第27話 春のお庭ピクニック
昔の外国の子供によく着られてた憧れのエプロンドレスというか、ワンピースの上にエプロンが付いてるお洋服を数日かけて作る。
背も少し伸びた事だし。
まあそう考えるとメイド服もエプロンドレスと言えるのか。
でも私が作るのはメイド服と違ってAラインの服。
腰のあたりが絞られていない。
グレーと茶色の生地を買ってエプロンの下に着るワンピースを作った。
ちなみに上のエプロンの色は白。何色にも合う。
見本として茶色のだけ先に作ってグレーのワンピースは外注、
城内アルバイトに出した。型紙もちゃんと渡した。
臨時収入が欲しいメイドさんが空き時間や寝る前にコツコツ縫ってくれた。
銀貨3枚とおまけにシャンプーとリンスと石鹸をあげる。
シャンプーとリンスまで付くなら私がやれば良かった!
と、言ってたメイドさんがいたらしい。
ごめん。
うちのシャンプーとリンスはまだ量産体制に入って無いからごくわずかの数を城内で売っていて、
皆、これで髪が一際美しくなるのを知ってお金を貯めて買ってると聞いた。
夫や恋人などがいるメイドさんは彼氏もとても喜ぶと言ってるし、
なんなら騎士達も買ってる。
流石身嗜みにも気を使うイケメン達。
私は茶色のエプロンドレスを着て裏庭に出る。
これは子供の普段着だもの、これなら多少汚しても大丈夫。
5月は夏野菜の植え付けのラストスパートの時期。
土いじりをまたやるので豪華じゃない服を作った。平民服よ。
平民服だけど、メイドさん達は声を揃えて「「可愛いです!」」と、言ってくれる。
分かるか、君達もこの服の良さが!
実際こっちの世界の平民の子供が市場でツギハギのワンピースとエプロンを着てたから、イケると思う。
ツギハギなのは補修の後だろう。
* * *
土魔法で畑を弄る。
海辺の工房に行く途中の牡蠣小屋っぽい所で貰った貝殻を砕いて細かくしたのを混ぜて土を作る。
多くの植物は酸性土壌が苦手らしい。
なので酸度を中和できる石灰を混ぜ込む。
カキ殻は、海のミネラルをたくさん含んだ天然の石灰。
とりあえずお父様に炎の魔法で貝殻を焼いて貰ってから細かく砕いた。
雑菌対策として。
それにアシェルさんが集めてくれた腐葉土も土に混ぜる。
カキ殻はアルカリ性が弱い緩効性石灰なので二週間も待たずに使える。
そして土魔法で畝を作る。「畝立て」である。
鍬を振り上げるより楽で良かった。
作った土でせっせと植え付ける。いい土になってる気がする。
卵の殻も良いカルシウムになるから、厨房で料理人に言って捨てずに取っておいて貰っている。
今年も美味しいお野菜が収穫出来ますように!
光と植物魔法の魔力を練って、苗にすくすくと育て〜とばかりに祈る。
キラキラと魔力の光が苗に注がれる。
いけそう。
ポーションで育てた松の木にも同様に成長を促す。
すくすくと育て!
* * *
魔法はイメージの力で割と色々出来ると分かったので、
今度は…土魔法でレンガを作り、更に硬化させる。
火に負けないように頑強に耐熱処理をする。
裏庭に石窯を作ってしまった。
お庭でピザが焼ける。 扉を付ければパンも焼ける。
お庭キャンプだ。
完成した石窯でピザを焼いていると騎士達が寄って来た。
……ね、狙われている!!
