第19話 はじめての……
ガイ君へのお返しを考える。
でも待って、彼は私を平民だと思ってる。
まだ小さいのにハンカチに刺繍して家計を助けるくらいの貧乏人だと思ってるから多めに施してくれてるわけだ。
持てる者が持たざる者にくれてるわけだ。
しかも中身はともかく今の私は四歳の小さい女の子よ。
屋上で剣の鍛錬をする4人の若いイケメン騎士達。
顔で選ばれたのかと思うほど皆顔が良い、謎。
ちなみに何で屋上で鍛錬をしているかと言うと屋上菜園だ。
ついでに水やりをしてくれてるらしい。
優しいじゃない。屋上に水を運ぶのは何気に大変だから。
最年長の眼帯さんだけ別の場所にいるみたい。
あの方は男らしい低い声と言うか、バリトンボイスで好き。
私はレザークの前に『ある物』を握りしめて立つ。
屋上は風が強い、私の長いプラチナブロンドがふわっと靡く。
「お嬢様、おはようございます、お早いですね」
朝日を浴びて美しい銀髪が煌めく。
素振りしていた剣を腰にしまい、私の前で片膝をつくレザーク。
騎士然としている。
「おはよう」
「これを 遣わす」
私はキリっとした顔でスッと手を出す。
「え?」
と、言ってレザークは手のひらの上に置かれた物を凝視する。
「どんぐり……?」
「いかにもどんぐりよ。お父様と紅葉を見に行った時、記念に拾ったの」
「四歳の平民の女の子が富豪の少年へお返しにあげるものなんて普通このくらいでは?
と思い至ったのよ」
綺麗な貝殻、綺麗な形の良い小石、春なら野の花って選択肢もあったけど。
これはベストアンサーでは?
「な、なるほど!」
どんぐりを握り込むレザーク。
「じゃあ、返して」
「え、下さったのでは? 今、遣わすとおっしゃいましたよね」
「だって、どんぐりよ? 本気で欲しい訳ないでしょう?」
「しかし、これはお嬢様から初めて賜った物ですし」
「ただのどんぐりよ!
そんなの大事に持っててどんぐり卿とか言うあだ名が付いたらどうするの!?」
くっ。
たまらず、会話を聞いていた周りの騎士達が吹き出した。
肩を震わせ、笑いを堪えてるようだ。
「いや、しかし、せっかくの」
まだどんぐりを手離さないレザーク。
「良いから、せっかくのとか考えなくても!
あなたは私が平民ではないのを知ってるし、食べ物をあげるわよ。
金貨相当の価値があるんでしょ」
「いえ、やっぱりこのどんぐりをいただきます。嬉しかったので」
「嘘よ!」
「他の騎士はまだ誰もお嬢様から直接何かを貰ってないので!
自分が一番なので!」
何か誇らしげに笑っている!
「……そんな、冗談なのに」
「お嬢様、お顔がリンゴのように真っ赤になってますよ、愛らしいですね」
レザーク黙って! あ──っ! 顔が熱い!
ちょっと銀髪イケメンの困惑する顔を拝もうと思っただけなのに。
「……はあ、そんなバカな」
自業自得ではあるけど項垂れる私。
「お嬢様! 俺達にはどんぐり無いんですか!?」
他の騎士達が騒ぎ出した。
「もう! 馬鹿な事言わないで!」
お前達は皆「どんぐり卿」(笑)になりたいのか!
私はダッシュで逃げ出した。
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