第22話 会えない時間
〜 (ギルバート視点) 〜
一方、時はやや遡る。聖者の星祭り当日 王都の王宮の朝。
「ギルバート様、今日の外出は無理ですよ、祭りには王族も出席しますから、
準備に時間がかかります」
いつもの側近が言う。
俺は豪奢な室内で窓を開け、朝の冬空を見ていた。
城内は慌ただしく祭りの準備をしていて多くの人間が動いている。
庭園にも星を眺める為に数多くのテーブルセットや焚き火の用意がされている。
外の星見席が使われるのは夜だ。
楽団や歌い手の為のステージも用意されてある。
俺の部屋の中は暖炉も有るし、火もちゃんと入ってる。
だけど俺が窓を開けているせいで、肌を刺すような冷気が入って来る。
でも王城内の空気を吸うよりは良かった。
「あんな小さい女の子が祭りで人が増えて酔っ払いも増える日に、来る訳ありません、
親が外に出しません」
「それもそうか…危ないか…」
そんな気はしていた。
でも、アリアの天使のような愛らしい姿を見てると、 嫌な事がひと時忘れられた。
だから、隙あらば探しに出たくなるのだ。
「既に金貨の贈り物も先に渡してありますし」
「冬支度に使っただろ」
金は使えば消える物だ。
「きっと殿下のお金で美味しいものを食べて感謝してますよ」
側近はそう言いながら窓に近寄って来る。
「それなら、……まあ、良いか」
俺は軽く頷き、白い息を吐く。
窓は開け放ったまま。
「寒くないですか? いや、寒いですよ、換気は十分です。もう窓を閉めましょう、空なら、今夜の祭りで堪能出来ます」
ガタンと、側近が強引に窓を閉めてきた。
今は諦めて従うしか無い、王子とは言え、正室の子でもない、
俺はろくな後ろ盾も無い、無力な子供でしかないのだから…。
「湯殿の準備が整いましてございます。その後、正装にお召し替えを」
王宮の侍女が声をかけて来た。
「分かった」
王や王妃、兄上達のいる昼食会にも出ろという事だな。
城下街の祭りの賑わいに想いを馳せつつ、風呂に向かう。
「あ、刺繍のハンカチを用意しておいてくれ、蔦のやつ」
侍女に指示を出しておく。
「かしこまりました」
アリアの刺繍のハンカチは執事の手配により、魔道具店より一枚だけ蔦模様の物を確保出来た。
正装をしたらポケットの中にお守りとして入れておこう。
憂鬱な食事会はそれで乗り切る。
ちなみにリスの刺繍は相変わらず壁に飾っている。
鑑定鏡を持つ従者が、蔦のハンカチには守護の魔法相当の力が刺繍から感じられると言っていた。
あの幼い女の子はなんなんだ、天使が人間のふりをしてる訳じゃないだろうな?
しかしそれなら何故貧乏なんだ。
謎である。
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