第20話 お祭りの用意

聖者の祭りの日に向けて、立体的な布花の髪飾りを作ってみる。

この世界における接着剤をアシェルさんが持っていたから、作れそうな気がしたの。


まず、花びらの型紙を作り、必要な枚数と大きさに切る。


接着剤は水で薄めて花弁に程よい硬さを持たせたり、ほつれ止めの為に使う。

皺を寄せて立体感を出しつつ縫う。


私が横長の大理石のテーブルの上で材料をひろげて、内職のようにお花を作ってるとノックの音が響き、

「失礼します」と、アリーシャがお茶を持って来た。


「ごめんね。こっちの机は空いてないから、お茶は向こうのテーブルへ置いてちょうだい」


 広い部屋なので、テーブルは他にも有る。


「お嬢様、何を作られているんですか?」


「この薄い紫の花飾りはお母様に、聖者のお祭り用プレゼントよ。

花弁の色は私用のとお揃い、花芯は違うけど」


「まあ……とても素敵ですね」


 アリーシャがうっとりとした顔で言う。


「旦那様にも何かあるんですか?」


「お父様には手袋の端に守護の祈りを込めて刺繍をして渡すの」

「きっとお喜びでしょう」


「ところでこちらの白いお花は城の女性達に贈り物の髪飾りよ。

アリーシャの分も有るから」


「え、私達にまで!?」


 アリーシャが驚愕に目を見開いた。


「せめて多少はお祭りっぽく、城の女性達の髪にも飾って欲しいなって、

主人側の私達と全く同じ色だと着けにくいかもだし、色は白に変えてるの」


「…城の使用人の女性用なのに白のオーガンジーまで重ねて

花びらに使うんですか?贅沢な上にとても綺麗で可愛いですね」


 自分達用と聞いてマジマジと見てくるアリーシャ。


「しかも花芯の部分に透明感のある青の魔石が、なんて綺麗なんでしょう、

これは本当に使用人如きがいただいても良い物なんですか?

祭りの後に返却しなくても良いのですか?」


 アリーシャはやたらと念を押して来た。


「私からの贈り物なんだから返却はいらないわ。

この花芯は屑魔石をくっつけたのよ。

屑と言われるだけあって魔力はほぼ無い、でも色はとても綺麗だからアクセサリーに良いなって、城の宝物庫で色が綺麗なだけで役に立たないと放置されていたものをお父様に欲しいと言ってみたら下さったの。


他の使用人達にはまだ内緒にしておいてね。

合わせる服が無いとか悩ませたくはないから。

私はメイド服が可愛いと思ってるし、その服のまま髪に飾ってくれたらそれで良いの」


 それは、本心だった。メイド服大好き。

 ドレスも着せてあげたい気もするけどね。


「まあ、皆絶対に喜びます」


 アリーシャは目をキラキラと輝かせて髪飾りを見ていたんだけど、ややしてからハッとした顔になる。


「あ、お茶をお淹れしますね!」


 ティーセットをテーブルに置いただけでまだカップにお茶を注いでなかったと思い出したようだ。


 冬は庭のお花も少ないので、実は祭壇用も作って祭りの前にいち早く飾った。

 こちらの花飾りは白いオーガンジーと青の生地で花弁を。

 花芯の魔石は水晶を使った。神様用に屑魔石は使えないので。



 お祭り当日になったらお父様にお願いしよう。

「お母様の髪にお父様が花を飾るシーンがまた見たい」って。


 お母様の分の花芯は屑魔石ではなく、ちゃんとしたアメジスト色の魔石。

 私の分は屑魔石で十分なので透明の屑魔石。


 それとお母様には追加で幸せと守護の祈りを込めてハンカチも。

 すみれの花の刺繍入り。

 お母様はすみれの花が好きだから。


 ところでパーティーでは憧れの漫画肉を食べてみたいと思っている。

 メインは鶏肉の予定だけど、一つくらい漫画肉があっても良いのでは?

 骨付きの大きいお肉。

 骨を両手で掴んでかぶりついてみたい。


 でも両親の前では無理だわ、なんとかこっそりと……食べられないものか。

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