「匂いを嗅ぎつけたのかしら?」
窯から目を離さずに私が言うと、
「セレスティアナお嬢様、水くさいじゃないですか、お手伝いしますよ」
ナリオがキメ顔でそう言った。
「ナリオは本当にピザが好きね」
私はクスリと笑う。
「私は親戚の結婚式の為、一旦里帰りしたついでに帰城途中、森で鳥を狩って来たんです。
どうぞ、お納め下さい」
後ろ手に隠し持っていた大きな麻袋をドンと目の前に出して来た。
私の側に置いてある木箱の上に置いて貰って、中を確かめる。
「わあ! ありがとう! ……ってコカトリス?」
結婚式の帰りに何してんの。
コカトリスは大きな鳥型の魔物肉、食用可でかなり美味しい。
「美味しいので」と、ナリオはニッコリと微笑んだ。
──では、期待に応えましょうか。
「このお肉で追加のピザを作って焼きましょう、あなた達、沢山食べるのだから」
「何でも手伝います」
騎士達がいい笑顔で言った。
味噌の上澄み液を醤油の代用品として、コカトリスの照り焼きピザを作りましょう。
実は照り焼きピザが一番好きなのよね、子供受けする味で、美味しい。
──まだ子供味覚なので。
とりあえず先に焼いたピザは一旦アシェルさんの亜空間収納に入れて冷めないようにする。
厨房に移動して騎士達の男前クッキングが始まる。
料理人達がびっくりしてる、マジでごめんなさい。
でもガタイの良いイケメン達が5人も厨房にいて料理してる。
カメラと動画配信出来るサイトが有れば配信したい。喜ぶ女性が多いだろうに。
料理人が呆然と見守る中、男前クッキング下拵え編は無事終了して、
庭の窯の前にまた移動してピザを焼く。
────美味しそうに無事焼けた。
「おお、焼けた──!」
騎士達も手伝ったピザがいい色で無事焼けて満足気であった。
食欲をそそるいい香りが立ち登る。
……ゴクリ。すぐ側から生唾を飲む音が聞こえた。
「せっかくなので、庭園のお花を見ながらピザを食べましょうか?」
と、私は提案した。
5月の庭園は陽光に煌めき色とりどりの花達も美しく咲き誇っている。
芝生に布を敷いてピクニック気分で。
「「良い提案だと思います」」
騎士達が声を揃えて言った。イケボで。
ふと、どんぐりをあげたレザークを見て思い出す。
「どんぐりはほっとくと虫が湧くけど、ちゃんと捨てたんでしょうね?」
「魔法師に頼んで保存魔法で保護して貰ってますから、大丈夫です」
虫など寄せ付けませんとドヤ顔である。
こやつ、いつの間にそんな事を! どんぐりに本気すぎる。
その後、庭園の柔らかい芝生の上に布を敷いた。
鮮やかな芝生の緑色ときなり色の敷き布。コントラストが美しい。
美味しそうなピザ、瑞々しい果物に飲み物もトレイの上。麗しい両親や騎士達もいる。
なんならエルフまでいる。伝説級。
最高にフォトジェニック。 もはや、眩しい……。
春のお花を見ながらお庭ピクニックピザパーティー開催。
皆と楽しくお食事。
……切実にカメラが欲しい。動画も撮れるやつ。
私は人がキャンプやピクニックで美味しそうに食事してる風景を見るのも好きで
よく動画配信サイトで見てた。
わいわいやってて楽しげで好きだった。 自然が豊かで風景が良いとなお良かった。
人が楽しそうに食事したり遊んでるのを見るのが……好きなんだ。
ふいに「照り焼きピザ最高!」と、ナリオが力強くそう言った。
めっちゃ同意────!!
* * *
ギルバート視点
王城内の自室で歴史の教科書を読んで予習をしている所に、
側近が二つの瓶を持って来た。
「なんだ?」俺は赤茶色の髪の側近のエイデンの顔と瓶を見て言った。
「知り合いの結婚式でライリー辺境伯領の城内で働いている騎士と会ったんですが、男性なのにふわりといい香りがするんですよ、香油ほどキツイ香りじゃなくて、何なのか聞いたら、シャンプーとリンスと言う洗髪剤の香りだと言うのです」
「これがそのシャンプーとリンスと言う物か?」
俺は二つの瓶をじっと見る。
何か液体のようなものがうっすら見える。瓶の透明度は高くは無いのでうっすらだ。
「はい。少しだけ融通して貰ったので、殿下にも差し上げますね、お土産です」
「そうか、ありがとう」とりあえずお礼は言っておく。
「せっかく……夏野菜の苗を売ってる時期に市場に行ったのに、先日はアリアちゃんに会えずに残念でしたね」
エイデンが突然アリアの名前を出して来て驚く。
まさか、最近微妙に落ち込んでる俺を励まそうとしてるのか?
「別に城下の市場に行けば毎回会えるとは……思っていない」
なんとなく春になれば会えるかもと言う期待を多少はしていたが
やはり無理だった。
「それ、女性受けも男性受けもするらしいです」エイデンはニヤリと笑って言った。
「ふん」
一人で良い香りになっても肝心な相手に会えなければどうにもなるまい。
「さて、学校へはまだ行く気になりませんか?王族ですし、途中編入も可能ですよ」
「家庭教師で十分だ」
あんな所、何も楽しく無い。
どうも友達を作らせたいらしいが、第三王子の肩書きに寄って来る人間など……
鬱陶しい。
側近がため息を吐いたと思ったら、部屋にノックの音が響く。
背の高い黒髪の男の家庭教師が来た。「授業の時間だ」俺がそう言うと、
側近はすぐに部屋の端の椅子に移動して待機する。
今日も退屈でつまらない日常の始まりだ。
「殿下、せめて今日が地理や歴史や宗教学でなく魔法の授業だったらな……と、思ってる顔ですね」
──バレたか。
やれやれといった雰囲気だが、怒る事もなく、家庭教師の授業は始まった。
夜になって入浴時に、例のシャンプーとリンスとやらを使われた。
髪を乾かして天蓋付きのベッドの中で寝返りをうつと、ふわりと優しい香りがした。
その香りに包まれていると、なんとなく……アリアの顔を思い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます