第26話 土魔法

 土魔法の練習をします。せっかく精霊の加護を賜ったので!


 神殿で貰った教本によれば、まず、体に魔力を循環させる。

 …………魔力を感じる。


 ……温かい、これが魔力か……。


 土魔法は創造魔法の系統で、イメージの力でわりと好きな形を作れるそうだ。

 私はオタクだし、妄想力や想像力はわりとある方ですよ。


 なので私は作る! アレを!


 モコモコと土が盛り上がり、イメージ通りの形を成す。

 カチーン! …………次に、強固に固める! 固定! ガチーン!


 イメージするのは美容室で客が髪を洗って貰う時の倒した状態の椅子!


 更に追加で!

 ボコッ、モコモコモコモコ! 椅子の隣の土が盛り上がり、形を成す! カチーン!


 頑強に! 固定! …………ガチーン! 

 できた! 洗髪台! (洗面台みたいなやつ)


 洗髪台から下の管を通って下の方で洗い流したお湯を受ける桶か何かを置くかなと思っている。


 まあ、リクライニング機能は無いし、クッション性もゼロの、石で出来た椅子の彫像のような物。


「お、お嬢様、こんな所……お外に重そうな物、作ってどうするんですか?」

 メイドのアリーシャが椅子の重さを心配して声をかけて来た。


「こんな時こそ亜空間収納よ、お父様かアシェルさんの手が空いたら、一旦収納して貰ってお風呂場に移動して貰いましょう」


「あ、なるほど! 亜空間収納!」


 アリーシャも合点がいったようだ。


「この倒れた形状の椅子をお風呂場でどうするんですか?」


「髪を洗って貰う間、これに横たわるの。

風呂浴槽のヘリに頭をもたげて浴槽の外で桶に髪を入れ、洗って貰ってたじゃない?」


「はい」


 アリーシャはそう言って頷いた。


「これは洗って貰う人は横になってて、洗う人は立って洗うの。

床に膝をつくより痛くないと思う」


 膝と腰の負担が減る気がするの。


「なるほど! 心使いに感謝致します」


 ただ、クッション性が美容室のと違いゼロなので……


「横になる人の下にはなんか痛くないよう布を敷き、全裸のままお湯の外で横たわるのは同性相手でも恥ずかしいから洗ってる時はタオル、いえ、布を掛けるなり浴衣を着る事とする」


「はい!」


 ほどなくして、アシェルさんが通りかかったので作った物を収納。

 そして浴室まで移動して貰った。


 * * *


 お茶の時間。


「ティア、精霊の加護の儀式の後のパーティーの料理が美味しかったとか、お土産が嬉しかったとかのお礼状が届いていますよ。本当に私の手柄みたいにして良かったの?」


 お母様が私の前に手紙を差し出して言う。


「大人は5歳の子供に物を貰うより、領主夫人から貰った方が目をかけられてるとか、大事にされてる感あって嬉しいはずですよ、何も問題ないです」


 私はにこりと笑ってお母様にそう言った。

 そして一応手紙に目を通してから、手紙を返却。


 * * *


 夕食の準備時間に私は厨房へ向かう。


 おにぎりを作るためだ。


 精米機はうちの分は完成したので販売分を追加で発注している。

 お米が楽に食べられる、感謝します、天才アルケミスト。


 お椀、おにぎりケースはうち用。

 お椀を二つ合わせてバーテンダーのようにシェイク。

 塩を振って、完成とする。おにぎりは6個作った。


 夕食、いえ、貴族的には晩餐の時間ですか。


 貴族的な長くて大きいテーブルにお父様とお母様と私が着席する。


「メニューはファイバスと鯖の塩焼きとアオサのお味噌汁です」


 と、私は両親に説明した。


「何故ティアのファイバスだけ三角や丸く形を作ってあるんだ?」


 お父様が私が自分用に握ったおにぎりを見て不思議そうに言った。

 両親のはお皿に盛ってある。

 お茶碗をまだ作っていないので。


「塩鯖に既に塩を使ってるのにおにぎりにも塩を振ってあるのです、大人はちょっと

塩分減らそうかと、健康の為に……私はその、我慢出来ずに」


 テヘペロみたいな顔をする私。

 お父様はそうなのか。

 と、一言言って納得したようだった。


 おにぎり美味しい〜〜!!

 米サイコー! ……ファイバスだったわ。


「これは……海藻?」


 お味噌汁のお椀を手にしてお母様が中身を探るように見ていたので説明をする。


「アズマニチリン商会から届いたアオサですよ。お味噌汁にこれを入れるだけで具になるのです」


 お母様は恐る恐るアオサのお味噌汁を口にした。


「あら、美味しい」


 お母様は味にほっとした顔になった。


「そうだな、不思議な食感だが、悪くない」


 と言った、お父様も柔らかい表情なので嘘ではないだろう。

 おにぎりを作る時に使ったお椀でアオサのお味噌汁を食べる。


 あ〜〜美味しい〜〜。


 鯖も忘れてはいけない。

 ほくほくに焼けた塩鯖を食す。最高〜〜。


「うん、魚も美味いな」

「ええ」


 そうでしょう!


 私は丸いおにぎりを一つ食べた。海苔で巻いていないので手で掴むのは諦めた。

 手掴みは……怒られそうなので……自分用に作った箸で食べる。

 握った意味とは…とか考えてはいけない。


「皿に残してあるおにぎりの残り5個をお父様の亜空間収納に入れておいて下さい。

お父様と家令と文官が仕事中に小腹が空いた時に食べて良いですよ」


「そうか、ありがとう」


 笑顔でそう言って素直に収納してくれた。


 今夜のお食事も両親は美味しいと言ってくれた。

 口に合って良かった!



 * * *


 翌日。


 ビーカーとかの実験セットでラベンダーやゼラニウムで精油なども作る。

 オリーブオイルは流石に自領の庭分だけでは足りなくて他領から購入している。


 良い香りがするシャンプーとリンスを作った。


 よし、洗髪台も出来てるし、お母様の所に行こう。


「お母様、髪を洗わせて下さい」

「え?……私の髪をティアが?」


 お母様が目を丸くした。


「お母様の洗髪係にもシャンプーとリンスを使った洗い方を教える必要が有りますので」


 私がそう説明すると、


「恐れながら、いきなり奥様に使って大丈夫ですか?」


 お母様付きのメイドが心配そうに聞いて来た。


「ああ、なるほど、実験台になってしまうのね。じゃあ、試してみたい人はいる?」


 別に私が試しても良いのだけど、手順を説明するのには人にやった方がいい気がした。


「私が!」


 お母様付きの蜂蜜色の金髪メイドのメリッサが立候補した。

 流石の忠誠心。


「じゃあ、メリッサ、あなたね」


 と、私は金髪をメイドらしくひとつに纏めている彼女を見て言った。


「お嬢様に洗っていただくなんて恐縮ですが」

「気にしないで」


 メイド達がずらりと並んで見学に来た。

 

 石の椅子に横たわるメリッサはバスローブっぽい浴衣を着せてある。

 体の下には撥水性のある、獣の皮を痛くないように敷いてある。


 私は身長が足りないので踏み台に箱を用意してそれに乗った。

 椅子の前に立ち、シャンプーを掌に乗せて、メリッサの髪に撫で付け、そして泡立てる。

 わしゃわしゃわしゃわしゃ。 

 泡泡泡泡泡泡泡泡! 泡立てる!


「そして指の腹を使ってマッサージする様に……。痒い所は無いかしら?」

「ああ〜大丈夫です、気持ちいいです、それにとっても良い香り…」


 うんうん、人に髪洗って貰うの気持ちいいよね。


「さて、リンスをしてから……濯ぎ作業、お湯で流す」


 桶からお湯を掬ってサアーっと洗髪台でお湯を数回かけて流し……


「…………はい、これで終わり」

と、解説終了。


「ありがとうございました!」

 サッパリした顔をしたメリッサにお礼を言われた。


 私はにこりと笑って指示を出す。


「あとは翌日になって、髪や頭皮や肌に何か異常がないか確認して」

「はい、分かりました」


 真面目な顔で返事をするメリッサ。


 * 


 翌日、お母様付きのメイドのメリッサが、輝きを増した金髪を誇らしげに下ろしていて、良い香りがするサラッサラの髪を見せてくれた。


 彼女が首を傾げて見せると、煌めく蜂蜜色のブロンドが流れる水のカーテンのようにサラリ…となる。


 ……良いね、実に美しくて良い。

 

「何も問題はありませんでした! 艶が出てサラサラになって嬉しいです!」


 と、報告をうけた。


 ヨシ! 成功。


 この後、メイドであるメリッサは下ろしていた髪を仕事の邪魔にならないように纏めて上げた。

 でも表情はニコニコなまま。


 シャンプーとリンスの無事の完成に、神様に祈りと感謝を捧げましょう。

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