第21話 聖者の星祭りと贈り物

「聖者のお祭りの日?」


 お父様の執務室で、お伺いをたてる私。 


「その日は城の皆を労ってサロンで夕食会をするのだろう?」

「はい、でもそれは夜です、昼は王都等に行く予定はありませんか?」


「私は仕事をしているし、ティアも昼は夜の為の準備で忙しいのでは?」

「基本的に料理をするだけなので前日までに作って、

亜空間収納に入れておくとかいう選択肢もあるかなって」


「冬だし、寒いぞ、せめてもう少し大きくなってからにしなさい」


「……昼からでも、お祭りともなれば出店とかあったりしませんか?」


「もちろんあるぞ、その分、人はいつもより多い。

昼間から酒を飲んでる奴もいて、治安も悪化する。

……そんなに出店が気になるのか? 市場で串焼きも食べただろう」


 もしかしたら待ってる人がいるかもとは言いにくいな。

 何しろ時間も待ち合わせ場所も決めてない。


「買い忘れた物があるなら使いを出すか、商人を呼びなさい」


 ……どうも、無理みたい。まだ私は小さいもんね。ごめんね、ガイ君。


「分かりました……」


「お嬢様。きっとすぐに大きくなれますよ」


 文官が慰めの言葉をかけてくれるけど、それはそれで抱っこや添い寝をお願いしにくくなるデメリットが有るのよね。


「ありがとう……」


 一応お礼は言うけど、 ままならないものね。

 

 * * *


 冬、12月も半ばを過ぎた頃、祭り当日。厨房にて。


 ドライフルーツ入りのパウンドケーキとシュークリームを作る。

 試食タイム。


「なんですか? この美味し過ぎる食べ物」


 シュークリームを試食しつつ料理人が感激してる。


「シュークリームよ」

「こっちのパウンドケーキとか言うのも、大変美味しゅうございます!」

「うん、ケーキは美味しいわよね」


 甘い物は素晴らしい。幸せの味。


 これで作り方は教えたので以後は頼めば作ってくれる。


 そして美味しそうに焼いた鳥の丸焼き。

 冬の祭りと言えば鶏肉が食べたくなる条件反射的に。


 パーティーと言えばピザだね。と言う事でピザも追加した。

 更にフライドポテトも。甘いシュークリームの後で塩味が欲しくなる人もいるでしょう。


 ……そして漫画肉!!

 厨房で美味しそうに焼き上げた漫画肉を前にして感動する私。

 焼き立ての湯気もたってる…美味しそう。


「今から目にする事は、秘密よ」


 厨房でやおら不穏な事を言う私に料理人達は驚きでビクリとし、体を固くした。


 憧れの漫画肉!

 骨を両手で掴んで、端っこをガブリ!


 なんとパーティーが始まる前に私は一人、漫画肉に齧りついたのだ!

 厨房で! 作業台の前に置いた幼女の低い身長をカバーする足場の上に立ったまま!


「お、お嬢様、何を」


 モグモグモグ…。おお、肉汁が口の中に広がる! 美味しい……!!


「……やってみたかったの、大きいお肉に齧りつくの!

お父様とお母様には内緒よ、行儀が悪いと怒られるから!」


 淑女にあるまじき姿。


「は、はい……」


 唖然とする料理人達。


「これは、私用のお肉だから良いの」


 と、私は真面目な顔で言った。


「そうだったんですね」


 納得した料理人達。せざるを得ないが。


「…くっ」


 厨房の入り口から漏れて来る笑う声。

 アシェルさん! 何故厨房に!? 美味しそうな匂いに釣られて来たの!?


「み〜た〜ぞ〜」 

「見なかった事に」


 アシェルさんがからかうように笑ってる。

 お願いします! と、私は懇願する。


「どうしようかな〜」


 しゅたっ! 私は足場から飛び降りて、たたたたっ! と、漫画肉を掴んだままアシェルさんの眼前にダッシュ。


「食べて!」


 ぐいっと重量挙げのように漫画肉を掲げる私。


「!!」 


 アシェルさんの前には美味しそうなお肉!


「美味しいわよ!」


 一瞬の逡巡のうち、…パクリ。食った! 長い足を折り曲げ、屈みつつも!


「これで共犯よ!」

「ははは、ホントにティアはしょうがないなあ」


 アシェルさんは体を起こし、背筋を伸ばしてから笑った。

 お互い、端っこから食べたのでまな板上で、そこら辺を包丁で切り落とす。


「──何も、無かったわ」


 嘘であるが言い切る。


「それ、食べかけはどうするんだい?」

「非常食よ。しまっておいて、亜空間に」


「え、ジーク達には食べさせてあげないの?

そのために端っこ切ったのかと」

「食べかけなんだもの。お父様達には……別に焼くわ。

大きい骨付き肉を、もう一つ焼いてちょうだい」


 まだ時間はあるから、料理人に追加で指示を出す。


「はい」


 速やかに準備にかかる。


「家族だし、切り分ければ良いのでは」

「このお肉は齧り付くものなの」


 それがベストなのよ。

 まあ両親は齧りつかず、切り分けて上品に食べるでしょうけど。


「そうなのか、しかし、非常食って?」

「そのままよ、お腹が空いたら食べるの」

「クク、ティアは面白いなあ」


 ってまた笑ってるわ、このエルフ。


 もしかして、私、「おもしれー女」判定かな。

 いや、おもしれー幼女だわ。

 漫画肉に齧り付く幼女はレアかつ、面白いのかもね。


 ……ん? でも待って?


