新緑の章
第28話 夏の再会
4歳で前世の記憶を取り戻した私は今、8歳になっている。
ポンプ、ひき肉製造機、精米機等を作って売ったり、
シャンプーとリンス、石鹸も工場を作って生産性を上げて売ったり、
色々頑張っていたら、三年経った。
私の誕生日のしばらく後の大きな出来事は7月の始まりの頃にお母様が第二子を出産した事だ。
念願の元気な男の子ですよ。命名「ウィルバート」
ウィルが産まれたのは澄み渡る美しい青空の日だった。
君の未来が多くの輝きに満ちていますように。
赤い髪はお父様の遺伝を感じるし、アイスブルーの瞳はお母様の遺伝を感じる。
もちろん出産のお祝いにはパーティーをした。
鉄分、カルシウム、葉酸が授乳期に必要だった気がする。
牛乳、ほうれん草、小松菜、ブロッコリー、いちごとかの栄養を摂って貰う。
お母様のお食事は油や砂糖を控える。
体を冷やす飲み物も控える。野菜も火を通す。
とにかく母子共に健康に過ごして貰えるよう気を使う。
夏。
真っ青な空に入道雲、太陽が眩しい晴天。
今日のコーデは白いノースリーブのワンピース。
それに麦わら帽子とサンダルを装備。
なのでひまわり畑かリゾート地の海とかであったなら完璧だった。
まあ来たのは王都の市場ですけど。
私はいつものように姿変えの魔道具を使って亜麻色の髪と茶色い瞳に変装。
魔道具のブレスレットは手首に花飾りを付けた布を巻き付け隠してある。
夏の暑い日にもかかわらず、また転移門を使って、王都の市場に買い物へ来たという訳。
お供はエルフのアシェルさん。
彼のコーデは白い薄手の長袖シャツ、二の腕を見せた腕捲り。
パンツは薄い茶色にサンダルは革製の調整可能なダブルベルトが付いててオープントゥ。
つまり、つま先と踵が見えるよ、サンダルなので涼しげ。
更にいつもの鞄と変装になってるのか、なって無いのか分からない眼鏡付き。
でもイケメン眼鏡は素敵なのでかけててくれていい。
道行く人がこちらを可愛い〜とか綺麗〜とか言って振り返るから、
この装い、おかしくはないのだろう。
もっとも、綺麗と言われてるのは、隣を歩く眼鏡イケメンエルフに対してかもしれない。
市場で買い物を済ませて、昼に近い時間になった。
最後に寄った布屋の近くでダックスフントに似た黒っぽい犬を連れたガイ君と
久しぶりに…また出会った。
いつものお付きの人達も一緒だ。ガイ君が成長しても、お供の方は元から大人でたいして変わらないから、分かる。
イケメンエルフはさらに外見年齢に変化が無い。
エルフを連れてる女の子って多分珍しいから、あちらも私が分かると思う。
……ガイ君は10歳くらいになってる? 背も結構伸びたね。
彼も夏らしく白いシャツを着ている。
手首には青いバンダナのような物を巻き付けている。
黒いサラサラの髪は、以前より輝いて見える。赤い瞳は……驚きに見開かれている。
私はにこりと笑って見せたけど、何か固まってる。 どうしたの? フリーズして。
久しぶりに会ってびっくりした? 頑張って再起動して?
急に犬が私の方に走り寄って来て、なんと、
私のスカートの下! 足と足の間に頭を突っ込んで来た!
「きゃっ!」
思わず悲鳴が!
「ああっ!! なんて事をするんだ!
たとえ、まだ小さくても婦女子のスカートの下に入るなど!」
大慌てでぐいっと紐を引っ張って犬を自分の方に引き寄せるガイ君。
「こ、このスケベ犬は俺の犬では無いからな! たまたま散歩を頼まれて!」
「だ大丈夫よ、今日は日差しが強いから、このワンちゃんは日陰に入りたかっただけかも」
「す、すまない、アリア」
ガイ君が真っ赤になって謝罪をした。
「ほら、足の短い犬種だし、太陽の熱を吸収した地面も熱くなってるし、噴水とか川のある涼しい所に連れてってあげたら?
ペット連れはオープンカフェっぽい所以外のお店はちょっと入りにくいだろうし」
私の提案により、噴水広場に来た。
木も植えてあり、街中の憩いの公園って雰囲気。
夏の照りつける太陽の熱から逃れるように木陰のベンチや噴水の側で涼みに、結構な人が来ている。
普通のよく見るタイプの縁に座れるタイプの丸い噴水と、
子供が遊んでも大丈夫な感じの足首が浸かるくらいのごく浅い噴水があった。
何人かの子供が裸足になって水に足をつけている姿が見える。
……しかし私は何故うっかり一緒に行動しているのか。
水場に行けばと勧めたのは私だが、一緒に来る必要はあったのか。
犬を連れて半歩くらい先を歩くガイ君について、噴水の方へと歩いている。
久しぶりに顔見知りにあったから……つい?
いやいや、そう言えば渡すものがあったのよ、だから──……
「あっコラ!」
ガイ君が急に声をあげる、犬のリードが彼の手から吹っ飛んだ!
