金は大事よ。

 目の前のイケメン達が課金勢だった自分を思い出させる。危険。


 いや、本来の目的を思い出そう。

 厨房で作る昼食メニューを考える為に目の前に有る食堂に来ていたはず。


 イケメンがいるからカフェっぽいメニューを出してみる?

 ふわふわパンケーキ?

 でもそれっておやつかな。 若い男の人には物足りないかな。


 この後浄化ツアーだし、あまりゆっくり考えられない。

 もういっそ殿下にメニュークジでも引いて貰いますか?


 ……殿下に見守られてて緊張する。

 何か話でもしてみるか。


「あの、殿下……」

「なんだ?」

「ふと思い出したのですが、殿下が城下街で散歩してた犬ってどなたの?」

「姉上だ」


 そうだったんだ、姉、強い。


「殿下に頼み事できるってどんな方かと思えば、お姫様だったんですね」

「男に貰った犬の散歩を俺にさせるってどうかと思うがな」

「贈り物に生き物を貰ったんですか、小鳥とかは聞いた事がありますけど」


 犬か〜、いや、あるな、国のお偉いさんが犬貰った話は前世でも聞く。


「其方は小鳥が欲しいのか?」

「小鳥は庭園で歌ってるとたまに勝手に来るのでお気になさらず」



 むしろふわふわ猫が欲しい。


「歌うと鳥が……。 其方やはり天使の類いだったか?」

「そんなはず無いでしょう。 植物が育つと虫がどっからともなくやって来るので……餌場になるのです」



 多分。


「夢も希望も無い言い方をするな」


「庭師がせっせと害虫を駆除してますよ、いい加減、唐辛子やニンニクとかで自然農薬作らないと……」



 焼酎が無くて保留にしたんだわ。


 ぶつぶつと言ってると殿下が、食事のメニューを聞いて来た。

 は! やばい、そっちが本題だった。


 とにかく殿下に食べさせる物、健康にも良い食材を使わないと。

 もう玉ねぎで良いや。玉ねぎ様は偉い。優秀な野菜だもの。


「お、オニオングラタンスープを作ります。

厨房に移動します、殿下は入らないで下さい、料理人が怯えますから」

「む、そうか、残念だ」


 プレッシャーで包丁とか持てないから。


 私の事はいい加減慣れて貰ってるけど、殿下ともなれば話は違う。


 鍋にバターを入れて熱し、玉ねぎを入れて弱火であめ色になるまでじっくり炒め、

 甘みを引き出す。


 鶏がらスープを入れて強火にし、沸騰させた後に弱火で5分ほど煮る。

 塩こしょうを入れて味を整え、更にバゲットとたっぷりチーズを入れてオーブンで焼く。


「この隙に鶏肉に小麦粉をふって卵液を絡めてあるやつ、それ、鶏肉を揚げて」


 下拵えしていた鶏肉を料理人達に揚げて貰う。


「はい、お嬢様」


「香ばしい香りが広がり、食欲をそそりますね」厨房の料理長が言う。

「違いない」


 料理人達が口々に言う。


「チキン揚がりました!」


 料理人達の報告が上がる。

 

「よし、じゃあオニオングラタンスープ、少し味見して良いわよ、お好みでパセリを振ってね」



 待ってましたとばかりに飛びつく料理人達、微笑ましい。


「めちゃくちゃ美味しいです!」

「ほっこりするお味ですね」


 うん、評価も上々。


「後はさっき揚げて貰ったチキンでチキン南蛮とサラダと、追加のバゲット」


 基本的にお肉食べさせておけば良いでしょ、男の子だもの。


「チキン南蛮の揚げ物には甘酢ソースとタルタルソースを付けてお出しして」


 と、料理人に指示を出す。

 甘酢ソースに使う醤油の代替品は味噌の上澄み液。


 さて、お待たせしてしまった、実食タイム。

 殿下には使用人も使う食堂では無くて、貴族用テーブルの有るもっと良いお部屋に移動して貰わないと。


 オニオングラタンスープは熱々のうちに目の前のイケメン(父)もしくは美女(母)を眺めつつ食べよう。


 本当は秋に食べたいメニューだけど、暑さがあれど我々にはクーラー杖が有るんだ、恐れる事は無い。


「別の食堂に移動します。そこに料理が運ばれて来ますので」



 殿下は頷いて素直に私についてきた。

 

「香ばしい香りがして来て気になっていたんだ、どれも美味しいな」



 殿下の言葉にお父様も頷いている。


「特にこの鶏肉の揚げ物、ソースも美味しい」


 と、殿下が付け加えた。 男には肉だよね〜〜やっぱり。

 チキン南蛮ね〜〜。


「このオニオングラタンスープと言うの? とても美味しいわ」


 お母様が褒めてくださった。

 今回私が張り切って作ったのはこのオニオングラタンスープだった。


 どっちかって言うと、女性に受ける味よね、知ってた。

 たまに発作的に食べたくなる料理の一つ。


 クーラーの杖で部屋を冷やしているのでほっかほかの熱いものでも辛くない。

 しかし名称を何とかすべきだと自分でも思う。涼風の杖とかで良い?

 でも冬は炎の魔石に入れ替えて温風も出したいのよね、エアコン杖じゃん。


 面倒だ、エアリアルステッキにしようか。


 ちなみにエアリアルで思い出したけど、妖精のリナルドは私の自室で寝てたはずがいつの間にかテーブルに盛ってあるフルーツ籠の葡萄を食べに来ている。


 「明日の早朝にまた浄化の為に領地の畑へ行きますので」お父様の言葉に 「了解した」と、殿下が美味しい料理にゴキゲンになって応えた。


 張り切って作ったオニオングラタンスープがチキン南蛮に負けたようなので、夜はお庭バーベキューにしようと思った。

 やっぱり肉でしょ。 お肉が良いんでしょ?

 

 串に刺したお肉をスパイスかけて焼くだけ!

 でもスパイスの力でだいぶん味は上がるから、それに夏と言えばバーベキューだもんね。

 とうもろこしも焼いて食べよう。


 問題は串焼きは齧り付く料理なので、お母様の目……えーと、串から外す?

 それなら許されるかな。

 焼き鳥屋さんなら、せっかく刺したのにって内心ガッカリしてしまうでしょうけど。


 いや、ステーキスタイルで焼くと言う選択肢も有るか。

 ステーキならお城でも最強級のお肉で食べてるだろうけど……問題は……誰と食べるかではない?

 

 お好みの美女、イケメンを眺めながらお食事して下さい!


 夕食はバーベキューにしようと考えた所で、しばらく城で見なかったエルフのアシェルさんが現れた。



「しばらく魔の森で狩りをしてたんだけど、嵐の気配を察知して戻って来た」 


 エルフがマントを畳みながらそう言った。

 嵐って、台風?


「それって、今夜?」


 窓の外を見ると急に暗い雨雲が広がってる。


「ああ、今夜だよ」


 私の言葉にそうキッパリと答えた。


 エルフの天気予報は当たるので、今夜のお庭バーベキューの予定はお流れである。

 違うメニューにしようか、もうハンバーグで良いか。

 煮込みハンバーグにしよう。


「嵐って言っても前回復活させた地域の収穫は終わってるよね、じゃあ城の中で大人しくしてれば良いかな」



 浄化ツアー出発は翌日の朝だから、大丈夫かな?


「そうだね、城の中で大人しくしてればいい」



 アシェルさんがそう言ったので、夜は少しだけ何か手仕事でもやろうかなと、

 私は考えを巡らせた。

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