「お父様は元冒険者じゃない! 大きい骨付き肉に齧り付いたりしてなかったの!?」

「それは……してたけど」


 アシェルさんは明後日の方向を見て言った。


「ほら、お父様がしてたから、良いのよ」


「ふふ……いや、良くはないよ」


 おかしげに笑ってるけどマジレスをしないで!


「ジークは今と身分が違うし、ティアは産まれた時から令嬢だよ?」


 何故今更正論を……! 共犯じゃないの!


「私には冒険者の血が流れてるからこの血には抗えなかったの!」

「そんな言い訳有るか!?」


 エルフの突っ込みを聞かないふり。

 何も聞こえなーい! と、言いつつ耳を塞いで厨房から出る事にする。


 出口付近で一瞬振り返って言う。


「後は任せたわね、厨房の皆さん」


 お騒がせしてごめんね。


「はい、お嬢様!」


 厨房の皆さんは素直で大変結構。



 さあ、ドレスに着替えて自分の身支度を本格的にして、女性達に花飾りを配るわよ!


 今夜は聖者のお祭りの夜だもの! 窓の外はもう夕闇に包まれている。

 

 お父様がお母様の髪に花飾りを着けるのを目撃しなくちゃ!

 推しのスチルが有ればフルコンプしたい派だもの。

 記録がセーブ出来なくても、せめてこの目に焼き付けなければ!。


 花飾りは女性達に大変喜ばれた。嬉しそうな女性を見るのは良い気分だわ。


 お父様がお母様の髪に花飾りを飾るのも見られた。


 ……素晴らしい。

 うーん、絶対美麗スチルなのに、記録出来る魔道具は無いのか。


 美味しいご馳走達も全部揃ってテーブルに並べられた。

 サロンも城の人達で賑わっている。


 髪飾りを着けたメイド服の女性も頬を染めて口々に「似合うわよ」等、褒めあっている。

 愛らしい。


「お嬢様、本当に素敵な贈り物をありがとうございました!」


 女性達に口々に礼を言われた。


「良くってよ!」


 私はまだろくに無い胸を張った。(4歳)


 あ、そうだ、今夜は無礼講だそうよ。


「良い聖者の夜を! 聖女と冬の星々に乾杯!」

 

 ワインの入ったゴブレットを掲げたお父様のイケボが響いて祭りは本格的に始まった。

 窓の外には冬の星達が輝いている。


 だが、誰も星を見ていない、ご馳走やお酒に夢中になっているようだ。

 「何これ美味しい!」などと言う声があちこちで聞こえる。


 一応、領主一家、騎士様達、使用人達でテーブルは分けてある。

 アシェルさんはお父様のお友達なので領主一家のテーブルに混ざってる。


 同じテーブルだと無礼講とは言え、平民は料理に手を伸ばしにくいかもという配慮にて。 


 てか、騎士達の食べっぷりがすごい。


「おい、お前、もう少し味わって食べたらどうなんだ?」


 同じ騎士でも優雅な銀髪のイケメンが嗜める。


「味わってたら無くなりそうなんだよ」


 一方、食い気に支配されている騎士よ……。

 ……味わって。


 まあ良いわ、皆、楽しんでね。


 お父様とお母様からの私への贈り物はなんと植物図鑑!

 アリーシャの私への質問は欲しい物のリサーチだったみたい。

 やったー! 今度いっぱい植物を調べてみよう。


「丁寧に刺繍してあるな、ティア、ありがとう」


 贈った刺繍入り手袋を見て、お父様が言う。


「その手袋嵌めてみて下さい」

「今?」

「今です」


 私が促すと、素直にはめるお父様。


「どうだ?似合うか?」

「……最高です! 次は外して下さい」


 植物図鑑を抱きしめながら満面の笑みで言う私。


「まあ、貰ったばかりで汚すわけにはいかないしな」


 お父様はそう言って素直に手袋を外すが、真意に気が付いていない。


「ティア? 着けたり外させたり、何がしたいの?」


 不思議そうな顔をして私に問うお母様。


「そのまんまです。手袋を着けたり外したりする様を眺めるんですよ」


 セクシーでしょう?


「??」


 お母様にそういう性癖は無いようだった。首をこてんと傾げた。


 なんと勿体無い。この良さがお分かりにならない。


 けどイケメンが手袋はめたり外したりする仕草が好きな女性が多いのを、私は知っている!

 (前世ではスーツの男性がネクタイを緩める仕草が好きな人も多かった)


 周りを見やるとメイドさん達がキャッキャしながらお父様を見てる。

 ほら、ご覧なさい、私は間違っていない。


 ──おっと。 お母様への贈り物は髪飾りのみでは無い。


「スミレの刺繍のハンカチね、綺麗に出来ているわね。上手よ、ありがとうティア」


 花のような笑顔で頭を撫でて貰った。うふふ。極上の美女(母)に褒められた。

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