あ───っ!! 犬が浅い噴水に飛び込んだ!
急に猛烈に引っ張られてガイ君が持ってた紐をうっかり離したようだ。
強引にリードを引っ張ると首輪をグッと引っ張る事になるから、強く引き留められなかったのだろうか。
人様の犬だから?
「やっぱり暑かったのね」
バシャバシャと水場ではしゃぐ犬を見ながら、私は確信した。
あ、でも、待って、水に飛び込んだって事は上がった後に……。
ああ〜〜絶対、体をブルブルして水飛沫撒き散らすやつだ!
ザバン! あ──っ!! ワンちゃんが水を滴らせて上がって来た!!
ガイ君と私の前に来て、ピタリと足が止まった。
ヤバイ! やられる! と、思ったら。
スッと私の前にガイ君が立って、見えない壁を作って、水飛沫から守ってくれていた。
「魔法?」
私は我知らず口にしてしまった。
「あ……」
ガイ君がついうっかり、条件反射で。みたいな顔してる。
「ありがとう、濡れずにすんだ」
私は目を伏せて彼の顔を見ないようにお礼を言って、もう魔法の事は言及しなかった。
深く突っ込むのはやめよう、藪をつついて蛇を出したくないから。
お互い、深い詮索は無しで。
犬はガイ君のお付きの人が回収した。
「と、所で、今日の服は、ぬ、布地足らなかったのか?」
言われて顔を上げて見れば、ガイ君が左手で自分の左右の肩のあたりを押さえて
「この辺とか」と、言葉を続けた。
「肩が紐のノースリーブが珍しいのね、これ、最新の夏の装いよ、涼しくする為に袖を無くしているの」
と、いう事にしておく。強引に。
「そ、そうなのか、最新の」
「ほら、スカートはふわりと広がるくらいたっぷりと布を使ってあるでしょう?」
私は白くて軽やかなスカートを軽く摘んでクルッと回ると、ふわりと風をはらむ。
「あ、ああ確かに」
おや? ……ガイ君の顔が赤いな。
しかし、よもやノースリーブで貧乏を心配されたとは。
「それにしてもワンちゃんを預けてもらうなんて、信頼されているのね」
「体よく使われてるだけだと思う」
「信頼されてると考えた方が幸せでは?」
「……楽観的だな、アリアは。どうせ外に出るなら散歩に連れて行けと、押し付けられただけだぞ俺は」
ガイ君はため息をつきながら一瞬遠い目をしてそう言った。
「ふーん」
まあ、深く突っ込むのはよそう。
「あ、えーと、だいぶん会って無かったな。」
ガイ君が会話を変えて来た。
エルフのアシェルさんは私の近くでずっと静かにしてるけど彼を興味深げに見てる。
……何?
「冬に、聖者の星祭り行けなくてごめんね。
まだ今よりも小さかったし、酔っ払いとかいるから無理だって、お父様に言われて」
とりあえず謝罪しよ。
「いや、多分無理だろうとは思ってたし、俺の方も結局街へは出られなかった」
「そうなんだ、寒い中、待ちぼうけにさせずに済んだなら良かった」
そう言ってから、私はアシェルさんの方を振り向いた。
「はい、これだね」
と、アシェルさんが魔法の鞄と見せかけた亜空間収納から山葡萄の蔦で編んだバッグと
布で包んだ三段重ねの長方形のお弁当を出して、私に渡してくれる。
「金貨3枚は貰い過ぎたなって、これどうぞ。暑いから、傷む前に食べてね」
持ちやすいようにバッグにお弁当を入れて渡す。
大きめの三段にもなるお弁当の中身はおにぎり弁当。
唐揚げに豚の腸詰めに卵焼き。
彩りにプチトマト、きゅうりの浅漬けなどを詰めてある。…口に合うかな?
今回はお付きの人も食べれるように大きいのを用意しといた。
唐揚げとかは爪楊枝のようなおかずピック付きで刺して食べれるようにしてある。
箸は付けても使えないと予想したから付けて無い。
まず、何この棒?と思われかねない。
お弁当はもしもまた王都で偶然会ったらあげようと、会えなければ、
自分達で食べようと思って用意していた。
亜空間収納の中は傷む心配が無い。
「別にいいのに……でも弁当は貰う。お前のくれる食べ物……美味いから」
ガイ君は柔らかい笑顔でそう言った。
ガイ君は犬のリードを持ってるから、大きめのお弁当はお付きの人が受け取った。
「正直でよろしい」
私はクスっと笑って、
「じゃあ、元気でね、またどこかで偶然会えるかは分からないけど」
私が次の約束もせずに、お別れの言葉を告げると、とても寂しそうな顔をされた。
「そう、だな……」
彼のサラサラの黒い前髪の隙間から見える赤い瞳が揺れていて、とても辛い気持ちになったけれど
なんか魔法を使えるあたり、ガイ君は、貴族の落とし種のような気がする。
……だから、深入りは危険な気がした。
夏の日差しが肌を焼き、赤くなって痛みを伴う前にそろそろ逃げた方がいい。
───次に会う約束も無しに、ガイ君とはそこで別れたけれど……
後に驚くような再会をする事になるとは、その時の私には知るよしも無かった。
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